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【英語で読む政治】米国によるシリア攻撃の真の目的とは?

海外のメディアで報じられたニュースを解説する『山久瀬洋二 えいごism』。今回は、米国によるシリア攻撃について取り上げています。表向きにはシリアのアサド政権による毒ガス使用を攻撃の理由としていますが、メルマガ著者の山久瀬洋二さんは、その真の目的は中東の覇権争いでロシアに先んじることにあると解説しています。さらには、この攻撃は北朝鮮に対する脅迫の効果もあると自論を展開し、今後の世界情勢にどのような影響をもたらすかを予測しています。

米国のシリア攻撃の真の目的とは?

海外のメディアで報じられたニュースを解説します。

日本のマスコミではあまり報じられない切り口で、本当はどういう意味で報じられているのかを私見を交えてお伝えします。

今週のテーマは、「シリアで人々が苦しむとき、国際政治は暗躍する」です。

【海外ニュース】
President Trump demonstrated a highly improvisational and situational approach that could inject a risky unpredictability into relations with potential antagonists, but he also opened the door to a more traditional American engagement with the world that eases allies’ fears.

訳:トランプ大統領は、先の読みにくい潜在的な脅威渦巻く地域に対して極めて即興的で現実的なアプローチを展開。

それは同盟国を防衛するというアメリカの従来の政策への彼の回帰をもうかがわせる。(ニューヨークタイムズより)

【ニュース解説】

国際政治の狭間に取り残されて苦しむのは、常に名もなき庶民です。

大国は、自らの立場や政治的な利害でどのようなことでも正当化し、そうした人々の苦しみを封印することができるのです。

そして、この封印する行為が、傷ついた庶民に新たな恨みと怒りの連鎖を植え付け、最終的にはテロをはじめとした様々な殺傷行為の原因を作ります。

そもそも、シリアで多数の死傷者がでて、毒ガスによって罪もない人々が被害を受けた背景には、アメリカとロシアという二つの大国の長年にわたる覇権をめぐる争いに翻弄された中東の人々の影が漂います。

シリアのアサド政権は、よりアメリカ寄りのトルコやウクライナなどに囲まれたロシアにとってはどのようなことがあっても押さえておきたい軍事的拠点でした。

そして、アメリカはといえば、イスラエルとトルコによってシリアを圧迫し、サダム・フセインのイラクを崩壊させ自らの影響下においたことで、中東で圧倒的なプレゼンスを誇示できるはずでした。

しかし、そうした思惑とは裏腹に、イラクやシリアが支配していた地域にISISが新たな脅威として登場しました。

このロシアとアメリカ双方からみた共通の敵に対して、ロシアの影響力が強かったシリアの混乱への有効的なアクションをアメリカはとれないまま、黙視する状況が続いていたのです。

そして、ロシアはその機会を利用して、アサド政権を盛り立てながら、シリアでの反政府勢力の駆逐に向けて露骨な戦闘行為を繰り返していたのです。

しかし、シリアの反政府勢力はISISのみではなかったのです。

独裁色の強かったアサド政権への国民の怨嗟も反政府活動の大きな原因だったのです。

さて、ここでアメリカは考えます。

今、アメリカのプレゼンスを脅かしている二つの地域が世界にあると。

一つはシリアをはじめとした不安定な中東地域です。

そして、もう一つが極東から東南アジア一帯に他なりません。

極東や東南アジアでの中国の影響力をいかに削ぎ、同時に中東でのアメリカの利権を守り抜くか。

ロシアと中国の出鼻をくじくために利用できる国家。

それがシリアと北朝鮮でした。

その二つの国家へのアプローチをどのようにするべきか、あれこれと考えていたときに、シリアが毒ガスを使用したというニュースがアメリカに飛び込んだのです。

迅速な計算でした。

シリアの軍事基地を懲罰として叩いても、アメリカとロシアとの間での決定的な摩擦は避けられるだろうと。

そして、この行為によってアメリカは暗に北朝鮮に脅威を与えることもできるはずだと。

中国は、赤子のように駄々をこねて反発する北朝鮮に手を焼いていました。

しかも、もしアメリカがシリアではなく北朝鮮を攻撃した場合、北朝鮮は中国の脅威を無視するかのように、極東で核を使用することになるかもしれません。

その時、標的になるのは韓国ではなく日本のはずです。

それは、サダム・フセイン政権がアメリカと戦闘状態にあったときに、イラクがイスラエルをミサイルで攻撃した行為を考えれば明快です。

長年のアラブの敵であるユダヤ人の国家イスラエルを叩くことで、当時のイラクはアラブ系の人々の同情と大義を買い取ることができたのです。

同じく、過去に朝鮮民族を支配していた日本を攻撃することは、北朝鮮が国内の世論をまとめる上でも都合がいいのです。

となれば、アメリカは、そうしたリスクを避けるためにも、北朝鮮を叩く前に、シリアに攻撃をしかけ、世界にアメリカありという威信を見せつけ、その結果として北朝鮮を黙らせることもできるのではと思ったのです。

それが最もリスクの少ない行為だと考えたのです。

シリアを攻撃した結果、ロシアは激しく反発しました。しかし、ロシアはシリアのアサド政権が毒ガスを使用することをこれ以上黙認(あるいは協力すること)はできなくなりました。

ただ、この行為によって、ISISはロシアという直近の脅威を緩和できるかもしれません。

これが今回紹介したニューヨークタイムズのヘッドラインに書かれた a risky unpredictability(不透明なリスク)なのです。

では、北朝鮮はどうでしょう。

金正恩は、いつアメリカのミサイルが自分の頭の上を直撃してくるかと思いながら、眠れない毎日を過ごしているかもしれません。

あるいは、中国が先手を打って、北朝鮮に介入することを警戒しているかもしれません。

しかし、その結果北朝鮮、そして中国がどのようなアクションを起こすのかも、同じく a risky unpredictability なのです。

なにせ、素人からプロの大統領へと体質改善を焦るドナルド・トランプがアメリカの指導者である以上、誰も彼が次にどのようなアドリブ(ヘッドラインでは a highly improvisational and situational approach)に出てくるか予想できないのです。

こうした様々な思惑が飛び交うなか、毒ガスを浴びた名もなき人々が悶絶し、財産を奪われた人々が難民となって国外へと命がけの逃避行を続けます。

人類が「万物の霊長」となって以来、常に繰り返してきた愚行と悲劇が、今も続いているのです。

image by:Shutterstock

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【著者】 山久瀬洋二 【発行周期】 ほぼ週刊

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