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高市早苗の「ジャパン・イズ・バック」は本物か虚飾か?トランプからまもなく届く“請求書”が教えてくれる「属国日本」の厳しい現実

中東情勢が緊迫度を増す中、その大きなきっかけを作ったトランプ大統領をワシントンに訪ね「ベタ褒め」した高市首相。国内メディアの多くはこの首脳会談を「成功」と評価しますが、はたしてそれはどこまで実態を伴うものなのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、高市氏の対米姿勢を「媚態・朝貢外交」とし、なぜそうせざるを得ないのかを解説。その上で、今般の日米首脳会談の結果が何を招くのかについて考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:媚態・朝貢外交の代償。日米首脳会談「成功」の虚飾を剥ぐ

高市の対トランプ「媚態・朝貢外交」が払う大きな代償。日米首脳会談「成功」の虚飾を剥ぐ

メディアの映像と解説によれば、ワシントンにおける日米首脳会談は、すこぶるなごやかな雰囲気で行われたようだ。トランプ大統領がペルシャ湾への自衛隊派遣を押しつけてくることはなかったと高市首相や同行の茂木外務大臣、政府高官らは言う。

だが、ウォルツ米国連大使は22日、CBSテレビの番組で、「日本の総理が海上自衛隊による支援を約束したばかりだ」と語り、例のごとく、日米間で解釈が異なる状況になっている。

1時間半にわたる会談。公開されたのはカメラパフォーマンスを両首脳が意識するわずか30分に過ぎず、残り1時間は密室の出来事だ。最も肝心な部分は知らされていない。それでも、メディアは何かを報じなければ商売にならないから、オモテに出ているどうでもいいことや、政府発表をそのまま垂れ流すことになる。

高市首相は会談後、ホルムズ海峡への自衛隊派遣について「機微なやりとりを交わした」と記者団に説明。トランプ大統領と自衛隊派遣について話し合ったことは認めている。

ベッセント財務長官がテレビ番組で「日本には世界最高水準の掃海艇や機雷探知能力がある」と述べ、トランプ氏が会談中「Step Up(役割を果たせ)」と何回も繰り返していたことからも、自衛隊の出動に期待をかけていることは間違いない。

高市首相は「法律の範囲内でできることとできないことがあるので、詳細に説明した」と言う。日本に憲法上の制約があることをわかったうえでの要請があり、おそらく高市首相は「検討」を約束して、その場を切り抜けたのだろう。

日本と英国、フランス、ドイツなど7カ国首脳は19日、共同声明を発表した。「ペルシャ湾でのイランによる非武装の商船、民間の石油・ガス施設などを狙った攻撃、ホルムズ海峡の事実上の封鎖を最大限の言葉で非難する」「安全航行を確保するための適切な取り組みに貢献する用意がある」という内容だ。

米政府は各国に、安全航行の確保に向けた有志連合「海上タスクフォース」をつくるよう呼びかけていた。この共同声明は、それに応えたものだろう。ホルムズ海峡の防衛に後ろ向きな各国に苛立っていたトランプ氏の気持ちがこれでいくらか収まり、高市首相との会談でのにこやかな表情につながったと見ることもできる。

だがこの会談、本当に成功したといえるのだろうか。1時間にわたる密室協議の内容が判然としない以上、公開された冒頭の30分を分析してみるほか、評価のしようがない。

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「トランプ賛美」が招いた欧州とイランの反発と国際社会の不信

会談がはじまり、トランプ氏に「国民から愛され、パワフルで素晴らしい女性」と紹介された高市首相は、「おだて」に弱いといわれるトランプ氏のためにとっておきの賛辞を用意していた。

「世界中に平和と繁栄をもたらせるのは、ドナルドだけだと固く信じています。そのために、私は諸外国に働き掛けて、しっかりと応援したい。今日、私はそれを伝えにきました」

戦争を仕掛けた張本人に向かい、照れも躊躇もなく、そう言い放つ。ホワイトハウスの玄関に出迎えたトランプ氏の胸に飛び込むパフォーマンスといい、したたかな演技者の面目躍如といったところか。だがこの発言、イラン側にすれば「日本はトランプと一蓮托生」という明確なシグナルと思えるだろう。

このあと、「掃海艇派遣を含めて、日本からの支援に納得いっているか」という質問に答えてトランプ氏が発した言葉は、生真面目な外務官僚たちの度肝を抜いた。

「それについてはこれから話す。日本とは素晴らしい関係にあり、大きな支援を受けている。数日前に出た声明を踏まえると、日本は期待に応えようとしていると思う。NATOとは大違いだ」

米海軍は現在、ペルシャ湾での掃海能力が危機的に不足している。NATOに協力を求めても、加盟各国が国内世論を気にして「検討中」のまま動こうとしないことにトランプ氏は大きな不満を抱いている。そのタイミングで開かれた日米首脳会談。相手はトランプ氏を「ベタ褒め」して寄り添う姿勢を見せる高市首相だ。日本を見習って、もっと金を出し、もっと軍隊を出せと欧州に圧力をかけるための「当てこすり」として利用するにはもってこいの機会だったはずだ。

だが、欧州諸国にとってはきわめて不快であるに違いない。トランプ氏に自制を求めつつも、なんとかその意に沿って多国間協調をはかろうとしている中で、日本だけが持ち上げられたのである。高市首相がしたたかに演じた「特別なパートナー」という役柄は、欧州の同盟国から見れば、トランプ氏の横暴を正当化する“共犯者”に映っていないかと懸念される。

そしてなにより、イランの受け止め方が気になるところだ。イランには元駐日大使のアラグチ外相がおり、今のところ日米首脳会談に対する反発は抑えられているように見えるが、高速艇によるゲリラ攻撃や機雷敷設能力を有する革命防衛隊を統制する権限は政府にはない。

これまでペルシャ湾を航行する日の丸タンカーは、日本・イラン間の「独自のパイプ」で守られてきた。だが、首脳会談での高市氏のトランプ賛美はあまりに度が過ぎていた。外交は「言葉のゲーム」といわれるが、「世界に平和をもたらせるのはドナルドだけ」と言う高市氏と、「NATOとは大違い」と高市氏を持ち上げるトランプ氏の掛け合いは、相乗的にイラン側の神経を逆なでしたのではないかと思えてならない。

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「属国外交」の完成形か。高市政権に突きつけられる請求書

高市首相は莫大な“財宝”を訪米の貢ぎ物としてトランプ氏に差し出した。小型モジュール炉の建設などに730億ドル(約11兆5,000億円)規模を投資するプロジェクト、アメリカの原油増産への投資…。いずれも米国側だけにメリットが大きい案件ばかりだ。しかも、11兆5,000億円プロジェクトの投資先はトランプ氏の支持基盤である激戦州に偏り、中間選挙に向けて功績をアピールする材料を提供している。媚態・朝貢外交もここまで極まると、見事というほかない。

それにしても、日本の対米外交はなぜここまで、トランプ大統領の無理難題を聞き入れなければならないのだろうか。その答えは、外務省の構造と姿勢にある。

同省が外交政策を判断をするさいの基軸になるのが日米安保条約である。それに基づいて、在日米軍人・軍属の実質的な“治外法権”を認める日米地位協定がある。そして、在日米軍と外務省官僚らで構成される「日米合同委員会」において、議事録も残すことなく日本支配のための密室協議が繰り広げられる。そのさい、安保条約を憲法より重視して政策を判断するのである。

外務省は、日米関係に波風をたてないよう外交政策を進めることで、省益を守っている。そこには首相でさえ手出しできない。かつて民主党政権の鳩山由紀夫首相(当時)は、同委員会の存在さえ知らず、普天間飛行場の沖縄県外移設を約束したばかりに米側の怒りを買い、外務省官僚のサボタージュを食らって政権運営に行き詰まり、退陣に追い込まれた。

高市首相は外務省の対米追従路線にそって首脳会談にのぞんだからこそ、当面の危機を乗り切ることができたのだともいえる。もちろん、高市首相の稀有な演技力がより効果を生んだことは言うまでもない。

高市首相はトランプ氏から特別な協力者として合格点をもらった。しかし、その代償として差し出したのは、11兆円を超える国民の富と、長年築き上げた中東との信頼、そして現場で波濤に揉まれる日本人乗員たちの安全である。

これから先、トランプ氏から突きつけられた「Step Up」という名の重い宿題が待っている。いま我々が目にしているのは高市氏の言う「ジャパン・イズ・バック」の光景か、それともより巧妙に進化した「属国外交」の完成形か。その答えは、間もなく届くであろう「軍事貢献」の請求書が教えてくれるはずだ。

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image by: 首相官邸

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