毎日、それこそ湯水のように報道される日本各地のニュース。中には「よくこんな映像撮れたなー」などと感心してしまうようなものも多々あります。そんな現場の苦労や知られざる真実を、元報道カメラマンが無料メルマガ『お教えしましょう!報道・撮影現場の裏側』で配信しています。
きょうも1日
きょうも1日中「待ち」になるだろう。
T自動車の幹部が逮捕された。警察がガサ入れに来る可能性大なので、そのT自動車本社の前でスタンバイだ。自分1人ではと、さすがに若手のS記者とT音声マンをよこしてくれた。
朝8時、きょうはこれからこの3人で、同じ1日を過ごすことになるだろう。
本社ビル前の歩道にカメラを据えた。このT自動車は、大企業だけあって、すかさず警備員が飛んできた。いつものことだ。歩道にいる限り何か言われることはないが、必ずやってくる。
私:「何時になるかわかりませんよ」
警備員:「ええ、わかってます、私たちのことはゴミだと思ってください」
そういいながら自分たちがいる限り、見えるところに立っている。まあ、それが彼らの仕事だ。
T自動車の本社ビルは、でかい。車もひっきりなしで出入りする。そこで警察らしき車両を見分けて、撮れという。
脚立も2つ持ってきて長期戦に備える。天気はいいが、その分、日差しがきつい。歩道には大きな樹木が多く、日陰にあわせて徐々に移動する。他社がどこもいないから、できる業だ。
昼になった、S記者がおにぎりとお茶を買ってきた。歩道の上、3人で昼食だ。こんなでかいビルの前の歩道でおにぎりを食べるなど、日常ではありえないことだ。
午後2時、日差しが一段と強くなった。少し離れたところには相変わらず警備員が立っている。交代しているとはいえ、日差しの中、前を見据えたままだ。あれも大変な仕事だな。きっと心の中で、「はよ帰ってけ~~っ」とオレたちに叫んでるんだろうな。
午後3時をまわった。S記者は相変わらず走ってくる車のナンバーを読みとっている。
S:「これだけ車ばっかり見てるのも、人生初めてだな」
それらしいナンバーの車は数台いたが、この正面には入らず、真っ直ぐ走り去ってしまった。
いつまでここに居ればいいんだろう。ただ脚立の上に座ってみてるだけだが、1日いるとさすがに疲れてくる。
午後4時、本社のカメラデスクから連絡がきた。スタンバイ解除の指令だ。結局、ガサ入れに入ったのかどうか判らなかった。機材を撤収、一応確認のために車で、ビルの周りを1周した。正面に帰ってきたとき、すでに警備員の姿はなかった。
記者と音声の2人と別れて帰路についた。やれやれ、そう思ったとたん、カメラデスクから電話がかかってきた。
D:「すぐ、H町に向かってもらえませんか?」
え…、ま、まだ何かあるのお……。
仕事はつづく…。
ゴミ屋敷
T自動車の本社の前で朝から1日中スタンバイ。午後4時、それが解除になって支局に帰る途中、カメラデスクからまた指令がきた。
D:「すぐ、H町に向かってもらえませんか?」
私:「今度はなんです? しかもこの時間から間に合うんですか?」
D:「実は下見してきてほしい場所があるんですが、場所がわからないので探してきてほしいんです」
撮影じゃないのか。
その場所というのは、地元では有名な「ゴミ屋敷」だという。だいたいの場所は聞いた。取材はせず、場所と状況を確認してきてほしいというのだ。
見てくるだけなら難なくこなせるが、果たしてそのゴミ屋敷がわかるかどうかだ。すでに午後5時をまわっている。暗くなって見えなくなったら、ますます判らなくなるぞ。へたすりゃ、夜の8時、とか9時とか、いやもっと…。
わかるかなあ。撮影とは違う不安にかられながら、車を飛ばした。H駅から北方面、袋小路になってるところらしい。地図を見てもわからない。袋小路になってるところを、1つ1つ見ていくしかない。
まずは駅から一番近い場所から探索しよう。住宅地に入り、ゆっくり走りながら左右を見る。
「あった!」
タクシーの運転手と、ほぼ同時に声が出た。あったよ、ゴミ屋敷。崩れ落ちそうな住宅と、家に前の道路まで散乱した大量のゴミ。家人がいるかどうかは外から見ただけでは判らない。が、これに間違いない。
すぐにデスクに連絡し、状況を報告。支局に戻ったら、印をした住宅地図を本社にファックスすることにした。これで場所はわかるだろう。とにかくすぐ見つかってよかった。ニュース終わりの午後7時には、会社に戻ってこられた。
こんな仕事は、今まで初めてだ。
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