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新宿タワマン刺殺「どっちもどっち説」のド正論。20代女性に同情できぬ理由、50代おぢが差別される訳…警視庁に忖度も?

いまネットで物議を醸している「新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に『同情』などできない理由」なる記事。加害者である容疑者を“擁護”するのはやめよとの趣旨だがこの人気ぶり、記事のいったい何が人々の琴線に触れたのだろうか。

釣りか本気か?新宿タワマン刺殺“加害者擁護”めぐり物議

新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に『同情』などできない理由」と題した記事が5月10日、ニューズウィーク日本版Webサイトに掲載された。

東京・新宿区のタワーマンション敷地内で8日未明、20代女性が50代男性にナイフで刺されて死亡した事件に関して、加害者である容疑者の男を過剰に“擁護”する世間の風潮を批判する内容。Yahoo!ニュースなど大手ポータルにも配信され、多くの読者に閲覧されている。

要旨を箇条書きで列挙すると、おおむね下記のようになる。

  1. SNSなどで、和久井容疑者への同情心を募らせている人が非常に多い。だが、そのような“加害者擁護”の風潮は異常だ
  2. 容疑者の父親の証言(結婚の約束など)を鵜呑みにして同情している人間が多いが、それは加害者側の一方的な意見にすぎない。それを根拠に、被害者女性の行為を結婚詐欺呼ばわりするのは間違っている
  3. 被害者女性から見れば、和久井容疑者は「一方的に恋愛感情を募らせて、関係が破綻したらあげたものを返せと迫ってきた」ヤバい奴でしかない
  4. ガールズバーは、女性が仕事として客に疑似恋愛のサービスを提供する場所であり、一般的に色恋営業は社会通念上許容される
  5. 26歳年下の水商売の女性とまともに付き合えると考える50代男性は、知性が欠落している
  6. 社会経験の少ない若い女性を男が騙すホストクラブは取り締まりが強化されてしかるべきだが、良い歳をした大人の男性を女が騙すキャバクラはその限りではない
  7. 生前の被害者女性に詐欺罪が適用されていないということは、女性の行為は結婚詐欺ではなく、法的にも問題なかったということだ

なるべく公平かつ客観的に要約したつもりだが、必要なら原文にもあたっていただきたい。

さて一見、至極ごもっともな“正論”を述べているようにも見受けられるこの記事が、ネット民の物議を醸しているのはなぜだろうか。調べると、意外な事実が浮かび上がってきた。

和久井容疑者は「同情」などされていない

まずは①「和久井容疑者に対する同情の声」から見ていこう。容疑者と同世代、50代エンタメ系ライター氏の考察。

「まず今回、和久井容疑者に特筆すべきほどの“同情の声”は集まっていない、という事実が挙げられるでしょう。SNS上の典型的な反応は、『殺人は肯定できないし、容疑者は愚か者にちがいない。だが被害者女性にも同情の余地はほとんどなく、どっちもヤバい人間だよね』というものです。『被害者に同情できない』と感じる人々が、必ずしも『加害者を擁護』しているわけではありません。実際には『加害者も被害者も、どっちもどっち』『被害者女性に同情するのは親族か同業者くらい』といった声のほうが主流となっています」(エンタメ系ライター)

そもそも記事の前提条件がずれている、ということか。同氏はさらに、世間の今の空気感を示す根拠として、容疑者の無罪判決を求める署名運動を例に挙げる。

「オンライン署名サイトのChange.org日本版で、『和久井学さんに無罪判決を!』という署名集めが行われました。ところが賛同者はわずか50数名。日本中が注目する本事件で、本当に容疑者に“同情”が巻き起こっているなら、この署名運動が頓挫することはなかったはずです。そのため『和久井容疑者への同情心を募らせる人々』はいったいどこに消えたのかwと失笑を買っているんですよ。現実には存在しない“風潮”を批判していたのだとしたら、典型的な藁人形論法にあたるとの指摘もあります」(同)

結婚詐欺でも、そうでなくても。見え隠れする「オッサンへの差別意識」

それ以外の部分でも、記事に対する疑問の声は上がっている。

「たとえば、②容疑者の父親の証言だけを盲信して、被害者女性の行為を『結婚詐欺』と決めつけるのはけしからん、との主張です。ここで記事は『結婚詐欺』というワーディング(言い回し)に批判の矛先を向けるのですが、それはまったく本質ではありません。なぜなら、仮にこの事件が典型的な『結婚詐欺』とは少し異なるとしても、多額の金銭を和久井容疑者から受け取ったこと自体は、被害者女性自身が認めているからです」(同)

確認すると、被害者女性は生前、警視庁に、次のように金銭授受の経緯を説明していた。

平沢さんは過去にガールズバーを経営していたということですが、和久井容疑者は調べに対して、「経営を応援するために出した1000万円以上を返してもらうために行った」と話しているということです。

一方、平沢さんは以前、和久井容疑者のストーカー行為を警視庁に相談した際、この金について「店の料金の前払い金として受け取った」と説明していたことが捜査関係者への取材でわかりました。

※出典:「金は前払い金として受け取った」ストーカー行為相談の際に説明 新宿区女性殺害(日テレNEWS NNN 5月10日)

報道のとおり「前払い金」として1000万円という大金を受け取っていたのなら、出禁であれ閉店であれ、客にサービスを提供できなくなった時点で、被害女性に返還義務が生じる。また仮に店への前払い金ではなく女性個人への贈与であれば課税所得となり、申告・納税をする必要があるだろう。

これは容疑者への同情云々ではなく法律の話だ。だが、警視庁は和久井容疑者をストーカーと判断し、その後逮捕することになる。もし、これが男女逆の構図だったらどうだっただろうか?

ここで思い出されるのが昨年11月、横浜市中区の繁華街でグループ同士がトラブルになり、日本人男性がタイ人の飲食店従業員に刺し殺された事件。

酔っ払った日本人グループ3人が、タイ料理店に自転車を投げつけてケンカに。当初は日本人側がタイ人側に激しい暴行を加えていたが、それに堪りかねたタイ人の1人が店の刃物で反撃し、日本人1名を刺殺した。

このときもSNSでは「自業自得だな」「同情の余地なし」といった声が上がった。

しかし、それに加えて「すがすがしい事件」「町のゴミ掃除ご苦労様」「反社が返り討ちに遭って警察に通報してて草」といった“被害者叩き”の投稿すら多数見られたのが印象的だった。男性の死はいわゆる“スカッと系”コンテンツの一種として消費され、そんな“風潮”に抗議する人間はほとんどいなかった。

「50代の男性客から四桁万円の金をむしり取った女性も、人前で罵倒されることを極端に嫌うタイ人を公衆の面前で暴行した男性も、まさか反撃されるとは思っていなかったのでしょう。リスク管理の甘さが目立つ印象があります。

これは問題の記事で言えば要旨③~⑥の部分にあたります。必ず一定数は存在する『ヤバい奴』『言葉が通じない相手』とエンカウントしてしまった際、プロとしてあるまじき判断ミスを犯し『超えちゃいけないライン』を超えてしまった結果、返り討ちにあって殺された、というのが両者に共通する構図です。

にもかかわらず、タワマン刺殺の被害者女性は必要以上に丁重に扱われ、横浜タイ料理店の被害者男性はとことんまで罵倒される。どちらもクズといえばクズなのにこの扱いの差は、『オッサン差別』以外に理由が見つからないのではないでしょうか?」(同)

タワマン刺殺の被害者女性に「どっちもどっち」と溜息をつく権利すらないのであれば、今の日本社会において「臭い、汚い」と批判されがちな“50代おぢ”は“不可触民”のような存在と言えるのかもしれない。

無視される「知性が欠落したおばさん」の存在

問題の記事では、「⑥社会経験の少ない若い女性を男が騙すホストクラブは取り締まりが強化されてしかるべきだが、良い歳をした大人の男性を女が騙すキャバクラはその限りではない」といった主張も展開される。

だがなぜ、男が女を騙すのは悪なのに、女が男を騙すのは許されるのか?ホストクラブの被害者が、庇護されるべき若い女性に限定されているという認識は実態にそぐわない、との声もまた少なくない。

若い女性をターゲットとする「売掛払い」が社会問題化しているのは事実だが、その一方でホストクラブには「良い歳をした大人の、知性が欠落した」おばさん客も多数おり、子や孫のような年齢の若い男に入れあげている。これは大人なら誰もが知っている「常識」であるからだ。

栃木県警は11日、元交際相手の男性(31)を包丁で刺した殺人未遂の疑いで、年金受給年齢間近の女性(64)を逮捕した。これが痴情のもつれか色恋営業かは不明だが、まともな「交際」だったとみる向きは少ないだろう。

33歳差の“刃傷沙汰”に人々が感じる一般的な感想は「被害者も加害者もどっちもどっち」「関わったらダメな人間たち」でしかない。そこに本来、被害者の性別は関係ないはずだ。

【関連】タワマン20代女性刺殺、51歳おじの「殺意」を日本はどう受け止めるのか?パパ活界隈で再注目「りり学」の光と闇

警視庁への“忖度”があるのか?

さらに、「⑦生前の被害者女性に詐欺罪が適用されていないということは、女性の行為は結婚詐欺ではなく、法的にも問題なかったということ」との主張も、根拠が曖昧なことから議論を呼んでいる。

別のネットメディア編集デスクが、次のように指摘する。

「さまざまな論点がありますが、個人的に最も重大だと感じるのが、実はこの⑦です。『結婚詐欺』と呼ぶかどうか、呼称の問題はさておき、法的に問題がなかったと断定するのはさすがに“女性贔屓”が過ぎるのではないでしょうか。

各種報道によれば、被害者女性は和久井容疑者から前払い金1000万円を受け取っている。これは女性本人の証言であり事実と見られています。にもかかわらず、当時の警視庁は和久井容疑者をストーカー容疑で逮捕し、かたや被害者女性はお咎めなしとなりました。この判断が後に、刺殺事件というまさかの結末を呼び込んでしまうわけです。

つまり、警視庁の立場からすれば、この事件は『ヤバい奴』である和久井容疑者の一方的な思い込みによる凶行であってもらわなければ困る、という緊迫した状況にあります。一部の新聞や雑誌が被害者女性に同情的な情報を出したとしても、それは“忖度”かもしれない。鵜呑みにできないと思いますよ」

メディアと警察の距離の近さを考えれば、さもありなんとも感じられる今回の事件。

SNSでは、「和久井容疑者のかき集めた1000万円は、被害者女性にとってはすぐ稼げる額。その程度で相手にされるわけがないし、勘違いも甚だしい」といったネットユーザーの投稿もあり、たくさんの「いいね」がついている。

だが、給与所得者における年収1000万円以上の割合は上位約5%程度だ。まっとうに生きている人間なら、素性のよく分からない客から、そんな大金を受け取ることはしない。1000万円を稼ぐ大変さを身をもって理解しているし、それはときに殺人すら決意させるほど危険な額だと知っているからだ。

プロのキャバ嬢は複数の客を上手く転がし、生かさぬよう殺さぬよう薄く広く“継続課金”させるともいう。だからこそ、良識のある人々は今回の事件を「男も女もどっちもどっち」と斬り捨てるし、殺人を肯定はしない一方で被害者女性に同情もしないのではないだろうか。

それを正しく認識し、水商売や夜職がその他あまたの商売と区別され、高報酬なのはなぜなのか?をよくよく考えなければ、第二第三の事件を防ぐことはできないにちがいない。

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