中国は「スマート・コネクテッドカー(ICV)」分野で世界最先端を走っている印象を持っている方もいるかもしれません。実際に、急激な成長を遂げている中国メーカーですが、10月に中国・北京で開催されたWICV 2025では「違和感を覚えた」と、日刊で中国の自動車業界情報を配信するメルマガ『CHINA CASE』では語られています。その違和感の正体とは?
中国政府主催の路車協調世界イベント、中国勢各社が微妙な出展
北京・亦庄で2025年10月16日から18日にかけて、「世界インテリジェント・コネクテッド・ヴィークル・カンファレンス(WICV 2025)」が開催された。
表面的には“世界最大級のスマート・コネクテッドカーの祭典”を掲げながらも、何かちぐはぐだ。
中国メーカーも各社とも「出展した」という報告を出しているが、極めて低調で、地方モーターショーへの顔見世程度のものであり、新技術発表などはなかった。
中国でもあまり聞くことがなくなった路車協調(V2X)を掲げた公的カンファレンス、今回のWICVで明らかになった国と、メーカー側との距離感とは?
中国勢のやる気のなさ
まず、今回の大会の構成は「展示会+フォーラム+政策発表」という従来の枠を踏襲した。
だが、展示ブースに並んだのは理想(Lixiang)、小鵬(Xpeng)、蔚来(NIO)、ファーウェイなど既存大手が自社量産車。
各社ブース内でそれぞれ特色を出し、Liの場合はAIエージェント「理想同学(理想くん)」の大きなぬいぐるみを複数展示もしていた。
ただ自車両を出展しただけでは、モーターショーと変わりなく、少なくとも自社のコネクテッド分野の誇示をしてもおかしくはないところ。
企業にとってWICVは技術を披露する舞台ではなく、政策イベントへの「顔出し」を意味する儀礼的行事かのようである。
政府も新味のない動き
他方、政府側はこの大会をこの分野でも「国家が依然としてハンドルを握っている」ことを示す好機とみなし、あらゆる政策用語を総動員して産業ビジョンを再掲した。
工業・信息化部(工信部)、交通運輸部、北京市政府などが主催し、基調講演では「車―路―クラウド一体化」「安全可控」「標準化」「データ主権」といったフレーズが繰り返された。
だが、これらのキーワードは2018年以降、毎年ほぼ同じ内容で登場しており、技術的な新提案はほとんど見られなかった。
むしろ、AIやエンドtoエンド(E2E)によって自動運転が車両単体で完結しつつある現実に対し、政府が「依然として管理・統制の枠組みを持っている」と示すためのレトリックとして機能していた感が強い。
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AIの路車協調への浸食
実際、WICVで発表された「十大機能シナリオ」「標準化成果」「データ共有新范式」なども、研究機関や地方政府の既存プロジェクトを再掲したにすぎない。
V2Xや路側ユニット(RSU)整備は現場でほとんど進んでおらず、AIベースのWorld Modelやマップレス走行が主流となる中で、“路”の技術的意義は薄れている。
にもかかわらず「車―路―クラウド一体化」を強調し続けるのは、AIによる自律進化が進む産業を「インフラとデータの名の下に再統治する」政治的意図がありそうだ。
政府が掲げる“協調”とは、AIやクラウドの自由な発展を枠内に戻すための装置であり、技術主導の流れに対する統治的カウンターメッセージになりそうだ。
中国勢は調和を装う
企業側もそれを理解しているが、あえて逆らう理由はない。むしろ程よく「お付き合い」するほうが各社にとってもメリットは大きい。
国家級イベントへの参加はブランドイメージや官民協調の証として機能し、将来の政策補助や実証特区認可への“保険”にもなる。
Li、Xpeng、NIO、ファーウェイなどはそれぞれ独自のAI開発を加速させながらも、政府主導の展示会には形式的に参加し、調和を装う。
そこには明確な距離感がある。企業は「技術は自分たちが握るが、舞台は政府に譲る」という暗黙の了解を共有しているかのようだ。
その結果が地方モーターショーと何も変わるところがない、淡々とした車両展示のみの協力、という形になった。
体制秩序再確認の儀式
カンファレンス全体を俯瞰すると、WICVは技術革新の現場というよりも、体制の秩序を再確認する儀式のようであった。
地方政府にとっては「ICV産業都市」の看板を維持する機会であり、通信キャリアや国有企業にとっては展示予算を確保する口実でもある。
つまり、WICVは産業構造全体を包摂する“国家プロジェクトの演劇”であり、現実の開発主導権が企業に移った今、政府が依然としてモビリティ産業の「ハンドル」を握っているように見せるための象徴的舞台とも言えそうだ。
実際にはハンドルの動力はすでに車両=企業側に移っているが、政府はその上から手を添えているふりをしている。
WICV 2025はまさにその姿を体現したイベントと感じた。
出典: https://mp.weixin.qq.com/s/36dcKBarGe6Kq0hAgby7ug
※CHINA CASEは株式会社NMSの商標です。
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