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リーマンショックを予言したソロスがトランプの失敗を確信する訳

先日掲載の記事「さよなら中国マネー。三大投資家ジョージ・ソロスも中国を見捨てる」をはじめ、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』でたびたび紹介してきたジョージ・ソロス氏の発言。同氏を筆頭とする「国際金融資本」はグローバリズムを掲げており、彼らの発言は「事実をつくる力」を持つとも言われています。今回は、ソロス氏の「現時点でのトランプ大統領感」とアメリカの未来について、メルマガ著者の北野幸伯さんがわかりやすく解説してくださっています。

ソロスは、トランプをどう見ているか?

私は、いつもジョージ・ソロスの発言に注目しています。世界で23番目の金持ち(フォーブス誌2016年)であるソロスの発言は、まずよく当たります。次に、彼の発言自体に、「事実をつくる力がある。つまり、ソロスが「○○国はヤバいよ」といえば、世界中の投資家が、「ヤバいらしいよ」と考え、逃げ始める。それまで○○国はヤバくなかったかもしれませんが、ソロスの一言が現実を創ってしまった

そんなソロスは、トランプ新大統領について、何と言っているのでしょうか?

反ブッシュ(子)としてのソロス

その前に、ソロスが過去に何を言ったか振り返ってみましょう。まずソロスは、真正の「グローバリスト」で「ナショナリズム」を嫌悪しています。それで、「アメリカ一極支配体制構築」を目指したブッシュ(子)政権を嫌悪していました。彼は、イラク戦争が始まった翌04年、『ブッシュへの宣戦布告』という本を出版しています。この本の中で、ソロスは、「アメリカの没落を明確に予測していました。

先制軍事行動を唱えるブッシュ・ドクトリンを私は有害だと思っている。

アメリカの単独覇権というブッシュの夢は、達成不可能であるばかりか、アメリカがその伝統として唱えてきた理念と矛盾するものである。

アメリカは今日の世界で、他のどの国家も、またどの国家連合も、当分は対抗できそうもない支配的な地位を占めている。アメリカがその地位を失うとすれば、それは唯一、自らの誤りによってだろう。ところが、アメリカは今まさに、そうした誤りを犯しているのである。

どうですか、これ?

「アメリカがその地位を失うとすれば、それは唯一、自らの誤りによってだろう」
「アメリカは今まさに、そうした誤りを犯している」

つまりソロスは、「イラク戦争は誤りでそれによってアメリカは自らの地位(=覇権国家の地位を失う」と言っている。

これは、まさにその後起こったことです。では、なぜアメリカは、大きな間違いを犯してしまったのでしょうか?

それは、この国が、「確実なものが存在する」という間違った考えと強い使命感を持つ過激派グループに牛耳られているためだ。
(同前)

ソロスの意見では、ブッシュ政権(=ネオコン政権)は、「過激派グループ」だそうです。そして、08年1月、ソロスはダボス会議でこんな発言をし、世界を震撼させました。

「現在の危機は、ドルを国際通貨とする時代の終焉を意味する!」

皆さんご存知のように、「リーマン・ショック」から世界的危機が起こったのは、その8カ月後、08年9月です。ソロスは、「予言者」としての地位を確固たるものにしました。

ソロスは、「親中」だった

次に、ソロスの中国に関する発言を見てみましょう。知らない人は、かなり驚くと思います。

彼は、06年に出版された本『世界秩序の崩壊~「自分さえよければ社会」への警鐘』の中で、アメリカと中国についての考えを明らかにしています。

ところが、ここに、皮肉にも愚かな事態が起きた。近隣の大国・中国が基本的に多極主義を受け入れ始めた矢先、アメリカ合衆国が正反対な方向へと動き、国際的な諸制度への疑念を強め、最近の国家安全保障面での難題に対して大幅に一極主義的な治療策を遂行したのである。

 

日本は、この両国の板挟みになった。かたや最大のパトロンかつ保護国ながら、昨今益々世界の多くの国々との折り合いが悪くなってきたアメリカ。かたやその経済的繁栄を持続させ確保すべく国際的システムにおいて安定と現状維持を志向しつつある中国。

ソロスによると06年当時のアメリカは、「昨今益々世界の多くの国々との折り合いが悪くなってきた」国である。一方、中国については、「経済的繁栄を持続させ確保すべく国際的システムにおいて安定と現状維持を志向しつつある」国。

06年時点のソロスの、「米中観」は明確です。つまり、彼は、「アメリカ」「中国」と考えていた。この評価は、2010年時点でも変わっていません。彼は2010年11月16日の「フォーリン・ポリシー」で、

アメリカから中国への、パワーと影響力の本当に驚くべき、急速な遷移があり、それはちょうど第二次世界大戦後の英国の衰退とアメリカへの覇権の移行に喩えられる。

今日、中国は活発な経済のみならず、実際に、アメリカよりもより機能的な政府を持っている」という議論を呼ぶであろう。

と語りました。つまり、彼は当時、「イギリスからアメリカに覇権が移ったように、今は、アメリカから中国に覇権が移動している」と考えていた。さらに、中国は「アメリカよりも機能的な政府を持っている」と。

これも、本当に驚きです。というのは、ソロスは、「オープン・ソサイエティ」、つまり「開かれた社会」をつくりたいのでしょう? だから、彼の財団は、世界各地で独裁国の民主化勢力を支援している。

ところが、共産党の一党独裁国家、基本的人権の存在しない、「開かれていない社会である中国だけは完全に例外扱い。それどころか、大絶賛している。

反中に転じたソロス

「アメリカから中国に覇権が移っている」
「それは悪いことではない」

と考えていたソロス。しかし、彼の中国への期待は裏切られます。08年9月からの危機で、中国は一人勝ち」状態になった。それで増長し傲慢に振舞うようになってきた。

2012年、習近平がトップになり、「中国の夢」とか言い始めたとき、ソロスは、「うわ~~~、こりゃダメだ!」と思ったことでしょう。

これまで見てきたように、ソロスは、一党独裁でも「グローバリズム」に逆らわない限り寛容である。しかし、「中国の夢」とか、ナショナリズム全開のスローガンには我慢できないのです。

2016年1月、世界的投機家ジョージ・ソロスは、また爆弾発言をし、世界を仰天させました。

ソロス氏:中国のハードランディングは不可避、株投資は時期尚早(2)

Bloomberg 1月22日(金)9時54分配信

 

(ブルームバーグ):著名投資家ジョージ・ソロス氏は21日、中国経済がハードランディングに直面しており、こうした状況は世界的なデフレ圧力の一因になるだろうと述べた。同氏はまた、中国情勢を考慮して、自分は米株の下落を見込んだ取引をしていると説明した。ソロス氏はスイス・ダボスでのブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「ハードランディングは事実上不可避だ」と指摘。「私は予想しているのではなく、実際に目にしている」と語った。

これで世界の投資家は、「嗚呼、ソロスは、中国を見捨てたのだ」と判断しました。

ソロスは、トランプをどう見ているか?

さて、ソロスはトランプをどう見ているのでしょうか? ここまで読まれた皆さんには、想像がつくことでしょう。

トランプ氏で市場は低迷へ、政策は失敗すると確信=ソロス氏

ロイター 1/20(金)8:42配信

 

[19日 ロイター]

著名投資家ジョージ・ソロス氏は19日、ドナルド・トランプ次期米大統領の政策が不透明な点を考えると、世界の金融市場は今後低迷するとの見通しを示した。ソロス氏はブルームバーグに対して「現段階で不確実性の度合いは最高潮に達しており、こうした不確実性は長期的な投資家の敵だ。だから市場が順風満帆な局面を迎えられるとは思わない」と語った。

トランプの政策が不透明なので、金融市場は低迷するそうです。

トランプ氏の政策についてソロス氏は、規制緩和や減税といった市場の希望がかなった半面、国境税や環太平洋連携協定(TPP)脱退などの提案が米国の経済成長にどういった影響を及ぼすのかが不明だと指摘。「トランプ氏が実際にどう動くかを正確に予測するのは無理だ」と言い切った。
(同前)

ソロスによると、トランプの政策のうち

だそうです。

米大統領選では民主党のクリントン候補を応援して多額の選挙資金を提供したソロス氏は「個人的にはトランプ氏は失敗すると確信している。それはわたしのように失敗を望む人がいるからではなく、彼の考えが本質的に自己矛盾をきたし、そうした矛盾が既に周囲のアドバイザーや閣僚候補によって体現されているからだ」と述べた。
(同前)

ソロスが言うに、トランプは自己矛盾しているので失敗する」そうです。「自己矛盾」が何かは、わかりませんが。ソロスは、「トランプは、自己矛盾している」と考えている。

いずれにしても、トランプが、ソロスや、彼の属する「国際金融資本サークルに嫌われているのは確かなようです。こうした動きを見て、習近平が、ダボスで「グローバリズム絶対支持!」演説をしたことは、既にお伝えしました。

トランプ大統領誕生で落胆したソロスは、また中国の方になびき始めています

ソロス氏は、中国が重要な輸出市場である欧州の統合に関心を持っていると指摘。習近平国家主席は中国を社会的にもっと開かれた状態にすることも、もっと閉じられた状態にすることも可能だが、中国自体はより持続的な経済成長モデルに向かうだろうと語った。
(同前)

「おい!ハードランディングの件はどうなってるんだ!」と思うのですが。

世界で起こっていることを簡潔に書くと以下のようになります。ナショナリスト・トランプは国際金融資本家に嫌われている。そのことを知った習近平は、ナショナリストをやめて、グローバリストになるフリ」をはじめた。国際金融資本は悩んでいる

日本政府はこうした世界の動きを知り、トランプとも国際金融資本ともうまくやっていくべきです。

image by: Antonio Scorza / Shutterstock, Inc.

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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