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トランプと習近平が“次なる覇権”を賭けた「新たな戦場」。米国よりも中国で先に可視化され始めた「AIが人間の雇用を奪う」現実

習近平政権に対して敵意を剥き出しにしていたトランプ大統領の態度が一変し、融和ムードに入ったとの見方もある米中関係。しかしながら「覇権争い」は深く静かに進行していることは間違いないようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』ではジャーナリストの富坂聰さんが、両国が次なる戦場を「AI分野」に定めたとし、中国で可視化され始めた「AIによる雇用の代替」の現状を具体例を挙げ紹介。その上で、迫り来る「不可逆の未来」について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:米中のAIでの争いが人の生活を劇的に変えてしまう未来が見え始めた

見え始めた未来。米中「AI覇権争い」で劇的に変わる人間の生活

AI(人工知能)は人間の雇用を奪うのか─。

心配されていた課題が少しずつ、社会の中で浮き彫りになり始めた。

可視化される悩みに対して、人間社会はゆっくりと向き合ってゆく時間もなく、荒波に呑み込まれてしまう。そんな政治の動きも顕著になりつつある。

象徴的なのが米中だ。

アメリカも中国も、次の技術覇権を左右する最も重要なバトルフィールドをAIと定め、互いにアドバンテージを競い始めている。

そのことは10月末、APECが開催された韓国で行われた米中首脳会談ではっきりした。

今月8日にはドナルド・トランプ大統領がAIの承認プロセスに関する国内の規則を「一本化する」ための大統領令に署名した。

各州が持っていた規制の権限を奪うような大統領令には、以前からAIに携わる巨大企業からの不満が向けられていた。

ロイター通信は、

対話型AI「チャットGPT」の開発元であるオープンAIやアルファベット(GOOGL.O)、opens new tab傘下のグーグル、メタ・プラットフォームズ(META.O)、opens new tab、ベンチャーキャピタル(VC)大手のアンドリーセン・ホロウィッツは、各州の法律がイノベーションを阻害しているとし、50州ごとの個々の法律の寄せ集めではなく、国家レベルでのAI基準の制定を求めている。

と報じている。

つまり今回の大統領令は彼らの背中を強く押したことになる。

対する中国でも、国がAIの発展を全力でサポートする態勢が、日々刻々と整えられている。

そして「AIが雇用を奪う」現実が最も分かりやすく可視化され始めているのは、実は中国の方なのだ。

一つの顕著な例が、12月の上旬、フランスのテレビ局『F2』が「20H」という番組のなかで取り上げた中国のある工場のレポートだ。

冒頭、キャスターは「中国にはダークファクトリーと呼ばれる工場があります」と視聴者に問いかけた。

次に画面に映し出されたのは中国の自動車メーカー、ZEEKRの無人工場だ。

ダークファクトリーという呼び名がすでに禍々しいのだが、実際の映像はさらに迫力に満ちている。

レポーターは、「照明も暖房もない、完全に自動化された無人の工場」と説明しながら、薄暗い工場を、懐中電灯を手に進んでゆく。

まるで、かつて香港にあった九龍城砦(クーロン城)の中にカメラが潜入したといった雰囲気なのだ。

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IT系企業においても例外ではないAIによる人間の雇用縮小

聞こえてくるのは無機質な機械音だけ。見えるのは機会が作動していることを示す小さなランプだけ。

工場の中ではロボットが885台作業していて、それを管理する人間は100人と圧倒的に少ない。

工場長はロボット化を進めた理由をこう語る。

「人件費を削ることができるということもありますが、人間だと流れ作業でミスが出るので、機械の方がいい。だからZEEKRの工場は最初からロボットのために造られました」

人間には休息も必要だが、機械ならば24時間稼働させることもできる。

工場長は続けて言う。

「100%自動化され、AIが制御するのが、われわれが描く未来の工場です」

驚いたのは、そこで働くベテラン労働者の言葉だ。自動車メーカーの現場で経験を積んだベテランだが、彼はテレビの取材に「我々の仕事はいまやロボットの手助けをすること」と言い切るのだ。

すでにZEEKRは同じようなダークファクトリーを100カ所近く稼働させているというから、進化のスビートを意識しないわけにはいかない。

現状、人間の仕事は、主に故障やトラブルへの対処と、最終的な品質のチェックだけだというが、こうした作業もAIがどんどん進化することによって、いずれは任せられる時代が来るのかもしれない。

複雑の作業を担えるか否かの未来を決定するのが、AIの開発競争によって決まるのである。

一方、AIに圧されて人間の雇用が縮小されるという現実は、生産現場だけで起きているものではない。IT系企業においても例外ではないようだ。

中国のメディア『財新』は、11月29日にアップした記事「中国・百度が新たな人員削減、AI活用で余剰に?従業員の15~30%をカット、検索など旧来部門から新事業へのシフト鮮明」で、そのことに触れている。

記事の中では「AI時代に入った現在、従来型ネット企業は生産性や組織のあり方を見直さねばならなくなっているという。AIが人間に取って代わった結果生じた余剰人員が削減対象になっている」と断じているのだ。

アメリカに話を戻せば、気まぐれなトランプ大統領も、AIに関する政策ではブレることなく邁進している。

トランプ大統領のインタビューを読んでも、最新の『国家安全保障戦略2025』を見ても、そのことはよく分かる。

バイデン時代の「慎重な見極め」の雰囲気は完全に消えることになるのだろう。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年12月14日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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