先日掲載の記事で、トランプ大統領の対中外交を予測する重要要素として、バイデン政権が中国とどのように対峙してきたかを詳しく振り返った富坂聰さん。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では富坂さんがそのさらなる一助とすべく、バイデン政権時のアメリカと中国はライバルだったのか、それともパートナーとして歩んでゆくつもりだったのかというポイントにフォーカスし、両国の関係性を再検証しています。
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※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:バイデン政権の対中政策とは何だったのか 閣僚・高官の言葉から振り返る
「立場を鮮明にせよ」と迫る習近平。中国と米国はライバルなのか、パートナーなのか?
まずは2つの発言を比べてほしい。
「(米中の)競争が衝突にエスカレートしていくのを防ぐために、コミュニケーション・チャンネルを維持してゆくことだ」(アントニー・ブリンケン前国務長官『フォーリン・アフェアーズ・リポート』2024年11月号)
「まず答えを出すべきは、中国と米国は一体ライバルなのか、それともパートナーなのかという問題だ」(習近平国家主席『人民網日本語版』2023年11月16日)
先に紹介したブリンケンの言葉は、米中が責任をもって競争を管理する、いわゆるガードレール論だ。
対する習近平の発言は、アメリカに対し「立場を鮮明にせよ」と迫っている。
互いの発言を並べてみると、米中の考え方の違いが鮮明に分かる。
バイデン政権は常に中国とのコミュニケーションの維持に熱心であり、中国は時に長期にわたり会談を拒否し続けた。
中国が会談に消極的だったのは、話し合いの成果が現実の米中関係に反映されないとの不満があったからだ。いわゆる「言行不一致」批判である。
中国側には、アメリカは会って話をすれば耳にやさしい発言をするが、実際の行動はそれとは違い中国の発展を阻害することばかりするという印象が残った。
ジョセフ・バイデン前大統領は首脳会談で「(アメリカは)『新冷戦』を求めず、中国の体制変換を図らず、同盟関係の強化を通じた中国への対抗を図らず、『台湾独立』を支持せず、中国との衝突発生を求めず、台湾問題を利用して中国と競争することはない。また、『一つの中国』政策を引き続き遂行していく」と繰り返し約束している。
しかし実際には中国の体制を「非民主」と批判し、同盟・友好国との関係を強化して包囲網を築き、中国にプレッシャーをかけるために台湾を利用し、関税と輸出制限で経済を弱らせようと試みた。
中国にしてみれば「言っていることとやっていることが違うじゃないか」となる。
だが、アメリカ側が単に中国を欺く目的のためだけに会談を持ち掛けたのかといえば、決してそうではない。
競争を管理しようとする試みはバイデン政権の閣僚たちにも共有されてきた。
例えば、前回紹介したジーナ・レモンド商務長官は、輸出規制が貿易戦争やデカップリングに陥らないように気を使っていたと、昨年12月6日7日のレーガン・ナショナル・ディフェンス・フォーラムの講演で語っている。
デカップリングについて、「愚の骨頂だ。それは米中の競争をエスカレートさせ、(最終的には)アメリカ自身を傷つけることになる」と全否定した発言だ。
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米中逆転を有無を言わせず阻止するのが当然と考えるアメリカ
バイデン政権の大統領補佐官(安全保障担当)ジェイク・サリバンも、ジャネット・イエレン財務長官の言葉を借りて、以下のように語っている。
「イエレン長官はスピーチのなかで、『われわれは中国の経済成長を抑制しようとはしておらず、すべての国が安定した経済を持ち、それが国民に恩恵をもたらすことは、世界全体の安定につながる』という見解を示した。国民に恩恵をもたらす安定した経済が機能することはどの国にとっても良いことで、世界全体の安定と国家安全保障にとっても良いことだ」(2023年4月27日 ブルッキングス研究所)
いずれも大国間の競争に一定の抑制を効かせることの重要性に言及していて、米中双方にとって前向きな作用が期待される発言と考えられた。
しかし中国側は当初こそこうしたアメリカ側の発言を額面通りに受け止めた。しかし、後には単なる「口実」と考えるようになった。
繰り返しになるがバイデン政権の閣僚たちはトランプ政権への交代に際し、中国と理性ある競争ができたことを誇っている。彼らには「努力」や「工夫」だったと理解される。
つまり一方が「努力」としたことを、一方が「詭弁」ととらえるすれ違いだ。
なぜ、そうなるのか。背景には、米中それぞれの競争に対する認識のズレが存在する。
そのズレを簡単に言えば、中国は正常な競争の向こうに米中逆転というシナリオを描いているのに対し、アメリカは米中の逆転どころか、中国がアメリカの地位を脅かすことさえ受け入れ難いと位置付けている点だ。
米中逆転に繋がるとなれば、もはや手段を選ばない競争となる。有無を言わせず阻止するのが当然だとアメリカは考えるのだ。
では、アメリカは具体的に中国の何をとくに警戒しているのだろうか。
GDPでの追い上げか、はたまた軍事力の近接か。その範囲は広いが、バイデン政権はそのなかでも先端技術における圧倒的な優位の維持にこだわった。いわゆるスモールヤード・ハイフェンスの内側だが、これはバイデン政権最後の対中輸出規制で焦点を当てられたAIとそれにからむ半導体である。
この規制を有効に働かせるために欠かせないのが同盟・友好国だ。
「ポイントは、同盟国との協力だ。同盟国なしに戦争に突入することはできない。輸出管理も同じだ」(レモンド)
ブリンケンも「バイデン政権の戦略的第2の支柱(第1は投資)として同盟・友好国とのネットワークの再活性化だった」と位置づけていて、その結果「アメリカは4年前よりはるかに地政学的に強い位置にある」と結論付けている。
米中首脳会談でバイデンが「同盟関係の強化を通じた中国への対抗を図らず」と約したのに、堂々とそれを誇っているのは、ルールの下での競争とAIなど最先端技術で中国のキャッチアップを許さないということはまったくの別物だということなのだ。
しかし、どんな手段を使ってでも阻止したいアメリカの優位は、現実に守り切れるものなのだろうか。
中国にも対抗手段があり、その影響力はいまや決して小さくない。
サリバンは、クリーンエネルギーの未来の基幹となる重要鉱物をアメリカがほとんど生産していない現状をこう嘆いている。
「現在のアメリカが生産している重要鉱物はリチウムが4%、コバルトは13%。ニッケルと黒鉛については0%だ。これに対して重要鉱物の80%以上を生産・加工している国がある。中国だ」
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年1月26日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)
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