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高市首相「食料品の消費税率1%」で“円の暴落”は回避できるか?日本経済を賭けた“減税ギャンブル”の行方

物価高対策として浮上し、高市政権が実現を目指す食料品の消費減税。しかしその実施を巡っては、日本経済の根幹を揺るがしかねないリスクも指摘されています。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、減税財源として浮上する外為特会の活用や円安リスクについて詳細に検証。さらに減税後も国際市場からの信認を維持するために必要な条件と、日本経済が迎える重要な局面について考察しています。
冷泉彰彦さんが登壇する「まぐまぐ主催ウェビナー」が6/13(土)に緊急開催されます。詳しくは、本記事の最終ページをご覧ください。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:高市減税案で円暴落は回避可能なのか?

ただ1点の大きな問題。高市減税案で円暴落は回避可能なのか?

総選挙の公約に掲げた以上は、高市総理は消費減税を進めることは政権維持のためには必要と考えているようです。今回浮上した案としては、食料品を対象にした2年間限定の消費減税で、消費税率を1%とする案が有力だとされています。国政選挙については、28年の参院選までないわけですが、与党サイドとしては27年4月に実施される統一地方選までに消費減税を実現したいようです。

話はかなり具体的になってきており、政府は税率を1%とした場合、今秋に召集されるであろう臨時国会で関連法案の成立を図る方針と見られます。ちなみに、選挙での公約は「食料品の消費税率ゼロ」だったわけですが、どうして1%であるかというと、ゼロにするのには各小売の現場におけるシステム改修に1年かかるが、1%なら半年で改修できるという理由だそうです。

政権としては、確かに公約はゼロだったが、それでは半年以上の時間がかかるので、半年で実現できる1%への引き下げなら「世論の理解が得られる」と見ているようです。一方で、仮にゼロにする改修が間に合って、27年4月からゼロ化ができるのであれば、1%でなくゼロにする方向で関連法案を成立させるため、7月17日までの今国会の会期を延長することも視野に入れている、などという話も出ています。

ちなみに、どうしてもゼロ化だと時間がかかるので1%にするという判断になる場合ですが、毎日新聞(電子版)によれば「ある政府関係者」は「早期に実施できるなら1%でもよいのではないか」と主張しているそうです。また、その場合は、政府・与党内では、税収1%分に当たる年約6,000億円を補助金などの形で国民に還元し、消費税率「実質ゼロ」とアピールする案も浮上しているという話もあります。

ちなみに、レジのシステム改修を巡っては、0%以外であれば地方の小規模スーパーを含め全国で改修期間を短縮できるかどうか、経済産業省が最終確認を進めているそうです。経産省は今週中にも、その結果を「社会保障国民会議」に報告する予定で、その上で国民会議は6月中にも中間とりまとめを公表、それを踏まえて高市首相が判断するという順序になるらしいです。

この問題ですが、高市政権にとっても、そして日本経済にとっても非常に大きな判断になります。一言で言えば、ギャンブル性のある政治判断になります。勿論、27年の統一地方選や28年の参院選、そしてその辺りで控えている次の総選挙で、高市氏が勝ち続けて政権を維持できるかという問題、これは今回の減税案の成否にかかっているわけです。

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「減税をしなかった場合より生活苦が深刻になる」という問題

ただ、ギャンブル性のある重要な判断というのは、そうした意味で申し上げているのではありません。そうではなくて、1点、ただ1点の大きな問題が、この減税案にはあるということです。それは、

「減税をしても、国際市場から円と日本国債の信認を取り付けないと、より円安が進行して、国内の物価高を招いてしまう。その結果として、減税効果が消えてしまうし、むしろ円が過剰に売られた場合には、減税をしなかった場合より国民の生活苦は深刻になってしまう」

という問題です。実は、この問題については、高市政権には十分な防御策が仕掛けてあり、仮に国際市場が「減税を口実に円売りを仕掛け」ても、十分に論破可能である、そう考えているのだと思います。この「国際市場は論破可能」という見方、問題はこの点にあります。とにかく国際市場という相手のある話であり、高市政権が論破可能だと思っていても、相手が納得しなければ話は成立しません。

この「相手がある」ので論破可能と思っていても、本当に「納得してもらえるか」は、「やってみないとわからない」というのが、重要です。と言いますか、深刻な問題なのです。少々キツい言い方ですが、ギャンブル性があるというのは、この点についてなのです。

まず大前提として、

「日本は先進国中で最悪の<GDP比で250%の国家債務>を抱えている」

ということは、既に世界の投資家には知れ渡っています。ですから、1997年にアジア通貨危機が起きたときのように、円、あるいは日本国債が暴落の兆しを見せた場合には、世界から売りが殺到するでしょう。

その一方で、これもまた大前提として

「日本の経済規模、日本円や日本国債の発行残高は大きすぎて、例えば過去に潰れた韓国、タイ、ギリシャ、アルゼンチンのように潰せる規模ではない」

という認識があります。これはこれで間違ってはいないのですが、投資家の村上世彰氏が言っていたように、

「円の、あるいは日本国債の崩壊は、債務不履行などの劇的なショックとして起きるのではない。そうではなくて、ジワジワと円が安くなり、気がつくと信じられないほど円安になるという通貨のゆっくりした崩壊として起きる」

という見方があります。これはこれで、非常に怖い話で、特に「食糧とエネルギーを輸入に依存している」日本の場合は、デフォルトで潰れるよりも恐ろしいことになります。

そんな中では、世論の多くが「財務省は国民の生活苦を知らない」とか「岸田文雄は増税メガネだ」「財務省の増税路線はザイム真理教だ」などと批判しても、財務省は必死で耐えて来たのでした。

さて、こうした前提の中で、今回の減税論議をどう考えたらいいのでしょうか。

まず、食料品の消費減税というのは、どのような規模になるのかということですが、やはり非常に大きなものになります。この「減税額の大きさ」というのは、やはり問題です。食料品の消費税を1%にすると、現在の8%から7%分の税収が失われます。年間で数兆円規模の財源が必要になる可能性があります。

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高市政権の「追加の国債発行は不要」という宣言の裏にあるもの

問題は、その財源が恒久的に存在するのかという点です。ところで、高市政権は今回の減税には財源があるので、追加の国債発行は必要ないと言っています。どういうことかというと、「外為特会の利益」があるからです。外為特会というのは、国の特別な会計のことで、簡単に言えば「外貨準備」のことです。基本的には米ドルを確保しているのであって、円換算での総額は120兆円以上と言われています。

この外為特会というのは、とにかく政府が「行き過ぎた円安、行き過ぎた円高」になったときに、「為替介入」をするための秘密兵器のようなものです。そして、簡単に使ってはいけない性格のものです。ですが、今回、5月の連休から月末にかけて、円は「1ドル160円を超えるような円安圧力」を受けていました。政府日銀としてはどうしても、これに対抗する必要があり、公表されたところでは、11兆円をぶち込んだそうです。

総額120兆円の中で11兆円を使ったというのですから、ほぼほぼ国家の存亡をかけた戦いですが、結果的に現時点では1ドル159円程度で安定できています。それはともかく、11兆円をかけて「安いときに買ったドルを売って円を買った」ことになります。そして、おそらくは5兆円から7兆円程度の「利益」がキャッシュで受け取れたとされます。

つまり、今回は「外為特会の含み益、つまり実現していない利益」ではなく、本当に実弾を撃ってしまい、実際に「円建てで得たキャッシュの利益」がおそらくは6兆円位あるようです。このキャッシュを使って減税をする、これが今回の高市政権が言う「追加の国債発行は不要」という宣言の裏にはあるのです。

ところで、今回の減税が実現した場合に行き着く先ですが、悲観派が特に懸念するのは、英国の事例です。2022年、当時のリズ・トラス政権は大規模減税を発表しました。すると市場は、「財源が不明確だ」と判断し、「英国債の急落」「ポンド急落」が発生、金融市場は大混乱に陥りました。その結果として、トラス政権は短期間で崩壊しました。

また、日本特有のリスクもあります。先程申し上げたように、日本国債残高はGDP比でみれば先進国最大級です。それを、これまで市場が許容してきたのは、「国内の個人金融資産が豊富」「日銀が国債を大量保有」「他国に比較すると低インフレ」という条件があったからです。

そうなのですが、今後、「さらなる人口減少」「さらなる高齢化」「回復しない生産性」「外国人忌避による労働力不足や社会の混乱」「さらなるインフレ定着」が進めば好条件は完全に帳消しになります。

そうした中長期の問題が明らかである中で、問題は次の一点に集約されます。それは、

「今回の減税は、行き過ぎた円安とイラン情勢による物価高から、一時的に国民の生活を救済するため」

「そして期間は2年に限定し、その減税の財源は、既に5月の為替介入の結果としてキャッシュとして手元にあるので、借金の積み増しは不要」

というストーリーを国際市場が信じるかどうかという一点です。国際市場が信じてくれれば、減税案が審議される中で円が暴落するというのは避けられるでしょう。反対に、国際市場が信じてくれなければ、円安物価高への対策を審議する中でどんどん円が暴落するという悪夢のようなことになります。

これは、どう考えても高市政権の、そして日本の大きな岐路になります。

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国の方向性として考えておかねばなならない「2年後の出口」

とにかく、国際市場から信じてもらえるのか、問題はその1点ということなのですが、その場合に大きな疑問が残ります。それは、

「消費減税が2年限定だとして、出口はどうするのか?」

という疑問です。政権のホンネとしては、「そんな先のことはSF的な領域であり、分からないし想定もできない」ということなんだろうと思います。確かに「一寸先は闇」である政界の時間軸、そして時々刻々とサプライズが続く国際情勢、更には何が飛び出すか分からないAI革命などの中では、そうかも知れません。

2年なんて先のことは分からないし、今回の場合は、減税開始が2027年4月ですから、2年の時限措置として「出口」は2029年3月になります。確かに気の遠くなるような先の話ですし、例えばですが「そこまで政権が持てば御の字」という感覚があるとして、まあ分からない話ではありません。

ですが、それではダメなのです。なぜかと言うと、金融市場とか、国際的な投資家や投機筋というのは、2年後を考えるような「立派で余裕のある人々」だからではないのです。そうではなくて、国債とかもろもろの債券というのは、2年とか1年の短期だけでなく、もっと長い5年もの、長期の30年ものから40年ものまであるのです。

そのように短期資金と長期資金が組み合わさって入り乱れる中で、国際市場というものは成立しています。そんな中では、「2年先などという未来のことは分からない」というのでは困ります。結果はどうなるか分からない、それはそうかもしれませんが、国の方向性としては「2年後の出口」は考えておかねばなりません。

というよりも、2年後の出口を一応持っていることが、5年、10年、30年、40年という長期にわたる国の信用、通貨の信用のベースになるということです。そして、このことは非常に大切な問題なのです。

可能性としては4つあります。

1)2年後には増税を行って、財政規律を確保するという対外公約を言い続ける

2)今後も外為特会の続く限り、円安防止の介入を続けて、そこで得た差益を減税資金として投入し続ける

3)日本発の多国籍企業だけでなく、日本国内のGDPが正しく成長するように、DX、AI、外国人労働力を適切に利用する姿勢を見せる

4)財政規律の正道として、改めて行政改革を強く実施して、仮に相当な痛みを伴うものであっても、歳出カットを進める姿勢を見せる

大きく分けてこの4つですが、ここで強調しておきたいのは、恐らくこの4つを国の姿勢、政権の姿勢としては全て「強く主張し、強く見せ続ける」ことをしないと、円と国債は持ちこたえられないのではないかと思います。

落としどころとしては、この4つをしっかり訴えて、特に2)は可能な限り続けて、最終的には29年3月の時点でも財政が大きく悪化することは「ない」し、円と国債が暴落することも「ない」という信用を獲得するのです。

そのうえで、では、29年4月の時点で再び食料品の消費税を8%に戻せるのかと言うと、それは「戻せる」ということを胸を張って言うしかないのです。さらに言えば、3)と4)に手応えがあることを見せることで、29年4月以降も「日本は、日本円は大丈夫だ」ということを言うしかありません。

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「これから悪化」することが確実な国民の実質的な手取り

つまり、2027年4月から2029年3月の2年間、消費税減税を行いつつ、財政規律を維持するのです。そのうえで、自転車操業的に外為特会の差益を減税原資としてブチ込むだけでなく、3)と4)、つまり国内ベース、GDPの成長と、行政改革による財政健全化への方向転換を見せるのです。

そのような「2年間」を国際市場からの信認を保ちつつ乗り切ることで、始めて29年4月の出口が見えてくるのだと思います。これは非常に難しい話ですが、高市政権のこれは使命だと思って取り組むしかありません。

まずは、現在、2026年6月に入った現時点での経済の足元を見るのであれば、イラン情勢による原油高、ナフサ需給の問題を契機にした「値上げ」は「まだこれから」です。そして、恐らくトランプ政権も、イランの宗教体制も「政治的には対立を欲する」体質を克服できないでしょう。ということは、国民の実質的な手取りは「これから悪化」します。

その意味で、給付か減税かという選択肢は依然としてあるにしても、政治は何もしないわけには行かないと思います。そうではあるのですが、減税が円の暴落の引き金を引いては本末転倒です。とにかく、世界の金融市場からの信認を切らさない、これが当面の大きな問題になると思います。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2026年6月2日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週の論点「コンサル就職ブームはオワコンなのか?」、人気連載「フラッシュバック81」もすぐに読めます。

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■第三部 冷泉さんへのQ&Aコーナー
参加者からのご質問に、冷泉さんが直接お答えします。 ※リアルタイムでチャット欄からご質問いただけます。

開催概要
日時2026年6月13日(土)10:00~11:30(90分)
形式:Zoomウェビナー
受講方法:お申込み後、視聴用URLをメールにてお送りします

お申込みは、今すぐ下記URLへ
https://peatix.com/event/5026481/view

参加チケット:5,500円(税込) 


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冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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