食べ物には、単なる味以上の力があります。あの日、誰かと一緒に食べた記憶。お金のなかった時代に助けられた一杯。そんな「食の記憶」は、人の心に深く刻まれるものです。東京・八王子で1970年から愛されてきた「満福亭」は、1杯100円のラーメンで地域の人々を支え続けましたが、2011年に廃業。しかし2023年、元お客さまの手によって奇跡の復活を遂げました。今回のメルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』では、著者の佐藤きよあきさんが、この感動のストーリーと、物価高騰の時代に100円を実現した驚きのビジネスモデルを紹介しています。
なぜ? 廃業した100円ラーメンを客が復活させた理由。
食の記憶。 それは、味だけではなく、 食べた時のその人の置かれた状況などにより、 さまざまな彩りを刻んでいます。 お金のない時に助けられた。 大切な人と一緒に食べた。 嬉しいことがあった時のお祝いとして。 食と人生は絡み合っているのです。 それ故に、想い出深い食堂・レストランには愛着があり、 大切にしたいと思っています。
東京都八王子市に、 1970年創業の「満福亭」というお店がありました。 ラーメンを100円で提供し、人びとを助け、 愛されていましたが、 2011年惜しくも廃業となってしまいました。 多くの人の思い出が詰まったお店で、 その記憶は決して消え去ることはありませんでした。 そして、2023年。 ひとりのお客さまによって、 復活することとなったのです。 しかも、このご時世に当時のままの100円。
100円を実現する驚異の発想
「あの味をもう一度」はわかりますが、 物価が急上昇しているいま、 当然、当時より原価は高くなるので、 100円で提供することは、 非常に難しいのではないでしょうか。 しかし、元お客さまの店主は、 絶対に不可能なことを可能にする アイデアを持っていました。 100円で提供するにはどうすれば良いのか。 原価をどこまで少なくすることができるのか。 非常に難しい、異常だと言っても良いほどの課題です。 ラーメン店でもっとも原価の掛かるものは、 スープづくりです。 鶏ガラ、豚骨、魚介などの材料に加え、 出汁を煮出す際のガス代、 そのための人件費も掛かります。 この部分を削ることができれば、 原価を大幅に落とすことができます。 そこで店主は、大胆なアイデアを思いつきます。 “出汁を作らない”。 調味料だけを組み合わせることで、 当時の味を作り出したのです。 レシピが残っていなかったので、 店主が子どもの頃に食べた記憶を頼りに、 試行錯誤を繰り返しました。 醤油をベースに、旨味成分である、 グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸、 コハク酸などを加え、風味づけとして、 ラードと鶏油を足しました。 美味しいと感じる味を化学的に生み出したのです。 さらに、麺の原価を下げるために、 製麺所まで作ってしまい、自家製麺で提供しています。 極限までコストを抑えていますが、 ナルト・メンマ・海苔・チャーシュー・ネギは、 小さいながらもひと通りトッピングされています。 これで100円なのはあり得ない、とお客さまは驚きます。 原価は1杯60円ほどだと言います。
ラーメン以外で支える収益構造
しかし、利益が40円では、 お店を維持することはできません。 そこで考えたのが、Tシャツやキャップ、ステッカー、 チャームなどのオリジナルグッズを販売すること。 さらに、行列ができることに目をつけ、 周辺企業の広告を店頭に掲載し、 その収入を家賃と人件費に充てています。 また、ラーメン以外に、 たんめん100円と薬味のせご飯150円も 販売しているのですが、 このご飯でも利益が確保されています。 ラーメンは100円で、ご飯は150円というのは、 やや違和感がありますが、 「満福亭」がこのスタイル、この価格だったので、 そのまま継承しています。 ラーメンとご飯をセットで食べることを 懐かしく思うお客さまも多くいるのです。
「百円は百縁なり」人びとの繋がり
八王子市民にとって想い出のお店なので、 当時のお客さまが次々と押し寄せています。 当時も100円だったので、 子どもでも食べられることから、 いつも子どもたちで賑わっていました。 近所の大人たちも集まっていたので、 時には子どもたちに奢ってあげたりしていました。 そこで世代間の会話が生まれ、笑いが起こり、 楽しい場所だったのです。 店主は、そんな場所を復活させたかったのです。 人びとの繋がりが生まれるラーメン店。 木の看板に書かれています。 「百円は百縁なり」。 人びとが気軽に集い、 癒しの時間を過ごすことができる場所。 実に有意義なチャレンジだと感じます。
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