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日本のマスコミは大騒ぎ。誤解されたスーチー氏「独裁発言」の真意

ミャンマーの総選挙期間中にスーチー氏が発した「私が全てを決定する」という言葉。日本では「独裁宣言か」などと報道されましたが、『房広治の「Nothing to lose! 失う物は何も無い。」』の著者で現地でも活動する房さんは、ミャンマーの人々のまったく違う受け取り方を紹介しています。

アウンサンスーチーの功績

70年前のビルマ、ヤンゴンは、東南アジアを含む南アジア一番栄えており、1人当たりの所得識字率ダントツであったのだ。シンガポールの弁護士や学者の多くは、ヤンゴン大学で学び、シンガポールの繁栄に、貢献したのである。シンガポールの独立に際しても、ヤンゴンを目指せとリー・クアンユー首相が国民に訴えたほど、文明的にも、経済的にも進んでいた。

しかし、ネ・ウィン将軍が1962年に軍政を敷き、1988年に辞任するまでに、軍の好き放題が続き、経済的には1人当たりの所得が北朝鮮よりも貧困になった。国連から世界で最も貧困な国という不名誉な認定を受けるまで落ち込んで、1988年8月8日には、Uprising8888という市民による大きなデモンストレーションが各地で起こった。これは、ビルマ的社会主義という名の、ネ・ウィン将軍による、完全独裁が問題となっていたので、民主化が必要と国民のほとんど全てが認識していた。

アウンサンスーチー女史の功績は、このデモクラシー民主化の運動を諦めさせなかったということにつきる。彼女は、1988年に50万人から80万人集まったとされるShwedagon寺院の前でのスピーチを始め、数々のスピーチで、人々を感動させ続け、27年以上かけ、ミャンマーを発展させる土台を築いたのである。彼女は、暗殺されそうになっても、15年間刑務所生活・自宅軟禁になっても、死を恐れず、抵抗し続けたのが、今回の民主化に結び付いている。Edenグループの創設者で、ミャンマーのトップ10の金持ちに数えられている同じNLDに所属していたU Chit Khine(チ・カイ氏と聞こえる)が、刑務所に1年入れられて、釈放との交換条件に、NLDを辞めているが、普通の人は、1年も精神力は持たずに、政治運動を諦めるのだが、彼女は、諦めることが、そのままの圧政を続けることになると、戦い続けた

ビジョンがあり、意志が強く、行動力があり、人がどの様な精神状態であるかを、瞬間に見抜き、自分の考えを、恐れることが無く、相手に伝える。これが、彼女のキリスト以来のスーパースター、現在風に言うところのカリスマ性である。彼女の一番の功績は、人々に諦めることの罪深さを説き、27年間、人民に民主化の希望を与え、結果を出したことである。しかも、ガンジーのように、暴力を使わずに。

「私が全てを決定する」の独裁発言の真意

選挙運動中に、アウンサンスーチー女史が「私が全てを決定する」と言っていたのに対して、日本のジャーナリスト達は、独裁発言とか、権力集中というように、ドキッとしたものだ。これは、メルマガの読者でも、「え?」と驚いたはずである。即ち、民主化を進めているはずの、民主化のアイコン・象徴であるはずの、スーチーさんが、民主化とは、全く逆のことを発言して、国民から反発をかわないのかという疑問を持つのはあたりまえである。

これは、民主化を否定しているのではなく、軍が彼女が大統領になれないように規定した憲法がおかしいことから起こる誤解である。彼女は独裁者になると言っているのではなく、75%の議員しか改選にならなく、25%は自動的に軍の司令官が持つという憲法がおかしいため、国民80%近くが、彼女に大統領になってほしいが、技術的に、大統領になることが不可能である。だからと言って、彼女に大統領としての権限を持ってほしいと思っている国民がNLDに投票することで、その意思を表現できるのであるから、過半数の議席を取った党の党首として、自分が、重要な意思決定をするから、大統領になるかどうかの話は、気にせずに投票して欲しいという意味なのである。結果、彼女の読み通り、ミャンマー国民は、大統領にならなくても大丈夫なのだと安心をして、少数民族が多い地域でも、NLDが圧勝することになったのである。

ちなみに、この彼女の発言は、現地にいれば、何の問題も感じない、当たり前の発言で、日本のメデイアは、いまだに、現地の人々との感情とは、ずれが生じている。これは、日本の記者の主な情報源が、これから辞めていく、テインセイン政権に偏っていたからではないかと思う。

精米所を地方に作ろうとしている私たちは、正に、少数民族を含めた普通のミャンマー国民が、スーチー女史をダライラマ以上に尊敬しているのを肌で感じるのである。

image by: Nadezda Murmakova / Shutterstock.com

 

房広治の「Nothing to lose! 失う物は何も無い。」』より一部抜粋

著者/房広治
世界の金融市場・投資業界で活躍する日本人投資家、房広治による、ブログには書けないお金儲けの話や資本市場に通用するビジネスマン・社長のあるべき姿などを、余すことなく書きます。
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