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【政権批判】古舘伊知郎ら辛口TVキャスターが続々と退陣するワケ

テレビ各局の報道番組の「顔」がこの春、一斉に変化します。様々な原因が囁かれ、識者のコメントなども伝えられていますが、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者・小川和久さんはその中の「権力の監視がメディアの役割」という発言に対して「口先だけの批判は監視にならない」と厳しく指摘、さらにジャーナリズムが追うべき責任について記しています。

権力監視? 口先では無理だよ

この春、テレビのニュースに大きな動きがあることは早くから伝えられていましたが、特任教授を務める静岡県立大学でジャーナリズムについて学内講義と市民向けの公開講座を担当している身として、目を離すことができそうにありません。

朝日新聞(2月2日付け)は次のように伝えています。

NHK、テレビ朝日、TBSの看板報道番組の「顔」が、この春一斉に代わる。番組の一新、本人の意思など事情はそれぞれだが、政権への直言も目立った辛口キャスターがそろって退場していくことに、懸念の声が上がっている。

 

3月末にリニューアルするTBS系の「NEWS23」は、メインキャスターの膳場貴子さん(40)が土曜夕方の「報道特集」に移り、新キャスターに星浩・朝日新聞特別編集委員(60)を起用し、放送時間も拡大する。岸井成格(しげただ)アンカー(71)も降板し、4月以降、同局専属のスペシャルコメンテーターになる。

 

ジャーナリストの筑紫哲也さんのメインキャスター時代(89~07年)は2ケタ近い平均視聴率だったが、今年度は5.4%(以下、視聴率はいずれも関東地区、ビデオリサーチ調べ)。午後11時台は報道番組の激戦区で、「NEWS ZERO」(日本テレビ系)の2015年の月曜から木曜の平均視聴率は8.9%。昨年4月開始の「あしたのニュース&すぽると!」(フジテレビ系)は3.6%。「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京系)の昨年の年間平均視聴率は3.5%だ。TBSは陣容一新で報道番組の強化をはかる。

 

テレビ朝日系の「報道ステーション」(月~金曜、午後9時54分)は、メインキャスターの古舘伊知郎さん(61)が契約終了に伴い3月末で降板する。(中略)

そして、その背景を次のように解説しています。

昨年9月、安保法案が参院特別委員会で可決されたことを、「私は強行採決だったと思います」とコメントした古舘さんなど、降板するのは辛口で知られたキャスターたち。3つの番組には最近、政権や自民党から報道内容に対する注文が相次いでいた。

 

14年の衆院選前には、「NEWS23」に生出演した安倍晋三首相が、街頭インタビューの声に偏りがあると批判し、「報ステ」のアベノミクスの取り上げ方を自民党が文書で批判、「公平中立」を求めた。昨年4月には、「クロ現」と「報ステ」の内容をめぐって自民党が局幹部を事情聴取。「直接の原因ではなくても、それぞれが降板へ背中を押す一因になったのでは」と話す放送局関係者もいる。」(中略)

これについては、キャスター経験者や就任予定者からキャスター論や決意表明が聞こえてきます。

ジャーナリストの鳥越俊太郎さんは「キャスターに求められるのは、事実だけでなく、実はこんな意味があります、こんなつながりがあります、と自分の言葉で味付けすること。ネット上で自由に意見を言い合えるようになり、『キャスターに言われることはないよ』と思う人も増えただろうが、安保法制や憲法改正などで日本が大きく変わろうとしている今こそ、しっかりしたキャスターをすえた番組が必要だ」と指摘。

 

「80年代後半以降のキャスター『第1世代』は高齢化が進み、今後は『第2世代』が必要。テレビ局は若手を起用して育てていかないといけない」とも話す。

 

「NEWS23」のキャスターになる星氏は「権力をきちんと監視することがメディアの重要な役割。政治家の言っていることや政権が取り組んでいることの中身が妥当かどうか、有権者が判断できるように本質を伝えていく。私の意見も述べていきます」と話す

鳥越さんも星さんも知っている人ですし、優れたジャーナリストだと評価していますが、この記事のコメントだけだとしたら見識を疑わざるを得なくなります。「権力を監視する」? 口先だけで批判するのは、監視にならない点が理解されていないとしかいいようがありません。

ここではテレビの報道番組の望ましい形しか申し上げませんが、キャスターは編集長としての権限を与えられ、少なくともチームを組んで調査報道に取り組み、その結果をもとに権力にもの申していくべきだと思います。

月に1本、数か月に1本でもよいし、身近なテーマからでもよいですから、調査報道らしい成果を示してもらいたい。できることなら、テレビ局の総力をその調査報道に投入できるようだと、ときの政権の政策を変えさせるくらいの働きはできると思います。

口先だけの批判に終わっているから、政府に政策を変えさせるどころか、気分を害した政権側から「電波を止めると脅かされてしまうのです。反省すべきでしょう。

このメルマガでも紹介したことがありますが、私が記者をしていた「週刊現代」が徹底的な調査で日本の車検制度を変えてしまったくらいですから、新聞社やテレビ局にできないはずがないと思います。

かつて、TBS「NEWS23」のキャスターを務めた筑紫哲也さんは自らを編集長に位置づけ、1時間30分の番組を雑誌のような内容に組み立てていました。これをマガジンスタイルというのですが、やはり調査報道についてはテレビ局側の理解がなく、本格的な取り組みができず、歯ぎしりしていたのを思い出します。

いつも繰り返して申し上げていることですが、ジャーナリズムは納税者の代表の中心に位置し、民主主義のシステムを機能させる責任を負っているのです。新聞の紙面にも、テレビの報道番組にも、そのあたりの自覚が欲しいものです。日本のテレビには無理かなぁ?

image by: Teddy Leung / Shutterstock.com

 

NEWSを疑え!』より一部抜粋

著者/小川和久
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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