トランプ政権によるイラン攻撃に対し、欧州各国の首脳が「違法」「承認できない」と次々に距離を置く姿勢を鮮明にしています。カナダが提唱する「ミドルパワー連合」の構想も説得力を増す中、高市首相は訪米してトランプ大統領に駆け寄り抱きつくという衝撃的な場面を世界に見せつけました。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では、著者でジャーナリストの高野孟さんが、欧州の「米国離れ」の実態と、それに逆行する日本の対米追従外交の危うさを鋭く分析しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:欧州はじめ世界が「米国離れ」に向かう中、独りトランプに抱きついていく高市首相の恥ずかしさ
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
欧州はじめ世界が「米国離れ」に向かう中、独りトランプに抱きついていく高市首相の恥ずかしさ
フランスの文明批評家エマニュエル・トッドは、トランプ政権のイランに対する凶暴な侵略行為に対する欧州の反応について、次のように述べた(文春オンライン3月20日付)。
▼スペインのペドロ・サンチェス首相は勇気があり、立派だ。彼は〔米国がイラン攻撃のために在スペインの〕米軍基地の使用を禁止した。それに対しトランプ大統領は即座に報復を示唆した。
▼一方で、フランス、ドイツ、イギリスの指導者たちの行動は、はっきり言って臆病だ。彼らは真実を述べることを恐れ、米国の顔色を窺っているばかりだ。
▼米国は今回イランを攻撃したとされていますが、本当に対象はイランだけなのか。結局のところ、米国はイランだけでなく、欧州諸国をも攻撃しているのではないか。トランプ政権の発足以来、米国指導者たちは欧州を屈辱的に扱ってきた。ヴァンス〔副大統領〕も早い段階からそうしていた。
▼その背後には、現代米国のニヒリズムが垣間見える。米国の国際的な行動を合理性の原則だけで解釈しようとすると、本質を見誤るだろう。米国の行動は、合理性から逸脱した衝動、あるいは暴走するニヒリズムの表れと見るべきだ。これは純粋なカオスであり、従来の地政学や外交問題の枠組みでは捉えきれない次元の問題を含んでいる。……
すでに始まっている欧州の米国離れ
確かに、仏独英などの態度は半分腰が引けているが、それでもマクロン仏大統領は3月3日に「米国のイラン攻撃は、国際法の範囲を外れた行動で、承認できない」と明言し、スターマー英首相は2日の議会演説で「米国のイラン攻撃は法的な条件を満たしておらず、英国がイラン攻撃に参加することはない」と語っている。
ドイツのメルツ首相は「イランのテロリスト政権の排除を支持する」と言っているが、これは米国というよりイスラエルへの配慮で、同国の歴史的なユダヤ人コンプレックスのなせる業だろう。イタリアの右翼政党を率いていてトランプと親しいと言われてきたメローニ首相さえ、イラン攻撃が「違法」であり、とりわけイランの小学校を爆撃して子供ら170人以上を殺したことについては「断固として非難」し、イタリアが「このような戦争に参加することはない」と宣言していることを思えば、ドイツの腰抜けぶりはむしろ例外的とさえ言えるのである。
EUの「外相」に当たるカヤ・カラス外務・安保政策上級担当(元エストニア首相)は、1月にブリュッセルで開かれた防衛政策会議で、トランプ政権から関税の脅しやデンマーク自治領のグリーンランドに対するあからさまな領有願望を突きつけられていることなどを念頭に「米国にとってヨーロッパはもはや主な重心ではなく、米国のヨーロッパ離れはすでに進行している。
生存を米国に外部委託して生き残ることは出来ず、欧州人として共同で行動するよう、文化を変える必要がある」と説いた。ヨーロッパが米国から離れるべきだとは言わないで、米国がヨーロッパから離れていくのに対処しなければならないと言うところに、練達の欧州政治家のレトリックの巧みさがある。
こうした米国の欧州に対する「屈辱的な扱い」への反発は、今回の衝動的暴走的なイラン侵略によってさらに深まっているのは事実であり、それによってカナダのカーニー首相が1月のダボス会議で提唱した「ミドルパワー連合」の戦略構想はますます説得力を増していくことになるのである。
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トランプに抱きついた高市首相の醜態
グローバル・サウス諸国や中露はもちろん、NATOを通じて最強の同盟関係を築いてきたはずの欧州までもが米国の狂乱を冷たい目で突き放して見ているその最中に、我が国の高市早苗首相は20日訪米し、車を降りるなり出迎えたトランプに駆け寄っていきなり抱きついてハグするという醜態を演じた。
元外務官僚の田中均はXで「高市首相のトランプ大統領への接し方は異様であり、恥ずかしい。国家の首脳同士の関係であり、媚を売るのも、ほどほどにしないと、見ている人に嫌悪感を抱かせる。公の場で抱きつくのが、西洋式挨拶ではなく、親しさの象徴でもない。ハグするのは良いが、挨拶としては、節制がなければいけない」と述べたが、全く「恥ずかしい」に尽きる。
元文科官僚の前川喜平は東京新聞22日付のコラムで「ここまで愚鈍で下品で卑屈な首相を持つことを日本人として恥ずかしいと思う」と、次のように書いている。同感である。
●いきなりトランプ氏に抱きついたこと。
●相手が自分を名前で呼ばないのに勝手に「ドナルド」と呼んだこと。
●聞き取りづらい英語を話そうとして失敗したこと。
●トランプ氏の子息を「イケメン」と言ったこと。
●ご主人様を見るようにトランプ氏の顔色を窺うこと。
●バイデン前大統領の肖像の代わりにトランプ氏が置いたオートペンの写真を見て楽しげに笑ったこと。
●トランプ氏が真珠湾攻撃に言及した時、何も言えずに固まったこと。
●何より恥ずかしいのはイランでの戦争を始めた張本人に「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけ」と言ったことだ。お追従にもほどがある。……なぜこれを「媚米」と言わないのか。……
このような媚態の限りを尽くして、高市は、この期に及んでもなお米国に無批判で追従していく唯一の「同盟国」であることを印象づけた。世界中から孤立し国内の支持基盤すら亀裂が入った「失敗した大統領」となりつつあるトランプにとってはこれは救いで、「日本は自ら責任を果たそうとしており、NATOとは違う」と大いに持ち上げて見せたのだが、それで喜んで日米会談が「成功した」と思っているのは高市とその取り巻きだけである。
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日本を反中国に駆り立てる米「安保マフィア」
このような高市の「媚米」姿勢は、米国の「知日派」と言えば聞こえがいいが、実質は日米安保の軛に日本を縛り付け、中国が今にも攻めてくるかの偽情報を振り撒いて米国製の高額兵器を買わせることを商売にしている「安保マフィア」にとっても好都合なものである。リチャード・アーミテージ元国務副長官が昨年亡くなった後ではその主座となったマイケル・グリーン=ジョージタウン大学戦略国際問題研究センター(CSIS)副理事長はこう述べている(フォリン・アフェアズ4月号)。
●高市の戦略は「アメリカか、中堅国との連携強化か」という偽りの二者択一を強いるものではない。
●むしろ、アメリカを中核に、アジアやヨーロッパへ広がる経済・安全保障のパートナーシップの広範な連合を築かなければならないという認識に基づいている。これが、中国の威圧に対抗する上で唯一の実行可能なアプローチだろう。
●彼女の目標は、アメリカとの安全保障関係をさらに強化することを軸に、より好ましい地域的パワーバランスを取り戻すことにある。そのビジョンは、揺るがされた世界秩序に直面する責任ある国家にとって、もっとも現実的な今後の道筋を示している。……
彼らにとって一番恐ろしいのは、日本までもが離米的なミドルパワー連合の仲間入りをすることであり、高市の下では日本はそちらに傾くことはないという安堵感が、最初の2行に滲んでいる。その上で、従来通り米国を盟主として日本から(インドを経て)欧州にまで繋がる「中国包囲網」を強化する上で、高市が先兵の役割を果たすことを強く期待している。
旧態依然の冷戦思考を超えて
しかし、そのような旧態依然の冷戦的発想だけが日本の生きる道という訳ではない。例えば田中均は1月27日付毎日新聞夕刊「米大統領の『ドンロー主義』/東アジアへの安全保障薄く」で次のように述べている。
●トランプ政権が「米国第一」を唱え、国際協調主義や国際法尊重姿勢をかなぐり捨て、「ドンロー主義」に傾斜している今日、世界はどう対応するのか苦吟している。
●それでも米国に追随していくのか、米国への依存を減らそうとするのか。……欧州やアジア諸国の多くは米国への依存をできるだけ減らそうとしている。日本はどうなのか。
●過去数十年、日本は米国と共にインド太平洋戦略やQUADの戦略協議など中国を牽制する仕組みを推進してきたが、このような地域構想については考え直す必要がある。
●同盟国と共に中国を制するという発想はもうトランプ政権下の米国には希薄であり、日本がこれにしがみつくのはいささか滑稽だ。
●法の支配と自由を掲げた「インド太平洋」戦略は事実上中国を牽制する戦略であったが、トランプ大統領の米国はこのような戦略から離れている。日本は「インド太平洋」から、中国との協力も念頭に置いた「アジア太平洋」の外交努力に回帰すべきではないか。……
賛成である。この視点からすると、高市の振る舞いは戦略的にも滑稽ということになる。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年3月23日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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