「長年の慣習は恐ろしい」―。そう記すのは、無料メルマガ『ビジネス発想源』の著者・弘中勝さん。自販機業界で長年信じられてきたある常識が実は誤りだったというエピソードを引きながら、考え続けることの大切さを説いています。
考え続けなくなる怖さ
最近読んだ本の内容のからの話。
自動販売機業界では30年以上の長きにわたって、「自販機の一等地は『左上』である」という「常識」が信じられていた。自販機の前に立ったお客は、最初に「左上」を見て、アルファベットの「Z」の形を描くようにして右下まで視線を動かすと考えられていたのである。
ダイドードリンコの自販機は、東北や北関東、静岡や山梨では販売シェアは高いが、都市部ではコカ・コーラやサントリーなどのライバルに比べて弱かった。「どうすれば買いやすい自販機にできるのか?」という定性調査や定量調査を行なっても、インタビュー形式の聞き取りやアンケートでは、お客自身が気づかない無意識の行動まで分からない。
そこでダイドーは、スウェーデンのトビー・テクノロジー社が開発した人間の視線を追いかけることができるアイトラッキング(眼球追跡)の装置を使って分析したところ、その結果に誰もが驚いた。
自販機の一等地は、「左上」ではなかったのだ。
アイトラックで分析してみたところ、視線が集まっている部分は「左下」だった。
業界ではその30年以上の常識を疑うどころか何も考えずに信じている人がほとんどで、その証拠に、ダイドーも主力商品の缶コーヒーはずっと自販機の「左上」に置いていた。
そこで、ダイドーはその分析結果を受けて、2013年春に缶コーヒーを「左下」に置くと、売り上げが数十%もアップした。
これまでは、商品の缶の左上の位置に「コクと後キレ UP!」といったPOPを貼っていたが、これも従来の「左上」の法則によるものだった。しかし、アイトラッキングで分析してみたところ、お客は商品を目の前にすると、まず上を見て、そして下を見ることが分かった。
そこで、その後は缶コーヒーの上と下の位置にキャッチコピーを入れるようになっている。
また2015年3月に発売した「ダイドーブレンド 泡立つプレミアム」も、発売前に念入りにアイトラッキングを行なっている。
10回以上缶を振ると泡立つという商品だが、この「振って泡立つ」という文字や写真をどのように見ているのかということを調査し、その位置や大きさなどのデザインを決める。
お客様は自販機の前に立って数秒で商品を選択するので、パッと見の印象というのは重要である。
単体で見た時にすごくいいパッケージデザインでも、たくさんの商品が並んでいる自販機で「この商品がどう見えるか」ということを考慮してデザインを決定している、と同社のマーケティング部担当者は述べている。
出典は、最近読んだこの本です。様々な業界のマーケティング戦略のインタビュー集。各業界の数々の工夫は開発や販売のヒントになります。
『ササる戦略』 土肥義則・著 三才ブックス
長年の慣習とは恐ろしいものです。何が恐ろしいのかというと、「誰も何も考えない」ということです。「長年こうやっていますから」という仕事に対して、「本当にこうやるべきなのだろうか」「こうやらなかったらどうなるのだろうか」ということを、誰も考えなかったり、誰も思いつかなかったりする。
何も考えないということは、発想力や思考力を全く使っていないということです。その慣習は実は間違っていることもあるし、時代とともにズレてくることもある。
でも何より、人が何も考えなくなる、というのが一番怖いのです。運動をやめれば筋力が落ちてくるように、発想力や思考力もまた使わなければどんどん衰えていきます。それが会社全体、業界全体で衰えることになると、会社や業界自体がしぼんでいくことは明らかです。
ではどうすればいいのかというと、「考え続ける」ことが大事です。
「そうするのが当たり前」「それがベストだから習慣になっている」と思われていることも、常に「本当にそうだろうか」「今はどうなんだろうか」と考え続けて、検証し続ける。
その繰り返しが大事なのです。
長らく慣習だ常識だと思いながら「ここのところ全く疑いもしなかった」「何年も改善や検証など考えたこともなかった」ということが、自分の仕事の中にないでしょうか?
必ずあるはずです。
【今日の発想源実践】(実践期限:1日間)
- 自分の1日の仕事を思い返してみて、何年もの間「なぜこうなるのか」「別のやり方だとどうなるか」と一度も考えたことがなかった行動や仕事などを、どんなことでもいいので2つ以上ノートに書く。
- それについて別のやり方の実験案をノートにまとめる。
image by: Shutterstock
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