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【書評】護憲派が罹患する「9条至上主義症候群」という不治の病

敗戦直後にアメリカの使節団から「漢字の全廃とローマ字の採用」を促され、漢字全廃派と抵抗する勢力との攻防の末、妥協案である「当用漢字」が生まれました。しかし審議はさらに続き、20年を経てようやくこの戦いに終止符が打たれたのですが…、この動き、何かに似ていると思いませんか? 今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが取り上げているのは、この漢字論争と憲法9条をめぐる現在の動きが酷似していると記す1冊。これはまさに目からウロコです!

やがて哀しき憲法九条』加藤秀治郎・著 展転社

加藤秀治郎『やがて哀しき憲法九条』を読んだ。副題に「あなたの知らない憲法九条の話」とあって、18歳でもわかるようやさしく書かれている。敗戦のショックの中で、アメリカの教育使節団が漢字の全廃とローマ字の採用を勧告し、漢字全廃派(迎合する日本人がいたんだ!)と抵抗勢力とのせめぎ合いが始まり、妥協で「当用漢字」が生まれた。その後も、あろうことか漢字全廃派の優勢が続いたが、20年もの審議の末「漢字の全廃・ローマ字の採用」論に終止符が打たれた。福田恆存は「憲法九条をめぐるせめぎあい」が当用漢字の動きとウリ二つだとして、現憲法を「当用憲法」と呼んだ。

漢字の追加・削除のせめぎあいでは、「前進基地」とする全廃派と「防波堤」とする反対派が、当用漢字を「利用」した。当用漢字はいまはなく、常用漢字になっているが、この「当用憲法論」は九条抗争の本質をズバリ理解できるので最高の表現だ。憲法制定時はともかく、施行されて数年で自衛隊も認められたのだから、保守派にとって九条は「防波堤」だった。革新派にすればずっと「前進基地」であり、「非核三原則」や「防衛費のGNP1%枠」などをつくってきた。最たるものが九条の「明文改正の阻止」であった。いまも一進一退の攻防が続くが、外国人に説明を求められたら答えに窮してしまう珍妙な状況だ。

改憲派の、明文改正により結着をつけようという立場は明快だ。護憲派は九条に手をつけさせないという思いから、首相の衆議院解散の権限や、ねじれ国会の国政停滞をはじめ、憲法のどんな不都合にも目を瞑ってきた。そして「疑問の余地のない条文に改めることで、九条問題に結着をつけよう」という運動がなかった。「自衛隊や日米安保が違憲というなら、それが明確になるような改正を提起すればいいのですが、なぜしないのでしょうか? そういう運動があれば、果てしない『攻防』ではなく、二つの改正案のいずれとするかということで、最終的な結着がつくことになっていたのではないでしょうか」

憲法改正なくしては解決の困難な問題があるのに、護憲勢力が「不都合な真実」を見て見ぬふりをしている現状を、著者は「九条至上主義症候群」と名付けた。九条に手をつけさせないために、他の点についても憲法論議はすべて拒否するというビョーキのことだ。九条の明文改正は、九条二項を削除するだけでいい。合意の欠ける点、困難な点については、優先順位を下げる姿勢が不可欠である。前文にこだわる改憲論者も少なくないが、あの愚かな前文をさわることで議論百出、収拾がつかなくなるから、法律上の重要性で本文に劣る前文にエネルギーを消耗してはならない。高校生諸君、これが憲法九条問題の真実だ。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock

 

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