日本人の自殺者が増え続けています。2025年版「自殺対策白書」や「過労死等防止対策白書」では、若者の自殺者の他に、大人の精神障害が増加傾向にあるとしています。我が国では、なぜ「生きる力」が奪われてしまっているのでしょうか? 報道番組「ニュースステーション」の初代気象予報士にして社会学者の河合薫さんは、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイー河合薫の『社会の窓』』で今回、こうしたデータをもとにしつつも、改めて「人は数字ではない」との思いを語っています。
「数」が隠す一人ひとりの人生
「国の豊かさとは何なのだろうか?」と改めて考えさせられる“リアル“が、次々と明らかになりました。
2025年版「自殺対策白書」によると、24年の小中高生の自殺者数は529人で、統計のある1980年以降で過去最多。10~20代の若者の自殺未遂では、市販薬などを大量服薬するオーバードーズが多くを占めていることが分かりました。
日本の10~20代の自殺率の高さは、かねてから問題になっていますが改善されず、先進7カ国(G7)で日本が最も高い深刻な状況が続いています。
その深刻さは、大人の世界も同じです。
28日、厚生労働省が公表した2025年版「過労死等防止対策白書」で、精神障害による労災請求件数が3780件と10年度の1181件から3倍以上に増加。脳・心臓疾患での労災認定は241件で、前の年より25件増え、3年連続の増加です。
請求に対する決定件数(不支給を含む)の原因別では、22年度に749件だった「対人関係」が、24年度は倍以上の1519件。パワハラ・セクハラも増えていました。
うつ病などの精神障害で労災認定を受けたケースについて業種別に発症理由を分析したところ、外食産業と自動車運転では、18%超が過労死ラインを超える残業だったそうです。
さらに、長崎労働局が長時間労働の情報提供や、過労死などの労災請求があった職場に立ち入り調査を行ったところ、267の事業場で違反が確認され、このうち60の事業場で、時間外労働や休日労働が月80時間を超える労働者が確認されたと報じられています。
結局、日本はこの20年間、いや、30年間変わっていないのです。
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自殺者の数、過労死の数、減少した年度もあります。
しかし、ここに示した“リアル“を引き起こした大きな原因は社会にあります。
経済・生活問題、仕事・学業に関するストレス、 過重労働、人間関係、将来への不安、孤立、いじめ、ハラスメント、家族との問題など、複数の社会的要因が複雑に絡み合い、「本当は生きたい」のに生きる力が奪われていくのです。
そもそも、なぜ、長時間労働がなくならないのか? なぜ、法律を守らない企業がいまだに存在するのか。しかも、政府は「働きたい改革」などと銘打ち、残業規制緩和に動いてるのですから、誰のための政治なのか。
それに・・・「人」は「数字」ではないと思うのです。
小中高生の自殺者数「529」という数字では決して知り得ない、一人一人の人生があります。「体温」と言い換えてもいい。数字にした途端、その人生が、温度が見えなくなる。過労死や過労自殺を余儀なくされた人たちは、私たちと同じ日常の中にいる「隣人」だったにもかかわらずです。
私は大学院のときに「量的な調査(アンケートなどを実施し統計的に分析する手法)だけに頼ると実態に合わないことがある」と何度も教育されました。
臨床でドクターを経験したのち大学院に戻った先生は、「質的調査(インタビューなどから分析する手法)は、個人的な意見で汎用性がないと非難する人が多いけれど現場でホントに生かされるのは、生の個人的な声だ」と教えてくれました。
その真意は「それぞれの人生があり、それぞれの事情がある」という、実にシンプルで当たり前のことだと改めて思うのです。
みなさんのご意見、お聞かせください。
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