週刊誌報道をきっかけに浮上した、高市政権内に高まる不協和音。高支持率とは裏腹に、霞が関や永田町では高市氏に対する不満や警戒感が広がっているとも指摘されています。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、「首相の孤独」を報じる記事等を取り上げつつ、高市氏のリーダーシップの「特質と限界」を分析。その上で、今後の政権の行方について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:隠し部屋の煙、高市首相の孤高
早苗は「軽くてパー」じゃない?隠し部屋の煙、高市首相の孤高
よくもまあ、政治にさほど関係のない些末なことを、くどくど書くものである。週刊文春4月16日号。高市首相が「隠し部屋」に引きこもり、細い紙巻きタバコをくゆらせながら、資料とにらめっこしているというのだ。
高市首相がヘビースモーカーなのはよく知られている。総理執務室の扉一つ隔てた小部屋がその「隠し部屋」だ。いったんそこに入ったら、秘書官さえも寄せつけず、議員からの電話にさえ出ないで、ひたすら仕事に没頭。入室を許されているのは、木原官房長官、尾崎官房副長官、佐藤官房副長官くらいというから、「ひとり時間」へのこだわりは半端ではない。
この記事、渦中の今井尚哉氏が登場するというので読んでみた。トランプ大統領との首脳会談を前に、ホルムズ海峡に自衛隊を派遣する腹積もりをしていた高市首相を、今井氏が“羽交い締め”にして翻意させたとする月刊誌「選択」の記事について、文春が今井氏に質問状を送付したところ、今井氏本人から文春編集部に電話があったという。
「あの『選択』の記事は100%事実ではありません」と今井氏はきっぱり否定した。
「私が部屋に乗り込んで恫喝したと言っていたでしょ?乗り込んでいませんし、恫喝した覚えもありませんし、それから自衛隊派遣について高市さんと直接やりとりしたこともありません」
同記事について、高市首相も7日の参院予算委員会で「今井さんの名誉のために言うが、そのような話を私のところにしに来られたことはない」と言明している。
ざっと見れば、二人の発言が「完全否定」で一致し、「選択」の記事が捏造であるかのように思える。だが、共通の言い回しがあることに注意したい。
「高市さんと直接やりとりしたことはない」(今井氏)、「そのような話を私のところにしに来られたことはない」(高市氏)。どちらも条件付きの否定である。つまり、二人が顔を合わせて自衛隊派遣について話をしたことはないのは確かなようだ。しかし、電話やメールでやりとりしたかどうかについては言及を避けた感がある。
「選択」の記事は、一部誤報かもしれないが、自衛隊派遣について二人が激しく言い合ったのは事実ではないだろうか。そもそも、全くそんな話をしていないのなら、はっきりそう言うだろうし、「選択」誌に文句の一つでもあってしかるべきだろう。完全なでっち上げ記事になるからだ。
安倍元首相などは気に入らない報道があると、側近に命じてメディアに圧力をかけさせたものだ。菅義偉氏や萩生田光一氏はその急先鋒だった。高市氏がそうならないのは、メディアへの理解が安倍氏より深いこともあるが、おそらくは突進力のある強面の“忠臣”がついていないからではないか。
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「トップが何でも自分でやってしまう」という危うさ
文春の記事は、今井氏とのやりとりが中心ではない。高市氏の私生活にまで踏み込み、過労による健康不安を浮かび上がらせている。たとえば、総理としての激務をこなして夜、公邸に戻っても、11時までは夫の介護。それから寝て午前2時か3時には起きるという生活ぶりだ。
保守派論客からは、悪質なイメージ操作だと騒ぎ立てる声も出ているが、見方を変えれば、“スーパーレディ”礼賛記事のようにも受け取れる。実際、ここまで頑張る人は滅多にいない。
だが、トップが何でも自分でやってしまう危うさも考えておかねばならない。日米首脳会談のために渡米したさい、何を話すかについて高市首相は自分で考え、側近の力は借りなかったそうである。「だから上手くまとまったのよ」と胸を張ったらしいが、それを聞いたら、総理の“振付”を任務と心得る官邸官僚は立つ瀬がない。
保守層を中心に絶大な人気を誇り、支持率は高止まりしたまま。高市首相は衆院選で圧勝し、強い政治権力の確立をめざして勢いよく走り出したように見えた。しかし、霞が関でも永田町でも評判はいまひとつ。みんな何が不満なのかと思うが、つまるところは首相の「独りよがり」が原因なのだろう。
高市首相に対する「大衆的人気」と「内部評価」の乖離は、彼女がめざすリーダーシップのあり方と、永田町・霞が関で長年培われてきた「統治の作法」が真っ向から衝突していることに起因している。
この国の政治文化においては、「スキ」や「ヌケ」のあるリーダーが、周囲の助力を引き出すことで求心力を維持してきた面がある。「貸し借り」や「頼られ、頼る」というウェットな人間関係を基盤にしているからだ。ところが、政策通を自負する高市首相は、細部まで自分で把握し、実行しようとする。
「私が自分で考えたから、トランプ大統領との会談がうまくいった」という高市氏の言い方は、周囲の政治家を「俺たちは不要なのか」という気分に落ち込ませるもとになっただろう。徹夜して想定問答を作った官僚も然りだ。永田町や霞が関に渦巻く不満の本質は、高市首相が党や官僚を信じていないと組織側が感じ取っていることにある。
朝日新聞(4月14日)は以下のように、高市首相に対する党内の空気を伝えている。
依然として党内では「何を考えているかわからない」(ベテラン議員)と疑心暗鬼が広がっている。首相は党幹部への根回しや相談をほとんどせず、党とのコミュニケーションが乏しいことが背景にある。「意に背けばクビが飛ぶ」との恐怖心を漏らす議員もいる。衆院選後、国会の慣例を重んじる浜田靖一衆院議院運営委員長が交代となったほか、一時は梶山弘志国会対策委員長の交代論も広がった。
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高市官邸が直面するであろう「次の試練」の時に出る答え
高市首相は10日、首相官邸で麻生副総裁、鈴木幹事長、萩生田幹事長代行と約1時間、昼食をともにした。
会食は首相から持ちかけた。「コミュニケーションを取る」のが目的だという。むろん、そうに違いない。党執行部に知らせず衆院解散を断行し「みんな怒り狂っていた」のは、高市首相自身の発言から明らかである。党の一致結束に疑問符がつけられている。ここで意思疎通をはからない手はない。
むろん、麻生氏の「ご機嫌うかがい」といった面もある。衆院選後、高市首相は麻生氏の支配力を削ぐため、衆院議長への就任を要請し、麻生氏の怒りを買ったといわれる。しかし、麻生氏が面と向かって感情を表すわけがなく、高市氏とその側近はあくまでメディアの報道から情報を得ているに過ぎない。来年に総裁選を控え、麻生氏の真意を把握しておきたいだろう。派閥復活の動きもある中、萩生田氏のバックアップにも期待をかけているはずだ。
だが、この程度の会談で、麻生氏の機嫌が直るとは思えない。キングメーカーとしての自尊心を傷つけられた麻生氏は、「ポスト高市」としてコバホークこと小林鷹之氏にご執心とも聞く。永田町の「統治の作法」を無視する高市氏にもはや見切りをつけてしまったのかもしれない。
高市氏が目指すのは、これまでの日本の政治家が持たなかった「完璧な個」としてのリーダー像なのだろう。しかし、政治という営みは本来、不完全な人間同士が貸し借りや妥協を繰り返す、ひどく泥臭いゲームでもある。
大衆の熱烈な支持という追い風を受けて、彼女が永田町の論理を力でねじ伏せるのか、あるいはその壁に跳ね返されてしまうのか。その答えは、そう遠くない将来、高市官邸が直面するであろう次の「試練」のときに明らかになるはずだ。
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image by: 首相官邸