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不吉な言葉だから?今年の干支「さる」を「えてこう」と呼ぶ理由

日本では古代から言葉に「言霊」が宿ると言われてきました。そのため、使用を避けたほうが無難な「忌み言葉」というものが存在します。この忌み言葉を覚えていないと、知らず知らずのうちに相手に不快感を与えてしまいかねません。無料メルマガ『仕事美人のメール作法』の著者・神垣あゆみさんは、冠婚葬祭における「忌み言葉」の言い換えについてわかりやすく解説してくれています。

忌み言葉に注意

言霊(ことだま)」という言葉があります。サザンオールスターズの楽曲にも「愛の言霊」という曲がありますね。

万葉集には、柿本人麻呂が詠んだ歌として

「磯城島(しきしま)の大和の国は 言霊の助くる国ぞ 真幸(まさき)くありこそ」

があります。海路の無事を祈る歌で

「日本の国は言葉の精霊が人々を助けてくれる国だから、私が贈るこの言葉も、きっとあなたの助けになってくれることでしょう。どうぞ、ご無事で」

という意味が込められています。

このように、古代の日本では「言葉にも魂が宿る」と信じられていました。こうした背景からお祝いの席や悲しみの場では、不吉なことを連想させる言葉を「忌み言葉」として避ける傾向にあります。

例えば、正月にお供えした鏡餅を下ろし、雑煮や汁粉にして食すことを「鏡開き」と言いますが、これは「鏡割り」の「割りが忌み言葉に当たるとして「開き」に言い換えた言葉。

※「鏡開き」には他の意味も
参照:【仕事美人】間違いやすい表現 < 言葉の雑学(3)>

日本では古来から不吉な言葉、縁起の悪い言葉を「忌み言葉」として避ける一方で、それを言い換えることで少しでも幸せを呼び込もうとしていました。

今回は、お祝いや悲しみの場面で使うをの避けたい「忌み言葉」とその言い換えを紹介していきます。

 結婚祝いの忌み言葉

結婚のお祝いを言葉で伝える際は「切れる」「別れる」といった「別れを連想させる言葉や、「重ね重ね」のように繰り返すことを意味する「重ね言葉」を使うのは控えましょう。

▼別離を連想させる言葉
 切る、別れる、帰る、去る、戻る、離れる、終わる、壊れる、破れる など

▼繰り返しを連想させる言葉
 重ね重ね、重々、返す返す、再び、再度、くれぐれも など

不吉な予感を与える忌み言葉は、できるだけ縁起の良い言葉や肯定的な表現に置き換えて使えば、差し支えありません。例えば……

×これから、夫婦として新生活のスタートを切るわけですが

○これから、夫婦としての新生活が始まりますが
 あるいは「スターラインに立つ」

×料理が冷めないうちに召しあがってください。

○料理が温かいうちに召しあがってください。

×終わりにひと言申しあげます。

○結びにひと言申しあげます。

気づかず使ってしまいがちな重ね言葉も次のように書き換えてみましょう。

×新郎の活躍は重々存じていますが

○新郎の活躍は十分存じていますが
 あるいは「よく」

×くれぐれもお幸せに。

○いつまでもお幸せに。
 あるいは「末永く」

葬儀の忌み言葉

お悔やみの場面で用いる言葉にも忌み言葉があります。

結婚のお祝い言葉の時と同様に繰り返すことを連想させる「重ね言葉」は、お悔やみの場では不幸が重なるとして、用いないように気を付けましょう。

▼不幸の繰り返しを連想させる言葉
 たびたび、重ねる、重ね重ね、返す返す、再び、再度、再三 など

×故人にはたびたびお世話になりました。

○故人には大変お世話になりました。
 故人にはとてもお世話になりました。

×返す返すも残念です。

○本当に残念です。
 残念で仕方ありません。

×皆々様に見送られ

○多くの皆様に見送られ

「死ぬ」とか「死亡」といった直接的に死を表す言葉も、下記のような別の言葉に置き換えて使います。

死ぬ、死亡 → 逝去、他界、永眠、旅立つ
急死    → 急逝、突然のこと

反対に、亡くなる前を指す「生きている頃」「生きていた頃」という言い回しも、「ご生前」「お元気な頃」と言い換え・書き換えるようにします。

数字の「は死、「は苦を連想させるため、使うのを控えましょう。

入学・入社の忌み言葉

春になると入学や入社のお祝いをメールや手紙で伝えることも増えてきます。

入学、入社までに紆余曲折があったとしても、誰もが晴れやかな気持ちで新生活を迎えたいはず。希望や期待に水を差さぬよう、祝う側も言葉には気を付けましょう。

入学・入社のお祝いの言葉にも用いるのを避けた方がよい忌み言葉があります。

▼入学や就職のお祝いにふさわしくない忌み言葉
 終わる、落ちる、すべる、散る、取り消す、変更、やめる、つぶれる、倒れる、消える

×もう高校生活も終わりですね。

○これから始まる学生生活が楽しみですね。

×初出社は無事に終わりましたか?

○初出社はいかがでしたか?

知っている人が不合格だったり、不採用だったりということを人づてに聞くようなこともあります。無責任に噂を広げたり、わざわざ話題にするのは慎みましょう。

忌み言葉の「去る」

お祝いや悲しみの場面で使うのを避けたい「忌み言葉」とその言い換えを紹介してきました。

婚礼や葬儀で避けたい忌み言葉のひとつに、「去る」があります。そこから離れて行くという意味が、「失う」「滅びる」ことに通じるためです。年賀状でも前年のことを「旧年中は」「昨年も」と書くのも「去年」という言葉を避けるためです。

今年の干支の「さる」を俗語で「えてこう」と言うのは、さるの呼び名が「去る」に通じるので、「得意なこと」「手に入れる」という意の「得手」に言い換えたという説も。地方によっては「山の人」と呼ぶところもあるようです。

言葉にも魂が宿る。

不吉な予感や不幸を連想させる言葉は、それが現実の災いとなってはいけないので、不用意に使うのは避けましょう、というのが忌み言葉の考えです。

「使ってはならない」ことに縛られるのではなく、相手が読んだり聞いたりしたときに嫌な気持ちにならないように、他の言葉や表現に置き換える。それが人を気遣う思いやりの表れであり、言葉を重んじる日本人の知恵だったのではないでしょうか。

忌み言葉には直接関係ないのですが関連するマメ知識を1つご紹介。

年賀状の文言に句読点を付けないのは、新たな年の始まりのあいさつに「区切りを付けないために句読点を使わないのだとか。

これも一種の縁起かつぎなのかもしれませんね。

image by: Shutterstock

仕事美人のメール作法
著者/神垣あゆみ
広島を拠点に活動するフリーランスのライター。若手ビジネスマン向けにメールマナーの基本を解説した『メールは1分で返しなさい!』(フォレスト出版)など著作多数。
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