物販の経験も、特別な英語力もない。2015年、48歳で米国Amazon輸出を始めたムラセ・サトシさんは、そんなところからの出発だった。仕入れが怖くて手が止まり、周囲との差に落ち込む日々を経て、単月売上はやがて3,000万円を超える規模にまで育っていく。派手な成功譚ではなく、小さな失敗を一つずつ修正しながら重ねてきた11年。いまはさんたま輸出コミュニティの北米Amazonメイン講師として後進を支えるムラセさんに、その道のりを聞いた。
半信半疑で開いた、9,800円の教材
ムラセさんが米国Amazon輸出を始めたのは2015年、48歳の夏だった。それまでは株やFXに取り組んでいたが、投機性の高い世界では収入が安定しない。相場を読み違えれば、一日で数十万円が消えていく。「この生活を5年後、10年後も続けられるのか」——そんな不安を抱えていたときに出会ったのが、FX時代の知人から紹介された、米国Amazon輸出を解説する一冊の教材だった。
「当時は、インターネットで売られているビジネス教材に強い警戒心を持っていました。『初心者でも簡単に稼げる』『月収100万円』——そんな広告を見るたびに、本当に信用してよいのだろうか、と」
それでも読んでみようと思えたのは、信頼できる知人からの紹介だったから。「9,800円なら勉強代として読んでみよう」。そう考えて教材を開くと、三つのことに驚いたという。個人でもAmazonで商品を売れること。日本にいながら米国の顧客へ販売できること。そして、英語や輸出という心理的なハードルの高さが、かえって競合の少なさにつながるという考え方だ。
「英語が得意なわけではありません。それでも、必要な表現を一つずつ調べながら進めれば、自分にもできるかもしれない。むしろ、そのハードルがある方がライバルは少ないのかもしれない。そう思えたんです」
数千円の仕入れさえ、怖かった
とはいえ、始めてからの道のりは平坦ではなかった。2015年8月、教材どおりにアカウントを開設し、いざ自分のお金で仕入れる段になると、話はまったく違った。
「数千円の商品でさえ、仕入れるのが怖かったんです。『本当に売れるのか』『売れ残ったらどうしよう』と、仕入れボタンを押しては画面を閉じる。それを何度も繰り返していました」
恐る恐る仕入れた商品も、すべてが売れるわけではない。競合の数を十分に調べずに買った在庫が、少しずつ残っていく。FXで身につけていたはずの「損切り」も、物販では同じようにいかなかった。「目の前に商品があると、『もう少し待てば売れるかも』と期待を捨てられない。損失そのものより、失敗を認めることを恐れていたのだと、あとになって気づきました」
周囲との差にも悩んだ。当時のコミュニティに集まっていたのは、すでに国内で物販を手がける経験者が多かった。チャットには「月商300万円を達成しました」「今月は400万円を超えました」という報告が並ぶ一方、ムラセさんの売上は月10万円に届くかどうか。「誰かに責められたわけではありません。それでも、自分だけが取り残されているように感じた。あの頃いちばん苦しかったのは、お金よりも、その孤独だったと思います」
大阪の懇親会で聞いた、たくさんの「失敗談」
流れが変わるきっかけになったのは、意外にも教材の中身そのものではなかった。教材を買って間もなく、その発行者である恩師・さんたま氏が大阪で懇親会を開くと知る。兵庫県に住んでいたムラセさんは、迷わず参加を決めた。
そこで聞けたのは、華やかな成功談ではなかった。商品が売れなかった話、書類で苦労した話、資金不足で思うように仕入れられなかった話——実践者たちが経験した数多くの失敗と、その立て直し方だった。
「その話を聞いて、考え方が一つ変わったんです。成功する人とは、失敗しない人ではない。失敗を修正しながら前へ進める人なのだ、と。いま振り返ると、あの日が本当の出発点だったのかもしれません」
単月売上の推移——30万円から、3,600万円へ
もう一つの転機が、初めての年末商戦だった。クリスマス前になると需要が高まり、それまでゆっくりとしか売れなかった商品が、続けて売れていく。用意していた在庫は、間もなく底をついた。
「初めて、『売れないこと』ではなく『売る商品を用意できないこと』で悩みました。米国市場には確かな需要がある。それを、自分の販売データを通して実感できた瞬間でした」
販売開始の2015年、単月売上はおよそ30万円。翌2016年に約200万円、そして初めて融資を受けて仕入れを広げた3年目の2017年には、単月売上が約1,200万円へと伸びた。前年のおよそ6倍にあたる。その後も少しずつ事業を積み重ね、2022年に約2,500万円、2023年に約3,000万円、2024年には約3,600万円(いずれも単月売上)に達した。
「もちろん、この数字の裏には、売れなかった商品も、利益の出なかった仕入れもたくさんあります。数字だけでは見えない失敗のほうが、はるかに多かった。だからこそ、結果が出ない時期にも意味があったのだと思います」
「致命傷」だと思っていたものは、実は「かすり傷」だった
順風満帆だったわけではない。挫折しかけた場面は「数え切れないほどあった」とムラセさんは言う。10万円ほどの売れ残り在庫を抱えたときは、「もう事業を続けられないのではないか」と思い込んだこともあった。
だが、経験のあるセラーは違った。同じような損失が出ても、原因を確認し、価格を調整し、在庫を処分して、次の商品へと進んでいく。
「大事なのは、感情と事実を分けて考えることでした。実際の損失はいくらなのか、手元資金はいくら残っているのか、次は何を変えるべきか——数字に置き換えてみると、『事業全体が終わる問題』ではなく、『一つの仕入れ判断を直せばよい問題』であることが少なくなかったんです。経験がなかったからこそ、小さな失敗まで致命傷だと思い込んでいたのだと思います」
具体的な手法よりも、この「捉え方」が変わったことのほうが大きかった、と静かに振り返る。
数字は、不安を減らすために見る
成長を支えたのは、派手なテクニックではなかった。ムラセさんは今も毎朝、セラーセントラルの数字を確認する。前日の売上、月間売上、利益率、在庫回転。慣れれば10分ほどの習慣だ。
「数字を見るのは、利益を自慢するためではありません。損失を止めるために見るものなんです。『今月は大丈夫だろうか』と考えているだけでは、不安は消えない。数字で把握できて初めて、次に何をすべきかが見えてくる」
近年はAIも取り入れている。「情報整理や文章作成の補助には、AIを活用しています。ただ、最終的な判断をするのは、いつも自分自身です。その姿勢は、これからも変わらないと思います」
売上より先に、体が限界を迎えた
数字以外の変化も大きかった。事業に没頭していた数年間、ムラセさんは「アメリカ時間に合わせたほうがよい」と思い込み、深夜2時、3時までパソコンに向かっていた。夜中に働き、明け方に眠り、昼前に起きる——家族と過ごす時間は減り、体重は増え、寝つきも悪くなっていった。
「このままでは、事業より先に自分の体が壊れてしまう。そう感じて、思い切って深夜対応をやめてみたんです。実際にやってみると、多くの問い合わせは翌朝でも十分に対応できました」
米国で販売しているからといって、自分まで米国時間で生活する必要はない。夜に眠り、朝に起きる生活へ戻した。さらに毎日30分ほど、スマートフォンもイヤホンも持たず、近所を歩くようにした。
「最初は『その時間で商品を調べたい』と思っていました。でも、逆でした。歩いていると考えが整理されて、机の前では思いつかなかったことが浮かんでくる。散歩は、仕事を中断する時間ではなく、仕事を整理する時間だったんです」
年末商戦で大きな売上を上げたこと以上に、「健康な状態で仕事を続けられるようになったことのほうが、自分にとっては価値のある成果だった」と振り返る。
次の一歩は「出版販売」へ
ムラセさんの取り組みは、米国Amazon輸出だけにとどまらない。生徒一人ひとりのサポートに加え、SNSでの発信、そして次の一歩として見据えているのが「出版販売」だ。これまで積み重ねてきた知見やノウハウを一冊の形にまとめ、必要としている人へ届けていく。
「日本のものを世界へ」を米国Amazon輸出で続けてきたムラセさんにとって、出版もまた、価値ある情報を確実に届けるための一つの手段になる。「受け取った恩を、次へつないでいく」——その思いは、事業の形が変わっても揺らがない。そしてその第一歩が、いま一冊の入門書として世に出ようとしている。
「特別な才能」がなくても、続けてこられた
私は決して、特別な才能に恵まれていたわけではない——ムラセさんは、そう繰り返す。物販とは無縁の人生を送り、英語も得意ではなかった。それでも続けてこられたのは、手順を整理し、数字を見て、原因を分解し、仕組みを改善したから。そして何より、ライバルであり仲間でもあるコミュニティのなかで、切磋琢磨できたからだという。
「失敗したときに、感情だけで判断せず、事実を確認して、必要なら立ち止まり、仲間に相談して、もう一度前へ進む。その考え方こそが、この11年間で得た、いちばん大きな財産だと思っています」
恩師から受け取ったバトンを、次に入ってくる人へ渡していく。半信半疑で足を踏み入れた世界で、一人の未経験者が見つけた道は、いま静かに、次の誰かへと手渡されようとしている。
そのバトンを受け取るための、いちばん確かな入り口が、次の一冊だ。
<書籍のご案内>
ムラセさんの「11年分」を、一冊に
本記事で紹介したのは、ムラセさんの歩みの、ほんの入り口にすぎない。アカウントの開設から、商品リサーチ、仕入れ、米国への発送、資金繰り、そして出品規制の突破まで——その一つひとつの具体的な手順は、一冊の本にていねいにまとめられている。
『初心者のための米国Amazon販売入門(2026最新版)』(著・ムラセ サトシ/監修・さんたま輸出コミュニティ/まぐまぐ出版)は、物販がまったくの未経験でも、米国Amazon輸出の全体像を順を追ってつかめるように書かれた入門書だ。巻末には、会社員から独立した人、60歳から始めた主婦、3名のチームで運営する人など、実際に成果を出した5名の「実践者の声」も収録されている。
「最初から、大きな売上を目指す必要はない」。ムラセさんがそう語る「小さな一歩」を、この一冊が、そっと後押ししてくれるはずだ。
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