先日、回転寿司店「くら寿司」を経営するくらコーポレーションが連結決算を発表しました。売上高は7.3%増と、人気店としての安定感を見せましたが、営業利益が23.1%減とまさかの大幅なマイナス。同社は新規出店の増加など一時的な費用がかさんだとしていますが、無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんの分析によると、その原因は別のところにもあるようです。
くら寿司、営業利益23%減。人件費が圧迫、充実しすぎたサイドメニューが諸刃の剣
佐藤昌司です。回転寿司店「くら寿司」を運営する、くらコーポレーションは3月3日、2016年11月~17年1月期の連結決算は売上高が前年比7.3%増の301億円、本業のもうけを示す営業利益が23.1%減の14億円(前年は18億円)と発表しました。営業利益が大幅に減少しました。
売上高が増加した要因は、「極上とろとかにフェア」「極上かにフェア」「極上ふぐフェア」「熟成まぐろフェア」を開催し、それぞれが好評だったことが挙げられます。また、新発売した「牛丼」やラーメンの「胡麻香る担々麺」、天ぷらの「特撰海老マヨ」、杏仁豆腐の「完熟マンゴー杏仁」といった「サイドメニュー」が好調だったことも大きく寄与しました。
売上高は増加しましたが、営業利益は4億円以上が減少しました。同社は営業利益が減少した理由として、新規出店の増加、改装店舗の増加、新商品の販売促進費の増加、施設の建設といった一次的な費用が増加したことを挙げています。
一方、2017年3月4日付日本経済新聞は「最低賃金の引き上げに伴って1億8,000万円の負担が生じ、パート従業員の厚生年金保険への加入義務化も1億2,000万円のコスト増要因となった」と報じ、人件費の増加が主な要因と指摘しています。
最低賃金の引き上げの費用は、2016年10月から時給の全国平均が25円引き上がったことが影響しました。厚生年金保険の費用は、2016年10月から従業員501人以上の会社で週20時間以上働く人などにも厚生年金保険・健康保険の加入対象が広がったことが影響しました。
くら寿司と日本経済新聞が指摘した事象により営業利益が大幅に減少しました。どれも一時的、もしくはくら寿司に限った話ではないので問題視する必要はないのかもしれません。成長のための必要経費であり、他の企業でも起こり得る話ともいえます。ただ、状況は楽観視できる状況ではありません。人件費率の上昇がくら寿司の経営を圧迫しているからです。
くら寿司の人件費率は上昇傾向を示しています。直近10年間の通期の人件費率を見てみます。2007年10月期は23.2%です。その後は徐々に上昇していき、2016年10月期には25.0%になっています。ちなみに、それぞれの期がたまたま高かったり低かったりしたということではありません。10年の間で、緩やかながらも上昇していったのです。徐々に人件費がかさむ経営体質になっていったと読み取れます。
10年間で人件費率は1.8ポイント上昇しました。「1.8ポイント」という数値は大したことがないと思われる方がいるかもしれませんが、この数値は決して小さくはありません。同社の営業利益率は4~7%程度、純利益率は2~5%程度です。人件費率が1.8ポイント上昇してしまうと利益を大きく損ねてしまうことがわかります。仮に2016年10月期の人件費率が1.8ポイント低ければ、営業利益が約20億円も増えることになります。大きなインパクトがあるといえるでしょう。
人件費率が上昇している理由は様々なことが考えられますが、一つの大きな理由として「サイドメニュー」を充実させていることを挙げることができます。前述した通り、2016年11月~17年1月期の売上高が好調だったのは、「牛丼」などのサイドメニューが好調だったためです。このようにサイドメニューが充実すれば売上高は向上します。しかし手間がかかるため人件費を押し上げる要因にもなってしまいます。
近年、大手回転寿司チェーンはサイドメニューを充実させています。魚価の上昇や消費者の嗜好の多様化により、寿司だけでは収益を確保できなくなっています。そこで、サイドメニューを充実させることで原価を抑え、幅広いターゲット層を取り込む方向に舵を切っています。続々と新商品を投入しています。
特にくら寿司のサイドメニューに対する力の入れようは他を圧倒しています。例えば、「スシロー」や「はま寿司」「かっぱ寿司」でもサイドメニューを充実させていますが、「ラーメン」や「うどん」「たこ焼き」が少し目立つぐらいで大きな驚きはありません。しかし、くら寿司はこれらに加えて、「牛丼」や「天丼」「うな丼」「カレー」「天ぷら」なども扱っています。もはや回転寿司店とは呼べないほどの充実ぶりです。
サイドメニューを充実させることで短期的には収益を確保できるでしょう。ある程度の充実化はやむを得ない状況といえます。一方で経営に深刻な影響を与えてしまう危険性があります。オペレーションが煩雑になるため、人件費などの経費がかさむことで利益を圧迫してしまう恐れがあります。
くら寿司では寿司の握りは「寿司ロボット」が行います。1時間に3,600貫を握ると言われている高性能ロボットです。これにより人件費を抑えることができています。
一方、サイドメニューではロボット化は実現できていません。調理の手間は小さくなく、寿司に比べて人件費がかさむといえるでしょう。そのため、サイドメニューが売れれば売れるほど人件費率は上昇すると考えられます。サイドメニューが多いくら寿司はその影響が顕著に現れるといえます。同社の人件費率が上昇傾向を示しているのは、サイドメニューが充実したことでオペレーションが煩雑になったこととは無関係ではないと考えられます。
サイドメニューを充実させすぎることで、もう一つ大きな問題が生じます。それはくら寿司の「寿司」の魅力が薄まってしまうことです。多くのサイドメニューに囲まれることで寿司が埋没してしまいます。「くら寿司はもはや寿司店ではない」というマイナスの認識が消費者の間に広まってしまったら、ブランドイメージは著しく低下してしまうでしょう。
ある程度サイドメニューを充実させることはやむを得ないといえますが、寿司の魅力が損なわない程度に抑えるべきでしょう。その上でサイドメニューの調理でもロボット化や機械化を推し進めて効率化を図り、人件費率の上昇を抑えていく必要があります。
くら寿司の充実しすぎた「サイドメニュー」は諸刃の剣といえそうです。
「企業経営戦略史 飛躍の軌跡(クリエイションコンサルティング)」