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教室に選挙権。18歳の有権者をどう育てるのか?

選挙権年齢が18歳に引き下げられたことにより重要性を増す高校での有権者教育(主権者教育)。無料メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』では、リベラルと保守では「よき有権者像」が異なり、現在はリベラル寄りの有権者教育しか行われていないのではと指摘、保守の立場に根ざした常識的な教育の必要性も説いています。

リベラルと保守で違う「よき有権者」と「有権者教育」

6月17日に国会で、選挙権が得られる年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げる公職選挙法の改正案が、成立しました。来年夏の参議院通常選挙から、18歳以上が有権者となるようです。

ということは、高校3年生も、18歳の誕生日を迎え次第、有権者になるんですね。なんか違和感もありますが、高校2年生ぐらいまでにしっかり「有権者教育」(主権者教育)をやっていかなければならないということです。

ただ、政府や自治体にしても、学校教育の側でも、「有権者教育」として提案されるのは、「模擬選挙」「ディベート」などが多いんですね。

児童・生徒たちが、実際の政党や候補者の見解を学び、どこに投票するのがいいか議論したり、その結果に基づき、投票の「予行演習」を行ってみたりするなどの試みです。

私は、こういう試みは大切だと思うのですが、これだけじゃないだろう、とも感じます。「模擬選挙」や「ディベート」といった試みは、いかにも「リベラル」というか、「啓蒙主義的」というか、「市民」派というか、そういう人々が好みそうだなと思います。

それで先日、私は、産経新聞の地方版のコラムに次のような記事を書きました。かなり違った「有権者教育」の提案です。

施 光恒「18歳選挙権 『おかげさま』の自覚」 『産経新聞』(九州・山口版)2015年6月18日付

保守の側というか、「市民」ではなく「庶民」「国民」の側というか、もっと落ち着いた、常識的な「有権者教育」の側面もあるだろうと思い、それを提案したわけです。

政治思想的に言えば、啓蒙主義の流れを汲む「リベラル」派の考え方では、人間の理性や知性を重視します。人間の理性や知性を、すべての物事の出発点として捉えるわけです。そして、社会や国といったものは、人間が、自分たちの権利や利害を守るために、設計し、作り上げたものとみなします。

対照的に、保守主義の見方では、社会の文化や伝統、風土、慣習などが、人々の精神や各種能力を育んできたと捉えます。例えば、日本人の場合、日本語や日本文化、日本の風土が、日本人1人1人の知性や感受性を作りあげてきたことを強調するわけです。

「リベラル」と保守との間では、このように人間や社会の捉え方が大きく異なっているため、当然ながら、「有権者教育」に対する見方も変わってきます。

リベラル」の立場からすれば、「よき有権者」とは、「自分たちの権利や利害を主張し、他者と議論を交わし、政治に強い関心を持ち、積極的に政治参加し、社会を合理的に変革していく人々」といったイメージでしょう。

>>次ページ では、保守の側から見たよき有権者とは?

他方、保守の側からすれば、「よき有権者」とは、例えば、次のようにいえるでしょう(上記リンク先の拙コラムからの引用です)。

人は、自分自身だけで存在しているのではない。他者の厚意や、国や地域の伝統文化の蓄積、先人の苦難のうえに今の自分がある。つまり、「おかげさま」で生きている。自分の権利や利害を主張するだけでなく、地域や国のあり方、文化伝統に大いに関心を持ち、さらなる発展に貢献し、次世代へ引き継ぐ義務や責任も負わなければならない。こうした自覚を持つ者こそ、よき有権者である。

こうした類の理想的有権者像に基づく保守の立場からの有権者教育というのも、もっと提案されていいと思います。

ですが、残念ながら、この種の有権者教育の提案は、あまり目にしません。

例えば、「保守」を自認する産経新聞読売新聞も、18歳選挙権をテーマとする社説をそれぞれ書いていますが、保守の側からの有権者教育の提案は、ほとんどなされていません。

社説 18歳選挙権 若者が国を考える契機に 『産経新聞』2015年6月18日付

社説 若者の政治参加を促進したい 『読売新聞』2015年6月18日付

産経新聞は、「国家や社会の一員であることの意識を強く持つ必要がある」と書いてはいますが、これだけでは十分ではないでしょう。

読売の社説は、「リベラル」派の新聞の社説とあまりかわり映えしません。

両者の社説にみられる「保守らしさ」とは、せいぜい日教組の政治介入に対する警戒心を表明しているぐらいだといってもいいかもしれません。

「リベラル派」の提案だけでは、「有権者教育」のごく一部だけしかカバーできません。「有権者教育」が、一面的なものとなってしまう恐れがあります。保守の側も、有権者教育のあり方を積極的に提案していくべきです。

しかし、産経と読売の「有権者教育」の社説にみられる「保守らしさ」が日教組に対する警戒心だけというのは、少々さびしいですね。
(´・ω・`)

他の面でもそうですが、日本の「保守」は、たんなる反サヨクになってしまい、保守としての役割を十分果たしていないのではないかと懸念してしまいます。

だらだらと失礼しますた…。
<(_ _)>

image by:Shutterstock

施光恒(せ・てるひさ)@九州大学

『三橋貴明の「新」日本経済新聞』より
経済評論家・三橋貴明が責任編集長を務める日刊メルマガ。三橋貴明、藤井聡(京都大学大学院教授)、柴山桂太(滋賀大学准教授)、施光恒(九州大学准教授)、などの執筆陣たちが、日本経済、世界経済の真相をメッタ斬り!日本と世界の「今」と「裏」を知り、明日をつかむスーパー日刊経済新聞!
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