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トランプに切り捨てられるという不安妄想。欧州各国が「プーチンと直接話さなくてはならない」と言い出した理由

ロシアを孤立させることにより、国際秩序を守ろうとしてきたはずの欧州。しかしここに来て、各国首脳の間に「プーチン大統領と直接話さなくてはならない」という声が広がり始めています。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、この突然の「方向転換」の背景を解説。さらにウクライナと欧州が直面しかねない「最悪のシナリオ」を提示しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:ロシアの復権?!‐ロシアの支持を取り付けようとする国際社会のジレンマ

透けて見える各国の本音。ロシアの支持を取り付けようとする国際社会のジレンマ

「プーチン大統領と直接話さなくてはならない」

先週、ミュンヘンで開催されたミュンヘン安全保障会議(Munich Security Conference)において、かなりの頻度で欧州のリーダーたちが口にした内容です。またその“認識”は、非欧州のリーダーたちにも共通しており、とても興味深く感じました。

MSCには日本からも茂木外務大臣や小泉防衛大臣が参加し、会議と並行してG7閣僚会合も開催され、その様子がお二方のSNSを通じて伝えられていましたが、カメラに映らない場所では、いろいろな駆け引きが行われていました。

ロシア・ウクライナ戦争の終わらせ方、ウクライナの安全保障の確約、ウクライナの復興…といったウクライナ関連の協議。

イスラエルによるガザへの攻撃の継続とガザ地区における人道状況の著しい悪化と、イスラエルによるヨルダン川西岸地区での入植地の著しい拡大に向けての懸念・抗議と、国際社会が取るべき対応について。

NATOの結束とグリーンランド問題。

アジア太平洋地域における中国を核とした安全保障上の懸念。

イラン核協議の行方と中東地域全体の安全保障。

崩れ行くアフリカ地域のデリケートな安定への対処。

そして、核保有国間の核軍縮を司る国際条約が無くなったことによるNPT体制への影響と、世界で広まる核軍拡の動きへの懸念。

いろいろな案件について非公式の協議が行われ、現状認識や具体的な解決方法などについて話し合われました。

大変光栄なことに、私もコロナ期を除きほぼ毎年、MSCにはご招待いただき、非公式な協議の場を梯子することが恒例となっていますが、今年の協議は非常に緊張感が高いものであったように思います。

その“いろいろな”場で必ずと言っていいほど耳にしたのが「世界はプーチン大統領と直接話さなくてはならない」という声でした。

ロシアはロシア・ウクライナ戦争の当事者ですから、「ロシアとウクライナの戦争の処遇についてプーチン大統領と話すべき」というのはもちろんのことですし、私自身も以前から「欧州首脳が挙ってキーウ詣でするのはいいが、それは戦争終結に向けては何ら効果がない。欧州各国が本気で戦争を終わらせたいと願っているのであれば、ゼレンスキー大統領ではなく、モスクワに飛んでプーチン大統領と直に話さないと意味がない」と言い続けてきたため、ロシア・ウクライナ戦争についての話題で「プーチン大統領と話さなくてはならない」という発言が飛び交うことは当たり前かと思います。

しかし、「プーチン大統領と話さなくてはならない」の対象が、ロシア・ウクライナ戦争に限らず、中東問題、イスラエルの暴走、グリーンランド問題、中東の安全保障環境、キューバの窮状、アメリカが牛耳ろうとしているエネルギー市場、そして核軍縮に向けた動きにも向けられたことに対しては、すこし驚きました。

この様子を見て、私もですが、多くの非公式協議への参加者は「ロシアがまた国際情勢の表舞台に戻ってきた」と感じました。

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安全保障会議で繰り返し出された欧州の「都合の良い主張」

もちろん戦争当事者であることから、ロシアがそのまま国際社会の表舞台に復帰してくることには、ネガティブな側面も多々ありますが、ロシアが行ったのと同じく、主権国家が隣の主権国家を力に任せて蹂躙し、力による正義を押し付ける手法を公然と取り始めるアメリカに対する対抗軸・バランサーとしてのロシアの役割を欧州各国が再度模索し始め、自ら(欧州)をその間に位置する“究極のバランサー”という役割に就かせようという、非常に都合の良い主張が繰り返し出されました。

現在、この「プーチン大統領との仲直り」的なお話しについて、欧州全域で共有されているわけではありませんが(ロシアの次のターゲットと言われるバルト三国やポーランドなどは非常に否定的)、フランスやイタリア、そして英国がプーチン大統領との直接対話を再開すべきと考えていて、今回の会合でもその必要性を強く主張しており、その主張の輪がじわりじわりと広がっているのを感じました。

例えば、ドイツ(メルツ首相)はこれまで頑なに「プーチン大統領とのチャンネルを再開することは、プーチン大統領に力を与えるだけで、何ら得することは無いので、ドイツは与しない」とフランスとイタリアの意見に反対し続けてきましたが、今回のMSCの場で、フランスのマクロン大統領と共に独仏間での核共有論についての協議を始める旨、公表してからは、ちょっと反対の強度と意味合いが変わってきているように見えます。

独仏の核共有の議論については、実際の中身はこれから詰めるとのことですので、続報を待ちたいと思いますが、両国が核共有の議論を行う背景にはいろいろな理由・要素があります。

1つは「アメリカの核の傘、NATOによる核共有への過度の依存からの脱却と欧州独自の安全保障体制の強化」という観点です。

ドイツについては、まだアメリカとの特別な関係による恩恵に期待しつつも、その反面、一向に一貫しないトランプ政権の対欧州の態度への不安から、フランスが掲げる欧州独自の安全保障体制の強化というアイデアにも与して、迫りくるロシアからの軍事的な脅威に備えるという意図があります。

今回の微妙な方針転換は「独仏が組むことによって、対ロ核抑止が強化される」ということを期待しての政治的な判断と言われていますが、ここで「ロシアからの迫りくる脅威の軽減のためには、ロシアと真っ向から対立するだけではなく、抑止の体制を強化しつつ、直接的な対話のチャンネルを再開させる必要がある」という思惑も強調されていることがポイントで、ドイツが対ロ姿勢を緩和させる兆しだと捉えることができると考えます。

そしてこれはまた、ロシアのプーチン大統領がアメリカのトランプ大統領の方しか見ておらず、欧州には目もくれないという現状に対して、「欧州は自らの安全保障、生存の危機がかかっているにも関わらず、それを保証するための枠内から除外されている」という、非常に強い“取り残されてしまった感”・懸念を有していることの表れとも理解できると考えます。

「ウクライナ問題と迫りくるロシアの脅威は直接的に欧州の安全保障上の懸念でもあるのだから、欧州の声が聞き入れられるべきだし、いかなる決定の過程にも全面的に参加していなくてはならない」という原理原則に気付き、その実現のために、あえてロシアを引き込むという、なんとも奇怪な策に打って出ようとしているのではないかと、勘繰りたくなります。

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欧州各国が消し去ることのできない「トランプ絡みの不安」

2つ目は「トランプ大統領のアメリカがいつ欧州を切り捨てるか分からない」という消し去ることができない不安の存在です。

同じく会合に参加していた米政権幹部と話すと、「アメリカが欧州を切り捨てるということは考えられないし、それは欧州の勝手な妄想だと言い切りたいが、ただ、欧州各国には肝心な時にもっと頼りになってほしいとは常々思う。これまで“振り返ったら欧州はアメリカの背後にはおらず、いつもはるか遠くから吠えているだけ”ということが多く、非常に失望してきた。欧州はもっと自らの安全保障に対して真剣になるべきだという認識については、私も100%同意する」と言っていました。

“いつ切り捨てられるかわからない”という恐怖心にも似た認識は、トランプ政権の対応が予測不可能であることと、第1次政権時から存在した緊張、アメリカ側から寄せられる対欧州不満(例えば、欧州はアメリカからNATOという形で提供されている安全保障と平和にただ乗りしているというもの)、そしてロシア・ウクライナ問題の解決プロセスからの実質的排除、そして極めつけはグリーンランド問題での対米抑止力の必要性が現実味を帯びてきたことがベースにあるものと考えます。

プーチン大統領との対話再開の必要性という点では、独仏はまだ正反対の意見を持っていますが(特に時期について)、対米警戒心の強さやロシアを脅威とみなす外交・安全保障方針では一致しており、また「ウクライナの問題に必ず欧州が関与し、あらゆる決定に携わらなくてはならない」という基本姿勢でも一致しています。

ただ、いろいろな決まりを米ロ(ウクライナ)間で作り、それの中身の実施(主に支援と軍事的なプレゼンスなどの負担)は欧州各国とその他の国々に丸投げするというトランプ政権の姿勢には一致団結して抵抗し、抗議することで一致しています。

MSCで話した方たちの意見では「今回の独仏の核共有と欧州安全保障部隊のお話しについては、アメリカに欧州の“本気度”を示し、こちらを振り向かせようとする一連の示威行為」との見方が多かったように思います。

そして同様の懸念と理由が、ここは独仏で反対になるのですが、プーチン大統領との接近の可否・成否という話に繋がります。

フランスは、ロシアがウクライナに侵攻する直前まで“ロシアと直接話が出来る特別な関係”をアピールしていましたので、そのチャンネルを復活させ、欧州内でのプレゼンス向上・回復を狙っているものと思われます。

ドイツについては、今の段階でプーチン大統領との対話を再開する動きを見せると、ロシアを勢いづかせるだけで逆効果と慎重な姿勢を崩していませんが、ロシア・ウクライナ戦争が何らかの形で決着した暁には、ロシアとのエネルギー協力を再開させたいという思惑が隠れており、後日の関係修復で後れを取らないためには、そろそろ動き出す必要があるのではないかとの認識が強まってきている証ではないかと考えられます。

そして何よりも【アメリカ・トランプ大統領を振り向かせるために、欧州もロシア・プーチン大統領との対話ができることを示して、欧州を話し合い・決定の場に含めさせるように働きかけたい】という、プライドに似た思惑があるのだと考えます(そして散々アメリカを非難してみても、欧州各国もやはり自国ファーストの政策の追求をしています)。

ただ現実は、今回の話の感触から見ると、この欧州の動きはアメリカからもロシアからも意図が見透かされ、いいように扱われて、相変わらず蚊帳の外に置かれているように思われます。

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トランプにとっても必要である「プーチンとの対話」

では“ロシアが必要”または“プーチン大統領との対話が必要”なのは、欧州だけでしょうか?

それはトランプ大統領のアメリカも同じだと考えます。

ロシアがロシア・ウクライナ戦争の当事者であり、プーチン大統領の決断無くしては、いくらトランプ大統領が派手に吠えまくっても、戦争を終結させることが不可能であることもあるため、その解決を実現するためにプーチン大統領が必要だというのはクリアだと思いますが、トランプ大統領が“ピースメーカー”として2025年に仲介に乗り出した数々の紛争案件の解決についても、その当事者となっている国々おおよび非政府組織の協力を得るためには、それらの国々・組織に影響力を有するロシアの大きなワンプッシュが必要になります。

例えば、核協議を行っているイランについては、背後に中ロがいることは何度も触れている通りですが、中国が主にイランの経済面での支援を担っているのに対し、ロシアはイランの軍事面を支えており(恐らく双方向で)、今後、イランの核開発が一気に進展するか、それとも止まるか、のカギを握るのが「ロシアからの原子力関連の対イラン支援の有無と規模」だと考えられます。

他にパキスタンや北朝鮮というワイルドカードは存在しますが、ロシアの比ではないとされ、中国は一応、表向きは「能力はあるが、軍事的な支援は行わない」方針があるため、核協議というアリーナでは、あまり重視しなくていいのかもしれません。

とはいえ、中国もイラン核合意の当事国の一つですので、無視すると後で痛い目に遭いかねません。何しろ、バイデン政権時に、アメリカ政府に知られることなく、水面下でサウジアラビア王国とイランの歴史的な和解を仲介して見せ、アメリカ政府の顔に泥を塗ったのは、誰でもない中国なのですから。

イランとその背後にいる中ロに圧力をかけるべく、ネタニエフ首相をワシントンに招いてイラン問題を協議してみたり、ジュネーブでの米・イラン核協議を行いつつ、トランプ大統領が突然「そう遠くないうちにイランへの攻撃を行うかもしれない。その場合には先日の核施設への攻撃以上の結果をもたらすだろう」と口撃してみたりしていますが、中ロも“そのイラン攻撃”が与える国際情勢への破滅的な影響をアメリカも理解しているはずだと踏んで、現時点ではまともに捉えていない模様です。

ここで触れた“破滅的な影響”についてですが、昨年、バンカーバスターを用いたイランの核施設への空爆以降、アラブ諸国のアメリカへの風当たりが強くなっており、最近もイスラエルと結託して再攻撃に踏み切る恐れが持ち上がってくると、サウジアラビア王国を筆頭に「イランへの攻撃を実施する場合には、アメリカおよびイスラエル軍機の領空通過を拒否する」と宣言し、仮に攻撃時に自国領内に被害が及ぶような事態が起こった場合には、迷わずイスラエルに対する報復攻撃を行うと公言していますので、本当にアメリカ(とイスラエル)がイラン攻撃に踏み切った場合、アラブ諸国の反撃に直面することになり、アメリカはアラブを失うことになってしまう可能性が一気に高まります。

そうなると、イスラエルはいきり立つ敵に囲まれ、再度、生存上の危機に直面することになりますが、その際にイスラエルがどのように対応するかによっては、ここが世界戦争の発火点になり得ると考えます。

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これまで以上に鮮明になりつつあるアメリカのロシア寄りの姿勢

その関係者たちが掲げた拳を下すタイミングを逸している状況においてアメリカは、もしかしたらイランに圧力をかけることができるプーチン大統領にイランを抑止しつつ、関係が深まってきているアラブ諸国に対しても影響力を駆使してもらいたいと願い、水面下で米ロ間の対話を活発化させているのかもしれません(実はMSCにおいても、米ロがいろいろと協議しているのを目にしましたのでこのような想像をしてみたくなりますが、あくまでも私の希望的観測も混じっていますので、ここで但し書きしておきます)。

この米ロ間の接触と並行して、ロシア・ウクライナ戦争の“停戦”に向けた協議が継続していますが、ここではロシア・ウクライナ双方の代表が直接協議を行い、そこに仲介役として米国の代表が参加するという形式上は和平協議が淡々と進められているように映りますが、実際にはアメリカのロシア寄りの姿勢はこれまで以上に鮮明になっており、ウクライナ側がアメリカの提示する領土割譲案に抵抗する姿に苛立ちを隠さなくなってきており、このままではトランプ大統領とプーチン大統領がアラスカで首脳会談を行った際に欧州各国とウクライナが抱いた恐れ、つまり【ウクライナと欧州抜きで米ロがウクライナの運命を決するという最悪のシナリオ】が現実のものとなってしまうかもしれません。

もしそのようなことになると、どのような事態が生まれるか?――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2026年2月20日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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