全世界に衝撃を与えた、アメリカとイスラエルによるイラン空爆。なぜトランプ大統領は、国際法違反を問われること確実な軍事行動を取るに至ったのでしょうか。今回のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係アナリストの北野幸伯さんが、「北朝鮮モデル」を軸にしたイランの戦略とアメリカ側の計算を分析。このタイミングでトランプ氏がイラン攻撃に踏み切った裏事情と今後の展開を、感情論を排して解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:イラン戦争勃発!トランプがイランを攻撃する真因
イラン戦争勃発!トランプがイランを攻撃する真因
全世界のRPE読者の皆さま、こんにちは!北野です。
皆さんご存知のように、トランプ・アメリカとイスラエルは2月28日、イラン攻撃を開始しました。イランも反撃し、戦争がはじまっています(パワーゲーム会員の皆さんは、昨年12月に出した『2026年大予測のとおりだ』と驚いていないでしょう)。
これについて、日本では、「バカなトランプがやってくれた!」という感じの報道がされています。
しかし私たちは、
- アメリカがイランを攻撃した真因
- イランの戦略
- アメリカのトラウマ
- アメリカの目的
について完璧に理解しておきましょう。感情論、善悪論はなしです。
アメリカは、ウソの理由でイラク戦争をはじめた2003年頃から、「イランは核兵器を開発している!」と非難していました。
ネオコン・ブッシュ政権のアメリカは当時、「2016年までにアメリカ国内の石油が枯渇する」と信じていた。それで、資源がたっぷりある中東支配に動いていたのです。「イラクの次は、イランだ!」と(しかしその後、「シェール革命」が起こり、アメリカは世界一の産油国、産ガス国に浮上。中東の資源を確保する必要はなくなり、この地域への熱意は減りました)。
はっきりいってネオコン・ブッシュ政権の主張は、イラク戦争の開戦理由同様「大ウソ」でした。証拠もあります。『毎日新聞』2007年12月4日付。
〈イラン核〉米が機密報告の一部公表 「脅威」を下方修正
[ワシントン笠原敏彦]マコネル米国家情報長官は3日、イラン核開発に関する最新の 機密報告書「国家情報評価」(NIE)の一部を公表し、イランが03年秋に核兵器開発計画を停止させたとの分析結果を明らかにした。
さらに、『ロイター』2009年7月4日付。
イランが核開発目指している証拠ない=IAEA次期事務局長
[ウィーン 3日 ロイター] 国際原子力機関(IAEA)の天野之弥次期事務局長は3日、イランが核兵器開発能力の取得を目指していることを示す確固たる証拠はみられないとの見解を示した。ロイターに対して述べた。天野氏は、イランが核兵器開発能力を持とうとしていると確信しているかとの問いに対し「IAEAの公的文書にはいかなる証拠もみられない」と答えた。
ここからわかることは何でしょうか?ブッシュ政権が2000年代、「イランは核兵器保有を目指している!」と非難していたのは、「ウソだった」ということです。
それで、リベラルなオバマが2015年7月、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国 を巻き込んで「イラン核合意」を成立させました。これで、イランは制裁が解除され、石油が輸出できるようになった。イランは、そもそも核兵器を開発する気がなかったので、大いに喜びました。
ところが2018年5月、トランプが、イラン核合意から一方的に離脱。2018年8月、トランプ政権は、イラン制裁を復活させます。
これは、何でしょうか?イスラエルは、「イランが核兵器開発を目指している」と確信している。トランプは、親イスラエルなので、核合意から離脱したのです。
再び苦しくなったイラン。そもそも核兵器を開発する気はなかったのですが、追い詰められ、ある時点で気がかわったようです。徐々にウラン濃縮度をあげていきました。
ついに「IAEAの査察」を拒否したイラン
ここから、2023年のお話。『時事』2023年3月5日。
イランを訪問した国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は4日、ウィーンの空港で記者会見し、イラン中部フォルドゥの核施設で核兵器級に近い濃縮度83.7%のウラン粒子が検出された問題について「その水準の濃縮ウランは蓄積されていない」と述べた。
「核兵器開発には濃縮度90%以上が必要」とされている。イランは2023年3月時点で、濃縮度を83%まで上げていた。つまり、2023年内に核兵器を保有する可能性が高くなっていました。
そして、イランは2023年9月、IAEAの査察を拒否します。『日経新聞』2023年9月17日付。
国際原子力機関(IAEA)は16日の声明で、イランからIAEAの一部査察官の受け入れを拒否すると通告があったことを明らかにした。査察官はウラン濃縮などを検証している。グロッシ事務局長は「強く非難する」と述べ、査察に深刻な影響が出るとして再考を求めた。国際社会の懸念が一層強まるのは必至だ。
これは、普通に考えて「いよいよ核兵器保有が近づいている。そのことがバレないようにIAEAの査察を拒否している」と考えられるでしょう。
イランがIAEAの査察を拒否した翌2023年10月、イランの手下ハマスがイスラエルを先制攻撃。イスラエルvsハマスの戦争が始まりました。ハマスの後ろにはイランがいました。『朝日新聞DIGITAL』2023年10月9日付。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は8日、イスラム組織ハマスがイスラエルにしかけた大規模な攻撃はイランの関係者が準備段階から協力し、最終的なゴーサインを出したと報じた。ハマスと、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの幹部の話として伝えた。
WSJによると、イラン革命防衛隊のメンバーは8月から、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するハマスと、イスラエルに向けた陸海空の侵攻について協議した。レバノンの首都ベイルートで革命防衛隊やハマス、ヒズボラらのメンバーによる会議が重ねられ、攻撃の詳細が計画されたという。最終決定の会合は2日にあったとしている。
2023年10月にはじまったイスラエルvsハマス戦争は、その後イスラエルvsハマス、レバノン・ヒズボラ、イエメン・フーシ派、イランの戦いに拡大していきました。結果、ハマスの拠点ガザ地区は、焼野原になってしまった。2025年6月、イスラエルとアメリカがイラン核施設を攻撃し、停戦が実現されました。
というわけで、イスラエル・アメリカがイランを攻撃する最大の理由は、【イランが核兵器を保有しようとしていること】です。
では、イスラエルとアメリカに核施設を破壊されたイランは、核兵器保有をあきらめたのでしょうか?これが、全然あきらめていないのです。
なぜ、そんなことがわかるのでしょうか?イランは、IAEAの査察を拒否しているからです。『共同』2025年11月21日。
イラン、核査察合意を正式破棄 欧米のIAEA決議に反発
イランのアラグチ外相は20日、イスラエルと米国が空爆した核関連施設への査察を再開するとした国際原子力機関(IAEA)との9月の基本合意について、正式に破棄すると表明した。
要するに、イランは「IAEAには協力しない」「査察はさせない」ということです。なぜ?普通に考えたら、【核兵器保有をあきらめていないから】となるでしょう。
イスラエルにとっては、イスラエルを認めない、滅ぼそうと考えているイランが核兵器をもつリスクは、変わらず残っている。トランプは、イスラエルに勝たせてもらったので、当然イスラエル側に立つのです。
イスラエルとトランプ・アメリカの目標は、【イランに核兵器保有を断念させること】です。もちろん、一番いいのは「交渉による解決」でしょう。アメリカとイランは3回交渉した。しかし、トランプは、「イランの目的は時間稼ぎだ」と判断して、今回の攻撃に踏み切ったのでしょう。
イランの戦略は【〇〇〇モデル】
なぜイランは、ここまで圧力をかけられても、アメリカの要求に屈しないのでしょうか?
世界には、いろいろな独裁者がいます。イラクの独裁者フセインは、2003年からのイラク戦争で失脚。逮捕され、死刑になりました。
リビアの独裁者カダフィは2011年、欧米が支援する反体制派につかまり、惨殺されました。ちなみにカダフィは、核兵器開発を目指していましたが、欧米の圧力で断念し、一時和解していました。
ベネズエラの独裁者マドゥロは2026年1月、アメリカ軍に攻撃され、誘拐され、刑務所にぶち込まれました。
このように、反米の独裁者の未来は暗い。しかし、同じ独裁者でも、習近平、プーチン、金正恩は、生き残っています。
とはいえ、習近平・中国は経済でも軍事費でも世界2位の超大国ですから、イランの参考にはなりません。プーチン・ロシアは、資源超大国、食糧超大国であるばかりか、核兵器保有数でアメリカを超える核超大国です。だから、イランの参考になりません。
しかし、北朝鮮の金正恩は、参考になります。
殺されたフセイン、カダフィ、誘拐されたマドゥロとサバイバルしている金正恩は何が違うのでしょうか?そう、フセイン、カダフィ、マドゥロは、【核兵器を持っていなかった】。金正恩は、【核兵器を持っている】。【違いはこれだけ】です。
だからイランは、アメリカとの交渉をのらりくらりと引き延ばし、とりあえず【核兵器を一発】保有したい。これで、イランの勝利は確定します。
皆さん、2017年のことを覚えていますか?金正恩は、核実験を行い、ミサイル実験を狂ったように行っていました。トランプは、金正恩のことを、「チビデブロケットマン」と呼んでいた。アメリカと北朝鮮の関係は最悪になり、たくさんの人が「戦争は不可避だ」と考えた。
しかし、アメリカは、北朝鮮と戦争をしませんでした。それどころか、トランプは金正恩と3回も会い、「仲良し」になったのです。
これでイランは悟りました。「北朝鮮のように、アメリカをだまして時間を稼ぎ、核兵器を一発持ってしまえば、勝ちだ!」と。すると、北朝鮮を攻撃できないアメリカは、イランを攻撃することもできなくなるでしょう。
しかし、イランは、北朝鮮のように過酷な経済制裁を受けて、ボロボロになるのでは?国連としてイランに経済制裁を科すことは、できないでしょう。安保理常任理事国の中国とロシアが、拒否権を使って対イラン制裁をさせないからです。欧米の制裁はつづきますが、2018年からつづいていることです。
だからイランは、北朝鮮モデルで
- 交渉を引き延ばし、こっそり核開発をつづけ、核兵器を保有する
- それで、アメリカは、イランと戦争することができなくなる
- 中国とロシアがイランを守るので、国連制裁はできない
- 欧米の制裁はつづくが、イランは中国、ロシアとの経済関係を維持しながらサバイバルしていく
という戦略なのです。
アメリカの戦略は?
「北朝鮮モデル」は、アメリカのトラウマです。
アメリカは、1990年代から北朝鮮と交渉し、この国の核兵器保有を阻止しようとしてきました。しかし、北朝鮮は2003年に核拡散防止条約(NPT)から離脱。2006年に核実験に成功し、核保有国になりました。北朝鮮は、アメリカと国際社会にずっとウソをつきつづけてきたのです。
イラクのフセイン、リビアのカダフィ、ベネズエラのマドゥロの件は、世界の独裁者のトラウマになっています。一方で、「北朝鮮の核兵器保有を止められなかったこと」は、アメリカの大きなトラウマになっているのです。
そして、イランは、明らかに北朝鮮の成功を真似している。イランの真意を理解したトランプ・アメリカは、攻撃に踏み切ったのです。
もちろん、これは「国際法違反」です。これは「自衛戦争」でも「国連安保理で承認された戦争」でもありません。それでも、「トランプがバカだから」の一言ですませてはいけない【裏事情があること】を私たちは理解しておくべきでしょう。
トランプ・アメリカは、どこまで行く?
さて、トランプ・アメリカは、どこまで進むのでしょうか?
これまで書いてきたように、アメリカとイスラエルの目的は、「イランの核兵器保有計画を終わらせること」です。
イランは、「我々の核開発は平和目的だ」(=つまり原子力発電)と主張しています。しかし、過去に濃縮度を90%以上に上げた事実があるため、アメリカだけでなくIAEAも、「信用できない」ということでしょう。だからアメリカは、「核開発を完全に終わらせること」を要求します。
今回の攻撃で最高指導者ハメネイが折れれば、戦いはそこまででしょう。しかし、ハメネイが折れなければ、アメリカとイスラエルは、「体制転換」「親米傀儡政権樹立」を目指すでしょう。
その場合もトランプ・アメリカは、地上戦をともなうような全面戦争を避けるはずです(特定の軍事施設、核施設を狙った限定的な地上作戦はあるかもしれませんが)。ミサイル、空爆、ドローン攻撃が主体になるでしょう。そして、アメリカとイスラエルは、ハメネイ等政治指導者、軍指導者の殺害を第一に目指すはずです。
どうなるか、注視していきましょう。
(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2026年2月28日号より一部抜粋)
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