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もう資源は枯渇しない。日本は原油価格の下落でどうなるのか?

現在、世界的に原油価格が下落しています。以前は「石油が枯渇する!」と叫ばれていましたが、これはいったいどういうことなのでしょうか? 無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者である北野幸伯さんは、「資源は枯渇するどころか余っている」と指摘。この事実が、日本に、そして世界情勢に大きな変化をもたらす、と明かしています。

原油価格が下がる根本的理由

原油価格が下がっている理由は、「供給過剰になっているからです。

その一番の理由が「シェール革命」。

では、「シェール革命」とはなんぞや?

日本人の知らないクレムリン・メソッド」』から転載。

シェール革命によって、アメリカの「資源枯渇恐怖症」はなくなった?

アメリカ上層部の「恐怖」を「消し去る事件」とは、みなさんもおそらく聞いたことがある「シェール革命」です。

まず、「シェール革命とはなんぞや?」という話から。

「シェール革命」は、「シェールガス」と「シェールオイル」にわけられます。

シェールガスとは、従来のガス田よりもずっと地下深く(地下2~3km)にある、「シェール層」(頁岩(けつがん)層)に閉じ込められている天然ガスのことです。

同じ層からとれる石油を「シェールオイル」といいます。

その存在は以前から知られていましたが、取出しが技術的に困難だったため、長い間手つかずのまま放置されていました。

しかし、21世紀になってから一気に技術革新が進み、採算のあう商業生産が可能になってきたのです。

EIAのデータによると、2013年、シェールガスの埋蔵量は、

1位中国…1115兆立方フィート、

2位アルゼンチン…802兆立方フィート、

3位アルジェリア…707兆立方フィート、

4位アメリカ・665兆立方フィート、

5位カナダ・573兆立方フィート、

6位メキシコ・545兆立方フィート、

7位オーストラリア・437兆立方フィート、

8位南アフリカ・390兆立方フィート、

9位ロシア・285兆立方フィート、

10位ブラジル・245兆立方フィート

「中国がダントツ1位かい!」と思いますね。

しかし、技術的理由で、シェールガス生産の99%は、北米(アメリカ、カナダ)で行われています。(2014年時点)

ちなみに、シェール革命によってアメリカは2009年、それまで長年トップだったロシアを抜き、天然ガス生産で世界一に躍り出ました。

ロシアは大きな衝撃を受けたことでしょう。

EIAの発表によると、シェールガスの世界総埋蔵量は7299兆立方フィート。

これまでの、いわゆる在来型天然ガスの埋蔵量が6600兆立方フィート。

ということは、シェールガス生産が可能になったことで、世界の天然ガスの埋蔵量が、一気に「倍以上」増えたことになる。

これで、天然ガスは「今後少なくとも150年以上枯渇する問題はない」といわれるようになりました。

いっぽう、EIAのデータによると、世界のシェールオイルの可採(かさい)埋蔵量(経済的,技術的に採収可能な量)は、推定3450億バレル。

これで、世界の原油資源は、11%増えたそうです。

ちなみに「シェールオイル」のおかげで、アメリカは近々世界一の産油国になると予想されています。

アメリカはなんと、世界一の石油・ガス生産国になる見通しなのです。

シェール革命でかわる、アメリカの中東政策

ブッシュ(子)が大統領になった時、「アメリカの石油は、2016年までに枯渇する!」と予測されていました。

フセインが原油の決済通貨をドルからユーロにかえたこともありますが、「石油利権確保」も、不可解な「イラク戦争の理由だったのです。(グリーンスパンが、自著の中で暴露しているように)

しかし、2000年代と2010年代で、まったく違う世界に突入していることを、私たちは知っておく必要があります。

・2000年代=来るべき石油の枯渇におびえる時代
・2010年代=石油もガスもありあまっている時代

このことは、必然的に「世界情勢」に大きな変化を起こすことになりました。

「クレムリン・メソッド」をさらに見てみましょう。

「シェール革命」で、アメリカにとっての「中東の重要度」は下がる

「シェール革命」のインパクトの本質とは何か?

「2000年代と、2010年代では、まったく違う時代、違う世界になっている」ということです。

「なに」が違うのか?

2000年代、世界はまだ、「来るべきエネルギー不足」に恐怖していた。

それで、「資源確保のための革命や戦争」が頻繁に起きていた。

ところが、2010年代に入り、「シェール革命」が起こったことで、人類は、「エネルギーがありあまる時代」に突入したのです。

とすると、いったいどんな変化が起こるのか?

まず、現在「シェール革命」を主導しているアメリカに、シェールガスもシェールオイルも「たっぷりある」ことが重要です。

アメリカはなぜ、これまで「中東」にこだわってきたのか?

そう、「そこに石油、ガスがあるから」でした。

しかし、「自国にありあまるエネルギーがあり、石油もガスも全部自給できるばかりか、輸出もできる」となったらどうでしょうか?

当然、アメリカにとって、中東の重要度が下がることでしょう。

オバマ大統領は二〇一一2011年11月17日、オーストラリア議会で演説しました。

この演説の要点は、ブッシュ政権から引き継いだアフガン、イラク戦争にケリをつけ、戦略の重点を「アジアにシフトする」ということでした。

これはもちろん、ライバル中国が台頭してきたこともあるでしょう。

しかし、「シェール革命」で「中東の重要性が減りつつあること」とも関係しているでしょう。

オバマは2013年8月、シリア軍が反体制派に「化学兵器を使った」ことを理由に、同国を「攻撃する!」と宣言しました。

ところが翌月、戦争を「ドタキャン」し、世界を仰天させます(これについては、後述します)。

そればかりか、オバマ政権は、シリアの背後にいるイランとの和解に動きはじめました。

ブッシュは、原油埋蔵量世界四位、天然ガス埋蔵量世界1位のイランを、常にバッシングし、何度も戦争一歩手前までいった。

ところが、今回アメリカは、本格的に和解に動き出したようです。

これも、シェール革命で、「中東の重要性が減りつつあること」と関係あるのでしょう。

「シェール革命」でアメリカには、石油もガスもたっぷりある。

だから、「中東は重要ではない」。

このことは、今起こっている多くの不可解な出来事の理由を教えてくれます。

なぜ、アメリカは「イスラム国」空爆に熱心ではないのか?

(もちろん、ISがアサドと戦っていることも、その理由ですが)

なぜ、アメリカとサウジアラビアの仲は険悪になっているのか?

なぜ、アメリカとイスラエルの関係が悪化しているのか?

なぜ、アメリカは、イランと和解したのか?

これらすべては、「アメリカ国内に資源がたっぷりあることがわかったこと」が理由です。

原油価格下落で苦境に陥る国々

さて、「クレムリン・メソッド」は次に、「シェール革命が世界に与える影響」を解説します。

シェール革命、世界への影響について考えてみましょう。

「エネルギーがありあまるほどあるようになる」、つまり供給量が激増する。

すると、何が起こるか?

常識的に考えると、「エネルギー価格が下がる」ことが予想されます。

「シェール革命」の中心地アメリカでは、すでにガスが欧州の3分の1、日本の五分の一という激安水準になっています。

アメリカは今後、シェールガスをどんどん輸出するでしょうから、ガス価格が世界的に下がっていく可能性が高い。

さらに、ガス価格の下落にひきずられて、原油価格も下がっていくと予想されます。

すると、何が起こるか?

これまで原油輸出で潤(うるお)ってきた「産油国」の経済が厳しくなります。

主なところでいえば、中東諸国(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、イラク、クウェートなど)、ロシア、ベネズエラなど。

ロシアに関しては、すでに「シェール革命」の「悪影響」が出はじめています。

ロシアの天然ガス輸出の約七割は、欧州むけ。

しかし、世界的にガス価格が下がったので、欧州は中東カタールからの輸出を増やしました。

それを盾に、欧州はロシアに、さらなるガス価格の値下げを要求しています。

困ったロシアは、中国をはじめとするアジア諸国への輸出を増やそうとしている。

ここ数年、プーチンが日本との友好を強調しているのは、そんな裏事情もあるのです。

つまり、日本に「ロシア産ガス」をもっと買ってほしい。

ロシア経済は、ますます厳しくなっていく予想です。

「永遠に上がりつづける」と思われていたモスクワの不動産も下がりはじめました。

原油価格下落と日本

そして、「クレムリン・メソッド」は、「日本はどうなるの?」という話をしています。

日本は現在、原発停止と円安でエネルギー輸入費が増え、「貿易赤字」が深刻な問題です。

しかし、エネルギー価格は今後下がっていくでしょうから、政府がしっかりガス輸出国と交渉すれば、今より何割か安い価格で輸入することが可能になるでしょう。

そうなると、日本国内の電気・ガス料金やガソリン代が安くなると予想されます。

実際、「原油価格暴落」は、日本に大きな恩恵をもたらしています。

東日本大震災」で全原発が停止した。

それで、火力発電を動かすために原油、天然ガスの輸入量が激増しました。

しかも、原油価格は100ドル以上だった。

そこに、アベノミクスの「円安政策」が加わり、日本は「貿易赤字」が膨大になっていたのです。

しかし、原油価格下落で、この問題は解消されつつあります。

2015年上半期の貿易収支は、1兆3086億円の赤字。

前年同期比で76%も赤字が減っています。

そして、単月では黒字も出るようになってきました(例、10月は1115億円の黒字)。

実際、日本は、「原油価格下落」で「もっとも恩恵を受ける国」の一つです。

その日本でも、もっとも恩恵を受けるのが安倍総理です。

というのも、「原油価格下落」のおかげで、愚策消費税増税の悪影響が、かなりやわらげられている

もちろん、「嗚呼、消費税をあげなければ、日本はかなりの好景気だったであろう」と残念ではありますが……。

というわけで、世界は「クレムリン・メソッド」の如くに動いています。

もちろん人の決定がかかわることですから、「全部わかる」とはいいません。

しかし、かなり未来を見通せるようになりますのが、まだの方はぜひご一読ください。

日本人の知らない「クレムリン・メソッド」~ 世界を動かす11の原理 (集英社インターナショナル) 北野 幸伯

image by: Shutterstock

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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