日傘のUVカット率や接触冷感シーツのひんやりとした冷たさ。そうした目に見えない「機能」の寿命って、どのくらいだと思いますか?
見た目では劣化が分からないからこそ、本来の性能を発揮できないまま使い続けているケースは少なくありません。
今回は、判断の難しい「機能の寿命」を専門家にリサーチ。道具を最高の状態で使い切り、次へ繋ぐための「サイクル」のあり方を紐解きます。
記念すべき第1回のテーマは「日傘」。これからの季節、使う人が爆増するこのアイテムのサイクルについて、自由が丘の傘専門店『Waterfront JIYUGAOKA/TOKYO』に話を伺ってきました。
日傘はブームから、夏のインフラへ
──最近、街中で日傘をさす人が男女問わず爆発的に増えましたよね。じつは、僕も昨年から日傘デビューしたクチです。このトレンドはいつ頃から本格化したのでしょうか?
Waterfront広報:大野幸愛さん
日傘デビューおめでとうございます(笑)。男性でも日傘を使ってくれているのは、専門店としてうれしく思います!
日傘が一般的に大きく普及し始めたのは、2024年くらいからですね。その頃から情報番組などでも「暑さ対策として日傘が有効」と大きく取り上げられるようになりました。昨年からは「日傘男子」という言葉も定着し始め、今年は男性の普及率がさらにグッと上がっている実感があります
──実際に売上などの具体的な数字にも現れていますか?
一番分かりやすいのは、ここ自由が丘店の4月の売上です。日傘の売上が前年比で約80%プラス(180%)になっています。会社全体の生産割合でみても、昨年までは雨傘6:日傘4だったのですが、今年はついに5:5の半々になりました。
このままいけば、来年には日傘が雨傘を追い抜くのではないかと思っています。こうした数字をみていると、「女性以外には縁遠いアイテム」という意識がすごい勢いで変わってきたなと実感しています
裏面のポリウレタンコーティングが今の主流
──完全に夏の必須インフラになってますよね。日傘がこれだけ普及している背景には、素材の進化なども関係しているのでしょうか?
すこし前までの日傘は、フリルや刺繍があるような布地に、紫外線カットの「溶剤(塗料)」を吹き付けているものが主流でした。ただそれだと、摩擦などで溶剤が徐々に落ちてしまうんです。
しかし、現在は生地の裏面に「ポリウレタンコーティング(PUコーティング)」を施したモノがほとんど。これによって、目に見えない紫外線だけでなく、まぶしい日光も強力にカットできるようになりました。表面の生地は雨傘と同じモノが使えるので、「晴雨兼用」として雨の日も使えるモデルが多くなっています
──よくカタログで「UVカット率100%」や「99.9%」という表記を見かけますが、この違いは何ですか?
じつは、ポリウレタンコーティングをしている生地自体の遮光・UVカット率は、どれも100%なんですよ
──え、どれも100%なんですか? では、なぜあえて99%という控えめな数字を謳うブランドがあるんでしょうか?
傘って、生地をミシンで縫い合わせるため、その縫い目からどうしてもわずかな光が漏れてしまうんですね。「100%光を遮る傘です」と言ってしまうと、優良誤認になる恐れがあったため、あえて99%という表記に抑えていました。
ただ、今年になって当社では、お客様に商品の性能をより分かりやすくお伝えするため、生地単体での測定値が100%であることを注釈で明記したうえで、「100%」表記を採用しています。性能基準を明確に示し、安心して商品をお選びいただけるよう努めています。傘市場でも、注釈をつけた上で100%を記載しているところも多いです
トレンドは遮光から遮熱へ
遮光率100%が当たり前になったいま、次のトレンドは「遮熱性(どれだけ暑さを防げるか)」に移っています。たとえば弊社の「COKAGE+(こかげプラス)」というシリーズでは、東レさんの「サマーシールド®Ⅱ」という特殊な3層構造のラミネート生地を採用しています。
通常の雨傘生地にコーティングを塗るのではなく、生地の構造そのもので熱を通しにくくしているため、一般的な日傘よりも段違いに涼しいです
日傘の機能は経年劣化しない…?
──ここからが本題なのですが、そんな高機能な日傘の機能的な寿命は何年くらいでやってくるのでしょうか? 「日傘は2~3年で買い替えろ」なんて話を耳にしたこともあります。
そこを気にされているお客様は多いですね。じつは、裏面にPUコーティングが施されている現代の日傘は、経年劣化でUVカット率や遮光率が落ちることはありません。生地が破れたり、穴が空いたりしない限り、光や紫外線を遮る機能の寿命は尽きないと言っていいと思います
──本当ですか!? 強い日光に当たり続けることで、コーティングが徐々に劣化していくようなイメージがありました。そうなると、買い替える必要はないんですかね?
それは先ほどお話しした「古いタイプの、溶剤を吹き付けただけの日傘」の知識があったからだと思います。今のコーティングが施された日傘は、生地が健在なら機能は基本的には落ちません。
ただし、「傘」本来の寿命としては、やはり2〜3年がひとつの目安になります 。理由は「骨の歪み」と「汚れ・撥水性の低下」にあります
傘が2〜3年で寿命を迎える本当の理由
まず傘は開閉を繰り返すギミックなので、目に見えにくくても骨組みに歪みや曲がりが出てきます。特に風の強い日や大雨の日に使うとダメージが蓄積します。
もうひとつが「汚れ」です。傘をたたむときにはどうしても手が生地に触れますよね。その際に手の油分や摩擦、空気中のホコリが生地に付着すると、雨傘としての撥水機能がすこしずつ落ちてしまうんです。その結果、だいだい2年ほどで撥水機能が落ちてきて、晴雨兼用としての役割が果たしにくくなっていきます
──確かに、傘をたたむときって、手のひらで生地をぎゅっと包むようにして整えてます。あれ、よかれと思ってやっていましたが、手垢や油分をなすりつけていたわけですか……。見た目はまだ綺麗でも、雨を防ぐという傘本来の機能の寿命が先に尽きてしまうと。まさにこれが「まだ使える」と「買い替え時」の境界線なんですね。
プロに教わる、傘の寿命チェック方法
──自分の傘や日傘の機能がまだ生きているか、自宅でかんたんに見分けるチェック方法はありますか?
分かりやすいポイントがふたつあります。
ひとつ目は、開閉がスムーズかどうか。意識的にゆっくり傘を開閉してみてください。もし「どこか引っかかるな」「スムーズにカチッと止まらないな」と感じたら、骨が歪んでいたり、パーツがズレたりしているサインです。
ふたつ目は、光にかざして「ピンホール(光の穴)」がないか。内側からスマホのライトや蛍光灯の光にかざしてみてください。コーティングが擦れてできた、針で刺したような小さな光の穴(ピンホール)がポツポツと空いている場合、そこから紫外線や熱が漏れてしまっています。これが目立ってきたら替え時です
日傘の寿命を延ばすコツは?
──お気に入りの傘を少しでも長持ちさせるためのケア方法ってあるんでしょうか? 晴雨兼用のきちんとした1本を買った場合、できるだけ長く使いたいです!
まず、「しまいっぱなし」は絶対によくありません。スニーカーのソールと同じで、湿った場所に長期間放置すると、裏面のポリウレタンが加水分解を起こしてベタついてしまいます。シーズンオフでも、たまに日陰で開いて風を通してあげてください。雨に濡れたあとは、お風呂場で換気扇を回して「開いて干す」のが一番オススメです。
また、生地の撥水性が落ちてきたと感じたら、上から40度くらいのお湯をバーっとかけて汚れを洗い流し、完全に乾かしてからドライヤーの熱を生地から離したうえで軽く当ててあげると、寝ていたフッ素の繊維が立ち上がり、撥水性がある程度復活する場合があります。たたむときも、クシャクシャに丸めてギューギューと力任せに縛ると、骨と生地が擦れてピンホールの原因になります。優しく丁寧にたたんであげるのも、重要なケアのひとつです
「1本を長く使う」ための、これからの傘選び
──今回の連載では「手放したあとのサイクル」もテーマにしています。傘は年間約8000万本もリサイクルされず、そのまま廃棄されていると以前聞いたことがあるのですが、メーカーとしてこの問題にはどう向き合われていますか?
正直にお伝えすると、傘は金属や布が複雑に組み合わさっているため分別のハードルが非常に高く、リサイクル回収や下取りといった制度づくりはまだ実現できていないのが実状です。しかし、その廃棄を少しでも減らすための製品開発をスタートさせています。
1つは、伊藤忠商事さんの「再生ポリエステル生地」を傘生地にアップデートして作った傘の展開。そしてもう1つが、6月17日に発売した新商品「サカサナノ(SAKASANANO)」です
生地をペリペリ剥がして「貼り替えられる」革新的な傘
──おお……! 既存の傘とは形状がまったく違いますね。たしかに逆さまになってます。
そうなんです(笑)。濡れた面が内側に閉じる逆さ構造にしています。これによって、たたむときに手が生地に触れないので、先ほどお話しした「手垢で撥水性が落ちる問題」を物理的に解決しました
さらに凄いのが、スナップボタンで表面の生地だけを外して、新しい生地に貼り替えられる構造にしたことです。
傘がたくさん廃棄されている現状から、長く使い続けられる傘を作りたい「それなら生地を貼り替えられるようにしよう」という逆転の発想から生まれたのが「サカサナノ」です。
お値段は14,300円(税込)と弊社としては初めての1万円台になってしまいました。ですが、ビニール傘を使い捨てるよりもずっと愛着を持って長く使っていただける1本になったと思います
──すごい……。布地を貼り変える点も逆さまな形状も画期的ですし、この機能が傘の需要を伸ばすことに特化したものというのも、買い替えだけじゃない選択肢を生み出そうとする専門店の本気を感じました。
傘の寿命からケアの方法、画期的なアイデアまで、今日は素晴らしいお話をありがとうございました!
まずは手元の傘のセルフチェックから!
見た目は綺麗でも、目に見えないところでやってくる道具の賞味期限。今回の取材は、日傘に使われた技術や素材のポテンシャルの高さと、だからこそ見落としがちな「寿命のサイン」を教えてくれる機会となりました。
「壊れていないから」と、撥水性が落ちた日傘を無理に使い続けるのは、せっかくの快適さをすこしロスしていることになるのかも。
プロ直伝のセルフチェックとセルフケアにトライして、まずは手元の日傘の状態を確認することから始めてみませんか?
Text and Photographed by Motoki Taguchi
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提供元:ROOMIE