高市早苗首相の今回の米国訪問は、日米同盟の強固さをアピールする機会となったのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、高市首相の今回の訪米と日米首脳会談、国連総会での「旧敵国条項」をめぐる発言を振り返り、米中関係の動きと合わせて、その外交的な意味を考えていきます。
一敗、地に塗れた高市早苗首相の訪米
国連総会出席のため訪米した高市早苗首相は9月22日、ニューヨークでトランプ米大統領と日米首脳会談を開き、翌日にワシントンを公式訪問する中国の習近平国家主席を強く意識しつつ、「日米、対中で緊密に連携、首脳会談『同盟の強さ示す』、米中会談前に擦り合わせ」(日本経済新聞24日付朝刊1面トップ大見出し)を精一杯に演出した。
しかし、よく言われることだが、日本側から無理やりねじ込んだ日程のため、時間はわずか35分間で、通訳の時間を除けば実質はわずか15分の「挨拶程度」に過ぎない。それを高市が日本人記者団に「アジアでも厳しさを増す〔中国の脅威という〕安全保障環境のもと、日米同盟の強さを世界に示せた」と大袈裟な決まり文句で説明すると、日経・読売・産経の「高市忖度3兄弟」だけは上述のような大見出しで報じるけれども、日本の他紙も世界のどこの国のメディアも、そんなふうには報じていない。「日米同盟の強さを世界に示せた」というのは虚偽である。
NYタイムズ24日付は、高市と同じ日に国連で演説した李在明=韓国大統領がトランプに対し、北朝鮮への制裁を解除し対話を再開するよう求めたことを、事前のソウルでの長時間インタビューの内容を含め、大きな写真入りの記事で伝えているが、紙面のどこにも高市のタの字も見当たらない。
あれれ? 同盟国は日本<中国!
それでもまあ気分良く帰国したであろう高市は、しかし、25日から26日にかけての米中首脳会談の報道に接して、驚愕したのではあるまいか。米共和党議員の間からも「やりすぎだ」と批判が出るほど至れり尽くせりの厚遇ぶりで習近平を迎えたトランプは、最初の歓迎式典での挨拶で、
「歴史を振り返れば、共通の利益を追い求めるなかで、両国の人々は広大な海や数々の違いを超え結びついてきた。第2次世界大戦では同盟国にさえなった」
と、中国を同盟国呼ばわりし、それに対して習も、
「第2次世界大戦で中国とアメリカはともにファシズムと戦った。まさに先ほど、トランプ大統領がおっしゃったようにこの歴史を中国人民は忘れないし、アメリカ国民も忘れない」
と応じた。米中が共に肩を並べて直接に戦ったファシズムとは、ドイツでもイタリアでもなく日本でしかあり得ない。こうして、せっかく高市は<日本+米国 vs 中国>の図式を「世界に示せた」つもりだったというのに、当のトランプからそれを覆され、逆に<米国+中国vs 日本>の図式に嵌め込まれてしまったのである。
昨年10月のトランプ来日、今年3月の高市訪米であれほどピョンピョン跳ねたりベタベタ抱きついたりしたというのに、この仕打ち。さぞかし悔しい思いをしていることと思うけれども、これも実は自ら招いた災禍なのである。
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何で今更「敵国条項」など持ち出したのか?
なぜなら、9月22日の国連総会での演説で高市は、敢えて国連憲章53条、107条などの日独伊などに対する「旧敵国条項」規定の削除を「日本の誇りと名誉にかけて強く申し上げておきます」と言い放っていた。その口調の強さはいささか常軌を逸していて、あくまで私の推測にすぎないけれども、外務省や官邸の官僚が首相の演説草稿にここまでの表現を盛り込むとは思えないので、高市の「一人芝居」だったのではないか。
ご存知の通り、United Nationsの和訳は1945年10月23日までは「連合国」で、翌24日からは「国際連合」となった。第2次大戦中は、日独伊はじめその同盟国・従属国だったブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、フィンランドが「枢軸国」=ファシズム陣営で、それに対する米英仏ソ中をはじめ反ファッショ統一戦線が「連合国」である。後者がそのまま国連に移行したので、当初は日独伊などのファシズム復活への警戒心が強烈で、それら旧敵国が第2次大戦の結果として確定した国境などの事項を覆そうとした場合には加盟国は安保理の決定を待つことなく当該国に軍事的・経済的制裁を課すことができると規定した。その後、日独伊などが主権を回復し国連加盟も達成したことにより、それらの条項はすでに実効性を失い死文化したと見るのが国際常識であり、また日本外務省の見解ともなってきた。
このほとんど忘れられていた問題が蒸し返されるきっかけを作ったのも、実は高市自身で、25年11月7日の例の「台湾有事は日本有事」の国会答弁の後、中国の国際法の専門家である孔慶江=政法大学国際法学院副院長が11月16日付の国内テレビでこう発言した。
「国連憲章の敵国条項は依然、有効である。仮に日本が集団的自衛権によって台湾問題に介入した場合、中国はこれを日本による侵略行為であると解釈し、敵国条項に基づき、安保理の事前承認を経ずに直接的な措置・執行行動をとり得る」
こうした見解は、他の中国語メディアでも繰り返され、在日中国大使館も25年11月21日付のX公式アカウントで敵国条項を引用し、「中国は安保理事会の許可を要することなく、日本に対し直接軍事行動をとる権利を有する」と主張したのである。このような中国側の反応に高市はカチンと来て、今回の国連演説で「正面切って反論してやろう」と思い立ったのに違いない。しかし、これはとんだ藪蛇で、習近平だけでなくトランプまでもが、日本がかつて敵国であったことを思い出してしまったのである。
相も変わらず、自由主義 vs 共産主義の20世紀的価値観でしか世界を捉えられない高市の限界がここにも露呈している。
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