EU離脱問題でイギリスと各国との関係が早くも変わりつつあります。英国を自国とEUの仲介役にと考えていた中国からは「用なし」と見捨てられると読むのは、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さん。さらにはアメリカからも同様の扱いを受けるのではと見ています。
EU離脱でイギリスは、中国にも見捨てられる
前号では、「イギリスのEU離脱」について書きました。今回の話は、前号ととても関係があります。まだの方は、まずこちらからご一読ください。
● 英国のプライドが世界を狂わす。EUというドイツ第4帝国からの独立
この記事の中で、EU離脱の影響の一つについて、以下のように書きました。
外交面での打撃も避けられないでしょう。アメリカと「特別な関係にある」と言われるイギリスは、常にアメリカとEUの「仲介役」を行ってきました。アメリカは、イギリスを通し、EUの政策に影響を及ぼしてきた。しかし、イギリスがEUを離脱すれば、同国はEUへの影響力を失うでしょう。
では、アメリカはどうやってEUへの影響力を確保するのでしょうか? もちろん、EU最強国家ドイツやフランスと直接対話、交渉を行うようになるでしょう。イギリスは外され、国際的地位は大きく下がります。
そう、イギリスは、アメリカとEUの仲介役をやっていた。EUは、アメリカにとって重要なのですね。なぜでしょうか? 28か国からなるEUの経済力は、世界の約4分の1を占めているからです。
ところで、上の話、少々修正というか補足する必要があります。実をいうと、イギリスは、アメリカとEUの仲介だけではなく、「もう一つの大国」とEUの仲介もしてきた。「もう一つの大国」とは、中国です。
イギリスは、アメリカを3度裏切った
「アメリカとイギリスは『特別な関係』だ!」
オバマさんも、キャメロンさんも、いつも強調します。しかし、お二人が、「心からそう言っているか?」と聞かれれば、「そんなことはないだろう」と思います。なぜか?イギリスは、ここ数年で、3回もアメリカを裏切ったからです。
1回目の裏切りは、2013年8月。オバマさんは2013年8月、「アサド軍が、反アサド派に『化学兵器』を使った」ことを理由に、「シリアを攻撃する!」と宣言しました。イギリスとフランスも、攻撃に加わる意向を示していた。ところが、キャメロン首相は、「議会が反対していること」を理由に、攻撃への「不参加」を決めます。オバマは孤立し、戦争を「ドタキャン」せざるを得ず、大恥をかくことになりました。世界の人がオバマさんを「最弱の大統領」と呼ぶ時、必ず例に挙げられるのが、この「シリア攻撃ドタキャン」です。
2回目の裏切りは、2015年3月。イギリスは、アメリカの不参加要求を完全に無視し、欧州で一番早く、中国主導「AIIB」への参加を決めました。イギリスの裏切りに勇気づけられた他の親米諸国も、雪崩のように「参加表明」をしていきます。そう、「イギリスの裏切り」が、「AIIB事件」を引き起こしたのです。
3回目の裏切りは、2015年11月。イギリスは、これもアメリカの意志に反して、「人民元のSDR構成通貨入り」を支持しました。イギリスは近年、非常に重要な局面で3回もアメリカを裏切っている。
確かにイギリスは、アメリカとEUの仲介役を行ってきました。しかし、ここ数年に限っていえば、アメリカではなく、むしろ中国の利益のために動いてきたことがわかります。なぜでしょうか?
第1に、アメリカはタックスヘイブン規制を強め、イギリスの金融ビジネスに打撃を与えている。第2に、イギリスは、他の多くの国々同様、「アメリカの時代は終わって、中国の時代が来る」と勘違いしたのでしょう。
中国に見捨てられるイギリス
さて、国民投票でEUからの離脱が決まったイギリス。今後中国との関係はどうなっていくのでしょうか?
EU離脱で、EUとの関係、アメリカとの関係がヤバくなったイギリス。どうやら中国との関係も悪化していく感じです。ブルームバーグ、6月28日付を見てみましょう。
習主席とキャメロン首相の友情、無駄に-中国が失った最良パートナー
Bloomberg 6月28日(火)11時2分配信
中国の習近平国家主席が英サッカークラブ「マンチェスター・シティ」のスター選手と自撮りに興じ、バッキンガム宮殿での晩さん会に招かれ、イングリッシュパブでビールを楽しんだのは、わずか8カ月前のことだった。
エリザベス女王は習主席の訪英を高く評価。習主席とキャメロン英首相は両国関係の「黄金時代」の到来を示し、英国は中国の「欧米における最良のパーナー」としての地位を築いた。
習主席はシェークスピアを引用し、中国が欧州連合(EU)との関係を深める上での英国の「積極的な役割」を力説した。
イギリスと中国は、「黄金時代」だそうです。そして、最後の一文
習主席はシェークスピアを引用し、中国が欧州連合(EU)との関係を深める上での英国の「積極的な役割」を力説した。
がとても大事ですね。中国にとってイギリスの「役割」は、「中国とEUの関係を深めること」なのです。イギリスがEUから離脱したら、その役割を果たせなくなります。これから、イギリスと中国の関係はどうなっていくのでしょうか?
北京外国語大学の謝韜教授(政治学)は「中国が英国との関係を非常に重視してきた大きな理由は、英国を通してEUの政策に影響を与えることにあった」と指摘。欧州への「橋頭堡(ほ)」としての英国の価値はEU離脱で失われたとし、中国は今後ドイツとの関係に集中することになろうと予想した。
(同上)
短いコメントですが、非常に重要な点が三つあります。
- 「中国が英国との関係を非常に重視してきた大きな理由は、英国を通してEUの政策に影響を与えることにあった」
- 欧州への「橋頭堡(ほ)」としての英国の価値はEU離脱で失われた
- 中国は今後ドイツとの関係に集中することになる
要するに、中国はイギリスを捨て、欧州ではドイツを最重要視するようになると。アメリカも中国と同じように動くことでしょう。
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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