MAG2 NEWS MENU

日本経済の反撃は、世界最大の超精密機器・リニアコライダーにかかっている

先日、走行実験で鉄道史上最速の時速603kmを記録したリニア中央新幹線。これまでにない難工事が予想されることや莫大な予算などを理由に否定的な意見が多く聞かれますが、人気経済評論家の三橋貴明さんは国際リニアコライダーについても触れつつ「これらのプロジェクトを実現できるか否かは日本の経済、将来に決定的な影響を与えることになる」と指摘、「カネ」の問題ばかりに目を向ける政治家や官僚を痛烈に批判しています。

リニア中央新幹線もリニアコライダーも「カネ」の問題ではありません

国際リニアコライダー(前編)

国際リニアコライダー(後編)

リニア中央新幹線は、すでに最難関工区といわれる「南アルプストンネル」の工事の発注依頼が大手ゼネコンに提出され、現在、ゼネコン各社が施工方法を検討し、工費を見積もった見積書を8月までにJR東海に提出する予定となっています。今世紀最大の国家的プロジェクトが、いよいよ具体的に動き出そうとしています。

もっとも、リニア中央新幹線は「今世紀最大の国家的プロジェクト」なのかも知れませんが、資金を出すのは国家ではなくJR東海です。JR東海は私費でリニア新幹線を、まずは東京-名古屋間で開業し、そこから生まれるキャッシュフローで借入金を返済しつつ、名古屋-大阪間のリニア新幹線を建設するため、大阪までの開業予定が2045年と、吃驚するほど「未来」になってしまっています。政府は無利子無担保のおカネをJR東海に貸し出してでも(同時に口を出さない)、何とか2027年までに大阪までの同時開業を目指すべきです。何しろ、リニア中央新幹線は間違いなく「国家的プロジェクト」なのですから。

ところで、リニア中央新幹線は、東京-名古屋間の8割以上がトンネルという、人類として前代未聞の大工事が必要になります。恐らく、様々な技術的困難が次々に噴出することになるでしょう。この手の「技術的困難」に現場の方々が立ち向かってこそ、技術的ブレイクスルーが実現できると信じます。

国際リニアコライダーも同様です。数十キロの直線のトンネルに、超伝導の磁力で電子や陽電子を加速する加速器をずらりと並べ、超伝導素材で作られた空洞「超伝導加速空洞」を構築します。その中を、高さ5ナノメートル(十億分の5メートル)の超平行ビームを飛ばし、電子、陽電子を両端から放出するわけです。測量技術一つとっても、途轍もなく高度な技術が要求されます。

また、超伝導加速器は一つ一つが精密機器です。何万、もしかしたら数十万にも達する数の超伝導加速器の一つにでも瑕疵があると、その時点で「リニア(直線)コライダー」としては役に立たなくなってしまいます。三橋が国際リニアコライダーについて「世界最大の超精密機器」と表現する理由が分かってもらえると思います。この種の「超精密機器」を製造、建設できる力こそが、間違いなく「経済力」なのです。

>>次ページ ふたつの「リニア」が日本の経済を救うわけとは?

何しろ、おカネなど中央銀行がいくらでも発行できますが(※インフレを無視すれば)、超精密機器を製造するためには、膨大な数の企業が存在し、それぞれが高度な技術力を誇り、さらに各企業の技術を統合するインテグレーション能力、プロジェクト管理能力が求められるます。この手の「供給能力」は、おカネを出すだけでは身に付きません

実際に、様々な製品を生産し、技術やノウハウ等を蓄積し、さらに日々、技術力に磨きをかける「仕事の現場」の人々の向上心がなければ、絶対に「存在」し得ないのでございます。現時点で、国際リニアコライダーを建設するために必要な「供給能力」を、日本が「まだ」保有しているという事実が、どれほど重要であるか。

デフレーションは、企業から仕事を奪うことで、各企業に蓄積された供給能力を毀損、喪失させていきます。すなわち、国家の経済力を縮小させてしまうのです。

一度、喪失してしまった供給能力を回復するためには、これは膨大な時間と蓄積を必要とします。大東亜戦争敗北後に航空技術の研究開発を禁じられた我が国は、未だに戦闘機製造技術で他国の遅れをとっています。

これ以上の「供給能力」「経済力」の喪失を食い止めるためにも、我が国は「企業の仕事」としての大規模プロジェクトを必要としているのです。しかも、現時点の技術開発投資、公共投資、設備投資は、デフレの主因たる需要不足の解消に役立ちます。

というわけで、リニア中央新幹線や国際リニアコライダーといった大規模プロジェクトを現実のものにできるか否かは、我が国の経済、将来に決定的な影響を与えます。それにも関わらず、経済力の本質を理解していない政治家、官僚、学者たちは、「カネ」の問題にばかり重点を置き、将来のための投資を「ムダだ!」と否定しようとします。

そもそも、経済力とは「カネ」の話ではなく、「供給能力」であるという経済の真実を、日本国民は早急に共有する必要があると思うのです。

image by: IFCA

三橋貴明の「新」日本経済新聞
経済評論家・三橋貴明が責任編集長を務める日刊メルマガ。三橋貴明、藤井聡(京都大学大学院教授)、柴山桂太(滋賀大学准教授)、施光恒(九州大学准教授)、などの執筆陣たちが、日本経済、世界経済の真相をメッタ斬り!日本と世界の「今」と「裏」を知り、明日をつかむスーパー日刊経済新聞!
≪登録はこちら≫

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け