MAG2 NEWS MENU

拡声機停止・ビラ禁止…韓国・李新政権の融和政策に北朝鮮は「夢に過ぎない」と無関心

韓国の李政権が打ち出す南北緊張緩和政策は、就任から3か月を迎える今、実を結ぶどころか、北朝鮮側の反応は冷ややかなものになっています。今回のメルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』では、韓国・北朝鮮情勢に詳しい宮塚コリア研究所の代表である宮塚利雄さんが、南北関係の改善を掲げる李政権の試みについて詳細を語っています。

李在明政権の「南北緊張緩和政策」を意にも介さない北朝鮮

韓国の李在明政権が発足して3ヶ月になろうとしている。北朝鮮に強硬な姿勢を取った尹錫烈前政権の方針を転換し、南北の緊張緩和政策を打ち出すことが想定された政権の出帆であった。李大統領は就任初日の6月4日に親北学者の李鍾奭氏を情報機関である国家情報院の院長に指名した。李鍾奭氏は革新系の蘆武鉉政権で統一相を務め、北朝鮮を「主敵」と表現するのを躊躇する筋金入りの親北派の人物で、そのような李鍾奭氏を李在明大統領は外交・安保にも関連する主要ポストに指名したのである。

親北派の人物の重要ポスト登用に続き、李在明政権は6月11日には韓国軍による対北拡声機による宣伝放送を中断させた。尹政権の方針を転換し、南北関係の改善を目指す李政権の方針が反映された形だ。対北拡声機放送は尹錫烈政権時の昨年6月、北朝鮮がごみ風船を飛ばしたことに対抗し、2018年以来中止していた拡声機放送を再開させたものである。

北朝鮮側もこの宣伝放送に対抗して不快な音を出して対抗する「騒音放送」を流し、韓国側軍事境界線周辺では住民の間からこの不快な音を出す放送に健康被害を訴える苦情が殺到していた。韓国・国防省は「軍の対応態勢に影響がない範囲内で、南北間の緊張緩和の助けになる実質的な措置で、朝鮮半島の平和のための大統領の公約を履行するのが目的である」と説明した。李大統領は国民の要望を優先し、放送中止を実行し、北朝鮮側もこれに連動して放送をやめたので、住民から安堵の声が伝えられ、まずまずの評価を得た。この放送中止は北朝鮮側との事前協議はなく、緊張緩和のための韓国側からの先生措置であった。

この記事の著者・宮塚利雄さんのメルマガ

初月無料で読む

李政権が同時に進めたのは、北朝鮮に向けて金正恩体制を批判・暴露するビラを風船で飛ばしてきた韓国の団体に散布の中止を求めたことである。韓国政府は対北ビラ散布について、風船を飛ばす時に使用するヘリウムガスがガス管理法違反に相当するのをはじめ、複数の違法行為があると主張しているが、ビラ散布禁止は「憲法で保障された表現の自由と全面衝突する」ものである。

李政権はビラ散布への対応に苦慮した。特に、北朝鮮による韓国人拉致被害者家族で作る団体が、今年4~6月と3回のビラ散布を強行し、反対する住民と確執が深まっていた(この団体は東京でも風船ビラを散布する計画を立て、朝鮮総連前で実行しようとしたが、事前に日本側の公安関係者からの取り締まりで風船の打ち上げは未遂に終わっている)。この団体は7月8日に、ビラ散布の中止を宣言したが、李政権は強硬策を用いずに、説得という正攻法で成果を手にしたと自画自賛しているようだ。

さらに、7月に入り韓国の国家情報院が北朝鮮向けのラジオやテレビの放送を中止した。国家情報院は李鐘?院長の指示により、実質的な検討を経て、7月5日から15日に かけてすべての北朝鮮放送の送出を中止したが、これは北朝鮮が韓国向けの放送を中止したことに伴う「相応措置」と説明している。

中止になった北朝鮮向けのラジオ放送の周波数5つ、「人民の声」「希望のこだま」「自由FK」「自由コリア放送」と北朝鮮向けテレビ放送1つの計6つ。これは中央情報部時代(現・国家情報院)の1973年に始まって以来、52年ぶりに全面的に送出禁止となったことを意味する。

余談であるが、1973年は私が韓国に留学した年であるが、私が日本から持っていったソニーのラジオから聞こえてくる短波ニュースに、韓国の知人が「我が国からの北朝鮮向けのラジオ放送はつまらない、面白くない」と言っていたこと思い出した。韓国に脱北して来た多くの人が、「南朝鮮の放送を傍受して脱北を決意した」と語っているからには、ラジオ放送やテレビ放送が北朝鮮に与えた影響は大きかったのである。北朝鮮は李政権による宣伝放送中止についても「評価に値しない」と一蹴し、金与正朝鮮労働党副部長は韓国側の南北緊張緩和措置について「虚しい、夢に過ぎない」と批判した。

この記事の著者・宮塚利雄さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: Shutterstock.com

宮塚利雄この著者の記事一覧

元山梨学院大学教授の宮塚利雄が、甲府に立ち上げた宮塚コリア研究所から送るメールマガジンです。北朝鮮情勢を中心にアジア全般を含めた情勢分析を独特の切り口で披露します。また朝鮮半島と日本の関わりや話題についてもゼミ、そして雑感もふくめ展開していきます。テレビなどのメディアでは決して話せないマル秘情報もお届けします。長年の研究対象である焼肉やパチンコだけではなく、ディープな在日朝鮮・韓国社会についての見識や朝鮮総連と民団のイロハなどについても語ります。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」 』

【著者】 宮塚利雄 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎月 5日・20日 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け