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G7サミットで一人“中国包囲網”に狂奔した高市首相の“独り相撲”。それを報じぬ記者クラブ大マスコミの堕落

フランス・エビアンで開かれたG7サミットに集まった14カ国・組織の首脳のうち、在任中に一度も北京を訪れていないのは、ゼレンスキー大統領と高市早苗首相の2人だけでした。本来のテーマではないにもかかわらず、連日「反中国」を持ち出して「中国包囲網」づくりに走った高市首相。しかし、その米国はすでに「インド太平洋」戦略から離れつつあります。メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では、著者でジャーナリストの高野孟さんが、エビアン・サミットで一人芝居を演じた高市外交の滑稽さと、それを報じない日本のマスコミの堕落を鋭く論じています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

それがテーマではないG7で「反中国」の一人芝居を演じた高市首相の滑稽

レマン湖に面したフランス屈指の温泉リゾート地=エビアンで開かれた主要国首脳会議には、G7+EUの8首脳のほか主催国=フランスが「パートナー国」として招いた韓国、インド、エジプト、ケニア、ブラジルの5首脳、そして2日目には「特別ゲスト」としてウクライナのゼレンスキー大統領も参加し、合わせて14カ国・組織のトップが顔を揃えた。が、この14人のうち在任中に北京の土を踏んだことがないのはゼレンスキーと高市早苗の2人だけ。

ゼレンスキーは7年前に、すでにキーウ政権と東部のロシア系住民との内戦が激しくなっていた中で就任し、4年前にはロシア軍の内戦介入=侵略に直面しているので、ロシアと緊密なパートナー関係にある中国になど行くわけがない。それでも23年4月には習近平主席と「長く意義のある」(ゼ本人の言い方)電話会談を行なったことはある。それに比べて高市は、首相になる以前から訪中の経験は一度もなく、首相になってからは25年10月のAPECサミット@韓国・慶州で習と30分ほど会談したことがあるが、通訳を入れた30分というのは挨拶程度のはずで、まあロクに話をしたこともないというのが本当だろう。

そのことの問題性を知ってか知らずか、マスコミは一言も報じないままである。

サミット参加者14マイナス2の訪中記録

そこで、まず、ゼレンスキーと高市を除く12人の訪中実績を一覧しておく(年代順、日付は習との会談の日)。

《2024年》 ・5月29日、エルシーシー=エジプト大統領 ・7月29日、メローニ=イタリア首相 《2025年》 ・4月24日、ルト=ケニア大統領 ・5月13日、ルーラ=ブラジル大統領 ・7月24日、ライエン=欧州委員会委員長 ・8月31日、モディ=インド首相 ・12月4日、マクロン=フランス大統領 《2026年》 ・1月5日、李在明=韓国大統領 ・1月16日、カーニー=カナダ首相 ・1月29日、スターマー=イギリス首相 ・2月25日、メルツ=ドイツ首相 ・5月15日、トランプ=米国大統領

繰り返すが、G7+EUの8首脳で、在任中はもちろんそれ以前にも中国を訪れたことがなく、逆に台湾を訪れて頼清徳総統と親しく交流したことがあるのは、高市唯一人であり、その意味ではこの中で明らかに異質分子である。

もちろん、他に見倣って高市も“北京詣で”をすべきだなどと言うつもりは毛頭ない。しかし、中国は数千年に及ぶ深々とした文化・経済交流の歴史を共有する者同士としてそれなりの敬意を以て接すべき相手国であり、なおかつ今や世界第2の経済大国として国際社会に押しも押されもせぬ地位を築きつつあって、少なくとも経済面ではすでに日本と切っても切れないほどの相互依存関係にある隣国に、行ったことがないのは仕方がないとして、まともな対話のチャネルさえ敷設できないでいるというのは、国民の大局的利益を毀損する失態であり、それ自体、スキャンダルであるとさえ言えた。今次サミットが露わにしたのは、まず、そのことである。

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しかも高市は独り「中国包囲網」で立ち回った

それだけならまだ、高市の“中国嫌い”というエピソードで済ませられたかもしれない。しかし、どうだろうか、毎日新聞6月19日付第4面の解説記事は「高市氏、連日『中国』に言及」と見出しを立て、要旨次のように伝えた(……は本誌省略、〔 〕内は本誌補足)。

  • 高市首相は……G7サミットでは連日、直接・間接的に中国を巡る課題に言及。中国のインド太平洋への海洋進出などに関連する記述を共同文書に2年ぶりに復活させた。
  • 日本は従来、包括的な首脳宣言に中国や北朝鮮を牽制する内容を盛り込むことを主導してきた。しかし……議長国のフランスは早々に宣言作成を見送った。
  • フランスは当初、中国首脳の招待を検討し〔たが〕、最終的にはサミット直前の経済に関するオンライン会合に中国副首相を招いた〔に留まった〕。
  • 高市は最初の国際情勢に関する討議から中国の話題に切り込んだ。中国の海洋進出を巡り「国際社会の平和、安定、繁栄にインド太平洋情勢が大きな影響を与える」と指摘。ホルムズ海峡のエネルギー危機と関連付け、重要鉱物の共同備蓄連携構想でG7結束を呼びかけた。
  • 開発に関する討議でも、中国のレアアースなどの対日規制措置が「G7や同志国の供給網に影響を与えかねない」と訴えた……。

この遠慮がちというか、抑制された記事からさえ伝わって来るように、高市と外務官僚は今次G7を「中国包囲網」強化の舞台とすべく狂奔した。それは、いくつかの主張が文書に取り込まれたという意味では、外務官僚レベルの自己満足的な「成功」には違いないが、国際社会にとっても日本国民にとっても何ら意味あることではなかった。

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米国は「インド太平洋」概念をやめる

このような高市政権の外交政策のベースは、安倍政権が2016年6月のアフリカ開発会議での議長演説で打ち出した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP=Free and Open Indo-Pacific)」という名の、事実上の「中国包囲網」構想である。これを17年1月に発足した第1次トランプ政権が採り上げ、18年5月30日にハワイの「太平洋軍」司令官がフィリップ・デービッドソン海軍大将に交代する際の式典で、マティス国防長官が太平洋軍を「インド太平洋軍」に改称すると発表した。

デービッドソンと言うとご記憶の方も多いと思うが、その3年後の21年4月の退任を前に上院で予算獲得のための証言に立ち、その中で「今後6年以内に〔つまり2027年までに〕中国が台湾に軍事侵攻する可能性がある」と語り、その後の「台湾危機切迫」論の盛り上がりに火を着けた張本人である(本誌No.1107「中国の台湾軍事侵攻が切迫しているというのは本当か?」など参照)。

この米国の「インド太平洋軍」への改称は、日本の防衛・外交当局にとっては躍り上がって喜ぶような大事件で、某防衛大臣経験者は私と同席したシンポジウムの席で、「戦後初めて……ウウッ、日本が提起した戦略概念を米国が採用してくれたんです……グシュッ」と、涙を流し鼻を詰まらせながら語ったほどだった。

しかし彼らにとって残念なことに、選りに選ってエビアン・サミット開催最中で、翌日にはトランプがインドのモディ首相と会談を予定している6月16日というタイミングで、米国防省は「インド太平洋軍」を元々の「太平洋軍」に戻すと発表した(18日付読売ワシントン支局発)。

これが面白いのは、ペンタゴンの官僚、とりわけ戦略・政策部門のスタッフらは、インドを巻き込んで中国包囲網を形成しようというFOIPの本音にあまり乗り気でないと言うか「危なっかしい」と思っていたので、トランプの気まぐれによる「インド太平洋軍」への改称を元に戻そうと前々から考えていた。取材を通じてその感触を得ていた私は、しかし、第2次トランプ政権の4年間が終わった後にそうっと「太平洋軍」に戻すものと予想していたが、何と、トランプ在任中に断行された。これは、例えばトランプがワシントンの「ケネディ・センター」の理事会に側近を送り込んで自分を理事長に選ばせた上、その歴史ある施設の名称を「トランプ&ケネディ・センター」と改称させようとしたが、ワシントン地裁によって阻止された事件と同様、トランプという「バカ殿」の老人性徘徊症のような気まぐれ行動の始末が在任中に早くも始まったことを意味している。11月中間選挙で敗北した後に始まると見られていたトランプ大統領のレイムダック化が、早くも始まったとも言えるだろう。

「FOIPは日本発の戦略構想」という嘘

ところで、私の知り合いである上述の防衛大臣経験者は「戦後初めて、日本発の戦略概念を米国が採用してくれた」ことで感涙に咽ぶのだったが、実はこれは日本発ではなく米国発ーーそれも、保守派やネオコンの牙城であるヘリテージ財団や、日米安保マフィアの巣窟であるジョージタウン大学CSIS(戦略国際研究センター)などが仕掛けた対日操作に安倍政権が易々と乗せられ取り込まれた結果に過ぎない。

それを象徴するのが、安倍が2012年12月の総選挙に勝って2度目の首相に指名されると同時に、国際的な情報ネットワーク「プロジェクト・シンジケート」に安倍の名前で発表された英文の論文「アジアの民主的な安全保障の四角形(ダイヤモンド)」で、これはどういう訳か日本のメディアでは報じられることがなく、某出版社が日本語の元原稿を提供してほしいと要望したが断られ、では翻訳を載せたいと願い出るとそれも断られた。奇妙なことで、推測するに、安倍が書いた日本語の元原稿はなく、そうかと言って安倍がこれだけの英語論文を自分で書く能力はないので、誰かが最初から英語で書いたのである。

その辺りの事情を、本誌No.866「安倍流『価値観外交』が崩壊した日」が書いていて参考になるので、やや長文になるが以下に【付録】として再掲する(編集部註:【付録】は初月無料のメルマガに今ご登録いただくとお読みいただけます)。また、米国発にせよ日本発にせよ、FOIP構想は「空回り」に終わることを軍事・外交戦略の面から分析した文谷数重「中国包囲網『FOIP構想』の空回りの理由」(『軍事研究』26年7月号)は、「日本が先に手を出さない限り日中戦争は起こらない」という軍事面からの知見に基づいてFOIPの誤りを指摘していて必読である。

また、田中均=元外務審議官が今年1月27日付毎日新聞夕刊「時代を見る目」で次のように述べていたのは、米国の方から「FOIPはもう止めた」と言い出すことを見越した先見の明を表している。

  • 過去数十年、日本は米国と共にインド太平洋戦略やQUADの戦略協議など中国を牽制する仕組みを推進してきたが、このような地域構想については考え直す必要がある。
  • 同盟国と共に中国を制するという発想はもうトランプ政権の米国には希薄であり、日本がこれにしがみつくのはいささか滑稽だ。
  • すなわち、法の支配と自由を掲げた「インド太平洋」戦略は事実上中国を牽制する戦略であったが、トランプ大統領の米国はこのような戦略から離れている。日本は「インド太平洋」から中国との協力も念頭に置いた「アジア太平洋」の外交努力に回帰すべきではないか。……

賛成である。田中が言うような意味で、エビアン・サミットにおける高市は「いささか滑稽」だったのである。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年6月22号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: X(@自民党広報

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