食事メニューの豊富さ・おいしさを強みとし、抜群の認知度を誇るカラオケ・シダックス。しかし先日、店舗の大量閉店が話題となりました。その要因はどこにあるのでしょうか。無料メルマガ『MBAが教える企業分析』が詳しく分析、そして今後取るべき施策について記しています。
顧客ニーズの変化への対応
大量閉店で話題となっている企業を分析します。(最後にまとめ解説もあります)
● シダックス(総合サービス企業)
今回はシダックスのレストランカラオケ事業にフォーカスをあてます。
◆戦略分析
■戦場・競合
- 戦場(顧客視点での自社の事業領域):レストランカラオケ店
- 競合(お客様の選択肢):ビッグエコー、カラオケ館、歌広場などのカラオケ店。居酒屋、ファミレスなど
- 状況:カラオケボックスの市場規模は、拡大傾向のようです。
■強み
1.食事が美味しい(他のカラオケチェーンと比べて)
- 料理メニューが豊富
2.部屋が広い(他のカラオケチェーンと比べて)
- バリアフリーにも配慮してある
- 内装がキレイ
3.歌える(居酒屋、ファミレスチェーンと比べて)
- 個室
- 防音
⇒上記の強みを支えるコア・コンピタンス
★レストランや給食事業で培ったノウハウ
- グループ全体で約4,000カ所の店舗・営業所で、1日に合計約60万食を提供しています。
- グループ全体の売上の大半は、食堂受託運営が稼ぎ、カラオケレストラン事業は全体の2割程度です。
- シダックスは、もともとファミレスを改装して作られたようです。
→上記のように、食事を提供することに対するこだわりやノウハウがあるからこそ、強みである「食事の美味しさ」を実現できているといえます。
■顧客ターゲット
- 様々な年齢層から支持されています。
→ケータイ会員は920万人を超えています。 - 大人数での利用、パーティーでの利用の需要に応えています。
◆戦術分析
■売り物
レストランカラオケ
- 食事も楽しめる豊富なメニュー
- 全室ワイヤレスマイクを完備
- スピーカーはBOSEを完備
- 広めの部屋
■売り値
- 競合と比較するとやや割高な価格設定
■売り方
幅広い客層に来店を促す施策を展開
- パーティーコース
- 昼のお得なお楽しみ宴会
- 毎週水曜日はレディースデー
- 毎週木曜日はメンズデー
- 毎週日曜日はキッズファミリーデー
■売り場
- 全国に約200店舗を展開
→店舗の部屋をカルチャークラブとしても活用
※売り値や売り物などは調査時の情報です。最新の情報を知りたい場合は、企業HPなどをご確認ください。
まとめ(戦略ショートストーリー)
様々な年齢層、主に大人数で利用する方をターゲットに「レストランや給食事業で培ったノウハウ」に支えられた「食事が美味しい」という強みで差別化しています。豊富な食事メニューが楽しめるレストランカラオケを全国に展開し、認知度も高く、幅広い顧客の支持を得ています。
■分析のポイント
「顧客ニーズの変化への対応」
シダックスの大量閉店が報道され、話題になっていました。しかし、大量閉店することが悪いことだとは、一概には言えません。なぜなら、大手コンビニチェーンは大量出店もしていますが、同時に大量に閉店もしながら、成長し続けています。むしろ、チェーンストアが成長するうえで、不採算店舗を閉店することは、当たり前とも言えます。
もちろん、閉店することは、その店を利用していた顧客に迷惑をかけることになりますので、存続させるために最善を尽くすというのは大前提です。
今回、注目すべきは、普通、業界が成長すれば、その業界の大手企業も同じように成長すると思われますが、シダックスの場合は、そうはなっていないということです。
上記で分析したように「美味しい食事」を強みにして戦うという戦略は競合と差別化できているようにみえますし、実際にケータイ会員が920万人、年間利用者数約2,500万人というすごい実績を残しています。しかし、夜間および深夜帯の顧客が大きく減少しているようですので食事を売りにしているシダックスにとっては、厳しい状況といえるでしょう。
そして、業界で成長しているのは、流行となっている1人カラオケの顧客を取り込んだ企業や「安さ」を売りにしている企業のようです。つまり、カラオケ業界は成長しているものの、顧客のニーズが変化しているということです。言い換えると、顧客がカラオケ店への求めること、カラオケ店の利用の仕方が変化しているということです。
顧客ニーズの変化に対応していくことが、企業の成長していくうえでカギとなります。これは、当たり前に思うかもしれませんが、簡単ではありません。例えば、高度成長期の日本の旅館は、収益の柱である社員旅行を受け入れるために、大人数を収容できる宴会場を充実させたものの、経済状況や顧客ニーズの変化により、社員旅行が減少し、個人での旅行が増えたことで、大きな宴会場などを抱えた旅館の経営が苦しくなるということが、あったようです。
このように、顧客ニーズに対応するために、設備投資を行ってしまうと顧客ニーズが変化したときに、柔軟に対応するということは難しくなります。特に、業績が悪化してから、顧客ニーズに対応するために大きな設備投資をすることはより困難です。
シダックスの場合は、カラオケ事業の売上高は全体の2割程度ですし、企業の収益の柱である食堂受託運営事業は好調のようですので、企業としての体力は十分にあります。ですので、カラオケ事業の立て直しのために10億円規模の設備投資(店舗の改修など)を行うとのことで、挽回の余地はまだまだありそうですし、危機的状況というわけではなさそうです。
今回の重要なポイントは、顧客ニーズの変化が、企業経営に大きな影響を及ぼすということです。まさに、顧客ニーズをとらえきれなかったことが、シダックスの大量閉店の要因の一つといえます。
しかし、しっかりと収益をあげている店舗もあるようですので、レストランカラオケそのものが否定されているわけではありません。
今後の方向性として、
- いまの強みを伸ばしていく
- それとも、新たな強みを作っていく
- もしくは、その両方を目指していく
といったことが考えられます。
もし、強みを伸ばす方向性なら、料理を目的に来店してもらえるような名物料理を開発したり、カラオケなしプランをつくるのもいいかもしれません。その方向でいくなら、ファミリーレストランなどと直接競合することになりますね。
また、新たに強みを作るなら、ニーズが明らかになっている1人カラオケの部屋を充実させて料金を低価格にすることなどが考えられます。難しいとは思いますが、店内レイアウトを時間帯によって変えることができれば、時間帯によって変わる顧客ニーズに応えることができそうです。例えば、同じ店舗でも昼間は大部屋が中心、夜間は1人カラオケの部屋を中心に展開するといったことができればおもしろいですね。どのような経営判断をされるのか、注目したいところです。
ちなみに、シダックスはこの大量閉店において、レイオフは一切行っていないということですので、従業員を大切にしている企業ということが伺えますし、こういった企業姿勢には好感が持てます。
今後、業績のV時回復を実現することができるのか、期待したいです。
image by: TK Kurikawa / Shutterstock.com
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