中国の大手自動車メーカーBYDが発表した「先進自動運転技術」によって、オーナーたちからの苦情が約4万件と過去最高になっていることをご存じでしょうか。日刊で中国の自動車業界情報を配信するメルマガ『CHINA CASE』では、その発表内容と、中国国内のオーナーたちから苦情が殺到し大炎上している現状について紹介しています。
BYDのADAS「天神之眼」発表に従来オーナー苦情爆発、大炎上
BYDが独自ADAS(先進運転支援システム)「天神之眼」を発表、王朝・海洋のほとんどのモデルに追加料金なしで搭載するとした件で、従来オーナーからの苦情が殺到している。
中国自動車苦情受付サイト「車質網」の2025年2月の苦情受付総件数は4万件近くに達し、過去最高にとなった。
そのうち6割近くがBYDオーナーからの苦情。
BYDは時々従来オーナーから大量の苦情が寄せられ炎上するが、今までは販売にそう影響はなかったものの、今回の分量は過去の比ではない。
対応できるのか?
発表形式変更を強いられる
「車質網」に寄せられる月間の苦情件数は1~1.5万件ほどが平均で、2万件を超えたのも過去に一度きり。
この時もBYDのPHEVシステムの不具合が多く寄せられた。
「車質網」では毎月、苦情が多かった車種トップ30を発表しているが、今回、それを放棄。
史上初めて、「BYD 王朝・海洋」全車種という括りでの発表になった。
それによれば、「BYD 王朝・海洋」全車種に対する苦情件数は2万2283件、2025年1月が363件だったのと比べて桁が二つ違う。
何があった?
BYDは2025年2月10日、独自のハイレベルスマートドライビングシステム「天神之眼」を発表した。
天神之眼はA~Cに分かれ、それぞれ中国で常用される自動運転レベル2の、L2、L2+、L2++という階層に対応している。
L2に相当する天神之眼Cをほとんどの王朝・海洋に搭載、スマートドライビング版として価格も現状とほぼ据え置いた。
この分野でも本気を出し、価格戦を始めた形。7万元(約140万円)のEVの高度ADAS(先進運転支援システム)搭載車が、中国で登場する。
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予想を上回る苦情
これに対して、間違いなく従来オーナーからの苦情が殺到する、とその時点で予測していたが、その通りになった。
ただし、その際も、いかに苦情が殺到しようが、販売台数に影響もない以上、BYDは従来オーナー苦情対策の優れたスキームを有している可能性も指摘していた。
しかし、今回の苦情ボリュームは事前予想をはるかに上回る規模。
全中国の月間苦情件数が通常は1~1.5万件なのに、2月はBYD王朝・海洋だけで2.2万件に達した、その凄まじさからよく分かるだろう。
同じ価格の車を買ったのに、時期がずれただけで最新のADASの有無につながるのだから、従来オーナーはたまったものではない。
値下げの苦情は多い
価格競争が激しい中国では、BYDに限らず、どんどん引き下げられる価格に対して、従来オーナーからの苦情が集まりやすい。
今回BYDのインパクトがすごすぎて目立たないものの、長安の深藍(DEEPAL)も3車種が苦情件数トップ30以内にランクインしているが、いずれも価格引き下げが理由となっている。
いわば、BYDも他社と同様のことをやっているのだが、販売台数の多さによる規模の効果で、それを精一杯大規模に行うことで、類を見ない大炎上をしているというのが実態。
積極的に市場破壊
自動車の価格破壊はもはや中国において災害級のレベルに達している。
それがどんどん海外に輸出され、中国からデフレがあふれ出ている状態。
しかし中国勢は海外において、中国国内よりは定価で販売(それでもほかのメーカーと比べ段違いに格安)、利益を上げている、という構図。
「天神之眼」の華々しさばかり強調されるが、もう自動車販売は利益が出ない、というのが定着している中国において、今回のBYDのやりようは自ら市場を破壊している行為に思える。
BYD自身が中国国内の収益源としての新規事業ヒューマノイドロボットを構想していることが明らかになっているが、すでに自業自得感が漂っている。
出典: https://mp.weixin.qq.com/s/mpL_hkM-T0Jt_bewOAZ6NA
※CHINA CASEは株式会社NMSの商標です。
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