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石破、空気読め。八潮市道路陥没で日本に広がる“明日は我が身”感…道を歩けず風呂も入れずに何が「楽しい日本」か?

安心して道を歩けず、風呂や洗濯もできず、運が悪ければ穴に落ちて命を落とす。埼玉・八潮市の大規模な道路陥没事故は、わが国全土が“戦場”になったことを国民に気づかせた。この状況で「楽しい日本」を目指すなどと空気が読めないことを言っているのが石破司令殿だ。全国で老朽化するインフラの大崩壊をふせぐために、今どんな政策が必要か。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者で元全国紙社会部記者の新 恭氏が詳しく解説する。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:老朽インフラ対策を急げ。「楽しい日本」と言葉遊びしている場合か

日本全国すべて危険。どこが河やら道さえ知れず

「楽しい日本」だの、「令和の日本列島改造」だのと石破首相が言葉遊びをしている間に、この国は生活の土台から崩れかかっている。

1月28日午前10時前、埼玉県八潮市の交差点。トラックが左折しようとしたその瞬間に道路が直径5m、深さ10mにわたって陥没した。

トラックは頭から穴の中に落下し、74歳の男性運転手が土砂に埋もれて安否不明になった。下水の流入が続くなか救出作業が難航、一部地域で風呂や洗濯などの排水が制限され、長期間にわたり住民生活が大きな影響を受けている。

道路の地下を走る内径4.75mもの下水道管が何らかの原因で破損、そこに土砂が流入して地下に空洞ができたことによるらしい。下水道管は約40年前に埋設されたもので、汚水から発生する硫化水素のためにコンクリートが腐っていったようだが、つまるところは老朽化のせいだ。

現場は埼玉県が管理する幹線道路。多くの主要地方道と同じく巨大な下水道管が埋設されているが、交通量が多いゆえに設備改善を進めにくいという“落とし穴”がある。

下水道管の耐用年数は50年だが、場所によっては40年でもこのようなことが起こる。50年以上を経た下水道管は国全体の7%を占め、20年後には40%に達するというから、大変だ。

むろん、どんな道路でも油断はできない。その下には下水道管だけでなく、水道管、ガス管、電話、電気設備など、ライフラインがいっぱい埋まっている。水道管の破損による道路の陥没が各地で頻発しているのは周知の通りだ。

道路もおちおち走れないとなれば、「楽しい日本」どころではない。今後、どこで道路が陥没しないとも限らないのだ。道路だけではない。橋もトンネルもだ。あらゆるインフラが経年劣化していっている。今、おそらく多くの国民が不安を抱いているだろう。

死なないのは運が良いだけ!? 2030年の絶望的なインフラ状況

日本のインフラは、1955年から90年にかけての高度成長期に集中的に整備された。このため、老朽施設が急激に増え続けている。

国土交通省が5年に一度行っている点検調査によると、全国の橋梁(約72万橋)のうち、2030年には建設後50年を超えるものが55%におよぶ。また、トンネルは約1万1000箇所あるが、そのうち50年以上の老朽施設が30年には36%にも達するという。

不安をあおるようだが、事実を事実として受けとめることも必要だ。

われわれ住民はともすれば目に見えない施設劣化への関心が低く、近くで事故が起こらないと問題視しない傾向がある。自分たちは大丈夫という心理メカニズム、すなわち「正常化バイアス」のせいだろうか。

インフラの老朽化に関係する事故でメディアに大きく報じられたものとしては、天井板が崩落し走行中の車両に乗っていた9名が死亡した「中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故」(2012年12月)のほか、東京都北区で水道管が破損し、周辺の道路が陥没、20戸以上が浸水(2018年7月)したり、和歌山市の紀の川にかかる水道橋の一部が崩落し、約6万世帯が1週間にわたり断水(2021年6月)したケースが挙げられる。

こうした事象が起こるたびに、メディアで老朽インフラの問題が取り上げられ、国会でも現状と対策についての質疑が繰り広げられる。しかし、その議論は長続きせず、いつしかメディアの報道も立ち消えになるのがお決まりのパターンだ。

通常国会がはじまったばかりの国会でも、老朽インフラ対策についての議論が行われている様子は今のところなさそうだ。

連日、テレビ画面には、不運なトラック運転手の救助作業が続く道路陥没現場が映し出されているというのに、実に不思議なことだ。

空気も本も読めない石破首相は堺屋太一を“誤読”している

石破首相は1月24日の施政方針演説で次のように述べた。

故・堺屋太一先生の著書によれば、我が国は、明治維新の中央集権国家体制において「強い日本」を目指し、戦後の復興や高度経済成長の下で「豊かな日本」を目指しました。そして、これからは「楽しい日本」を目指すべきだと述べられております。私はこの考え方に共感するところであり、かつて国家が主導した「強い日本」、企業が主導した「豊かな日本」、加えてこれからは一人一人が主導する「楽しい日本」を目指していきたいと考えております。

世の中の雰囲気を変えたいと思ったのかもしれないが、「楽しい日本」というキャッチフレーズに違和感を抱いた人は多いようだ。

「苦しい国民生活の状況を認識していない」(国民民主党 古川元久代表代行)

「最終的な目標として“楽しい日本”を目指すことは必要です。そのためにもまず作り上げるべきは“強い日本”では」(自民党 小野寺五典政調会長)

緊張感を増す世界情勢に不安を抱き、重税感と物価高に苛まれ続ける一般市民の心情に寄り添うことをせず、カラ元気を促すような虚しい文言を振りかざしても、無神経と思われるのがオチだ。よく言われるように「空気が読めない」ということか。

そもそも、堺屋氏の言いたかった「楽しい日本」とは、関西・大阪万博を後押しする意味も含まれているわけであって、その著書『三度目の日本 幕末、敗戦、平成を越えて』からも「楽しい日本」の具体的なイメージを読み取るのは難しい。

石破首相は「すべての人が安心と安全を感じ、自分の夢に挑戦し、『今日より明日はよくなる』と実感できる国家」だと言い、「令和の日本列島改造」を政策の柱に掲げるが、地味なわりに膨大なコストと人員を要する老朽インフラの管理、補修という項目は抜け落ちている。

夢のある新規事業も必要だろう。しかし、現在の生活を維持するためのインフラがあちこちで壊れはじめたら、「すべての人が安心と安全を感じる」などということは夢のまた夢である。

国民は、地味な石破首相に浮ついた政策など求めていない

むろん、人口減少、少子高齢化が進むこの国で、インフラの維持管理を行うための財源を安定的に確保するのはむずかしい。このため、国土交通省は2013年に「インフラ長寿命化計画」を策定、不具合が生じる前に対策を行う「予防保全」への転換により、コスト縮減をはかろうとしている。

ドローンやAIを活用した効率的な点検方法も実用化されつつある。

ただ、計画はしっかりあっても、財源不足、技術系職員の減少の課題が解消されない限り、実行は覚束ない。

日本における公共事業予算の配分は、近年「新規建設」から「維持・管理」へとシフトしてきたのは確かである。しかし、インフラの老朽化スピードに対策が追いついていないのが実態だ。今後10~20年でインフラの維持・管理を適切に行わなければ、重大な事故が増加し、国全体の経済活動や安全に深刻な影響を与える可能性がある。

インフラの維持管理・更新は「現状維持」にすぎず、莫大なコストがかかるわりに、新規建設ほど政治的に目立たないこともあって予算計上が後回しにされがちだ。つねに選挙のことが頭を離れない政治家にとって、国民へのアピール力に欠ける政策に過ぎないからだろう。

しかし、なにより今の生活の質を落とさないことが、消極的なようでいて実はもっとも前向きな政策ではないか。

「楽しい日本」が上滑りのキャッチフレーズにならないために、石破首相は地に足をつけた施策に重点を置くべきではないだろうか。持ち前の地味さ、真面目さ、人のよさで勝負したらいい。浮ついた夢を語るより、暮らしを支える政策こそ、石破首相にふさわしい。

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image by:首相官邸

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