MAG2 NEWS MENU

麻生氏も苦言。安倍首相に関わりが深い、第2の「森友学園」疑惑

北朝鮮危機、共謀罪を巡る論戦などが連日報じられる中、ぱったりと報道されなくなった安倍首相と加計学園との関係。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんはこの問題の全容を改めて記すとともに1枚の写真を公開し、首相の同学園への入れ込みようについて「韓国以上の政治の私物化」と批判しています。

アベ友への利益誘導に使われた国際戦略特区

ホテルの一室だろうか。背広姿の男四人がいて、うち三人が体を寄せ合ってソファーに座り、ワイングラス片手にカメラへポーズをとっている。

右端の安倍首相には満足げな表情が浮かぶ。安倍首相が腹心の友と呼ぶ左端の加計孝太郎氏のほころんだ顔は、撮影者との近しい間柄を感じさせる。

この写真は、安倍総理夫人、昭恵氏がクリスマスイブの2015年12月24日自身のFacebookに投稿したものだ。安倍首相と加計氏の表情から見て、カメラを向けたのも昭恵夫人と推察する。

この9日前、加計氏にとって重要な決定が、政府の国家戦略特区諮問会議でくだされた。

「広島県と愛媛県今治市」が全国で10番目の国際戦略特区に指定されたのだ。なぜ広島県と今治市がひとつの区なのかという奇妙さについては後述するとして、この決定は、加計氏が理事長をつとめる学校法人加計学園の岡山理科大学がめざす獣医学部の新設と深くつながっている。

加計学園グループは、岡山県を本拠地とし岡山理科大学や千葉科学大学など全国に五つの大学をかまえるほか、保育園や幼稚園、特別養護老人ホーム、医療法人、建設関連会社などを展開する。

「僕は教育実業家だ」と生前語ったという父・勉氏(創業者)の信条を受け継いだ加計氏は、理学部、工学部、総合情報学部、生物地球学部、教育学部からなる岡山理科大に、新たに獣医学部を加えようと願い、この10年間情熱を注いできた

彼が目をつけたのが、今治市のいこいの丘16.8ヘクタールの広大な土地である。もともと、愛媛県が計画していたドームや運動公園の建設用地にあてられる予定だったが、資金難による計画のとん挫で、宙に浮いていた。

加計氏は、今治市に大学の獣医学部建設計画を持ちこんだ。獣医学部は獣医学生の定員規制により新設が認められていなかった。そこで、小泉内閣がはじめた「構造改革特区」を利用する手を思いついたのだ。定員規制を受けない特区に今治市を指定してもらい、そこに獣医学部をつくるという計画だ。

今治市はこれに乗り、2007年から2014年にわたって毎年、構造改革特区による「獣医師養成系大学」の設置を国に提案したが、採用されなかった

風向きが変わったのは、安倍政権が成長戦略の柱として「国家戦略特区という別の名前の特区をつくってからだった。

構造改革特区は、従来の法規制などの関係で事業化が不可能なものを、特別に可能にする地域のこと。

これに対し国家戦略特区は、諮問会議のメンバー、竹中平蔵氏の説明によると、「今までの特区と異なり総理が主導し…国、地方、企業の3者統合本部でミニ独立政府のように決められる主体性を持った新しい特区」だという。

どうやら「総理が主導する特区」というところが、ミソらしい。たしかに国家戦略特区諮問会議の議長は安倍総理自身である。諮問する側のトップと諮問される側の議長が同じというのは実に奇妙なことではある。

しかし、この仕組みは、安倍総理の「腹心の友」にとっては、願ってもないことだった。

あれほど難攻不落だったのにいとも簡単に、今治市の提案する「獣医師養成系大学設置」、つまり岡山理科大獣医学部新設を内容とする特区指定が、OKになったのだ。それを決めたのが、安倍総理を議長とする国家戦略特区諮問会議というわけである。

安倍首相と加計氏は若いころ、アメリカの留学先で知り合った。30年来のゴルフ仲間でもあり、昭恵夫人も交えて会食をするなど、家族ぐるみで親しく付き合う間柄だ。

当然、加計氏が今治に獣医学部をつくりたがっていることを安倍首相は十分すぎるほど知っていたはずである。

この特区指定を契機に、今治市への獣医学部設置に向けて制度改正などの環境整備が文科省、農水省など関係府省の垣根を超えて着々と進められていった。

本来、農水省は獣医学部の新設には反対の立場だった。全国的に見て、獣医学部のある大学は16校もあり、当然のことながら卒業生は学校所在地に縛られるわけではない。

だから国全体として獣医師は足りているという認識だ。四国に獣医学部のある大学が一校もないからといって、地域的な理由で今治市だけを特別扱いするというのは、筋違いであろう。

加計学園・岡山理科大の獣医学部新設計画は、そんな論理とは無関係に、加計氏と安倍首相の思いから進められたと考えるのが自然だ。

そのために今治市を特区にしたのだという印象を薄める目的で、あえて西瀬戸自動車道(しまなみ海道)でつながる広島県も同じ特区に含めたのであろう。

広島県と今治市に共通する規制緩和の中身は、NPO法人の設立認証手続における申請書類の縦覧期間を、2か月から2週間に短縮するというものだ。

そもそも、国家戦略特区というのは「国際的な経済活動の拠点を形成し、もって国民経済の発展及び国民生活の向上に寄与することを目的とした仕組み」(3月8日、衆議院文部科学委員会での文科省答弁)である。

この趣旨に、岡山理科大の獣医学部設置がはたして、ピタリと当てはまるのだろうか。

そのスキームは、常識では考えられない行政の厚遇を前提としている。今治市は16.8ヘクタール、評価額36億7,500万円の土地を加計学園にタダで譲渡し、学校建設に県と市が最大96億円の補助金を支払う。しかも、工事を担当するのが加計グループ企業の「SID創研」とくる。何重にも加計グループに利益が転がり込む仕組みだ。

国家戦略特区の趣旨に必ずしも合致していない岡山理科大獣医学部新設のために、2016年11月9日の国家戦略特区諮問会議で、制度改正が決定された。

意見のとりまとめにあたった八田達夫有識者議員は次のように改正の中身を語った。

過去50年間、獣医学部は大学設置の審査対象から外されていた。今度はちゃんと告示で対象にしようということになった。

これに対し、日本獣医師会は農水省に「半世紀にもわたる獣医学教育の国際水準達成に向けた努力に逆行する」と抗議したが、もはや農水省文科省ともに聞く耳を持とうとしない

今治市はさっそく16年11月18日から1ヵ月間、獣医学部開設に関するパブリックコメントを募った。寄せられた意見の75%もが反対だったが、市はかまうことなく今治市土地開発公社から用地を購入するための補正予算37億円を12月27日の市議会で通してしまった

そして今年1月、内閣府と文科省は、この特区で一校に限り獣医学部新設ができるという告示を出し、申請者を募集。予定通り加計学園だけが申請したため、国家戦略特区諮問会議の議長である安倍首相は以下の発言をもって、加計学園の獣医学部設置を認可した。

1年前に国家戦略特区に指定した今治市で、画期的な事業が実現します。獣医学部が、来年にも52年ぶりに新設され、新たな感染症対策や先端ライフサイエンス研究を行う獣医師を育成します。

今治市にしてみれば、広大な土地を無償譲渡しても、人口流出による地域経済の衰退を食い止める手段になりうると踏んだのだろうが、今年に入って議会で「市が無償譲渡した土地を担保に加計学園が金を借りられる契約になっているのはおかしい」などと疑問の声が強まっているという。

それはそうだろう。誰が考えても、優遇され過ぎている。第二の森友学園疑惑といわれても仕方がないのではないか。

森友学園は昭恵夫人、加計学園は安倍首相の案件といえるが、いずれもその背後で動いているのは今井尚哉首席秘書官である。今井秘書官が総理夫人付職員の実質的な上司であることは「米『北爆』危機の裏で森友問題に浮上した、今井秘書官という黒幕」でもふれた通りだ。

日本獣医師会との関係から獣医学部新設に反対の立場であるはずの農水省をねじ伏せる腕力をふるえるのは今井秘書官をおいてほかにないだろう。

加計学園が企画して今治市に持ち込み、2007年から7年かけて構造改革特区指定による獣医学部の新設を要望しても叶わなかったものが、安倍首相が国家戦略特区と名を変えて、自ら議長に就くと、とんとん拍子で「腹心の友の経営する学園の思い通りに進んでいったのだ。

ちなみに、獣医学部のある大学をあげてみよう。

北海道大、帯広畜産大、岩手大、東京大、東京農工大、岐阜大、鳥取大、山口大、宮崎大、鹿児島大、大阪府立大、酪農学園大、麻布大、北里大日本大、日本獣医生命科学大。

これらの大学に岡山理科大が加わって、同じようなレベルの獣医教育を実践できるのか、というのが日本獣医師会の素直な疑問なのではないだろうか。

昨年11月9日の国家戦略特区諮問会議で麻生副総理が苦言を呈した。

法科大学院を鳴り物入りでつくったが、大学院を出ても弁護士になれない場合もあるのが実態ではないか。規制緩和はやるべきだが、上手くいかなかった時の結果責任を誰がとるのかという問題がある。この種の学校についても、結果、うまくいかなかったときにどうするかをきちんと決めておかないと、そこに携わった学生や、それに関わった関係者はいい迷惑をしてしまう。

これが、諮問会議の出席者が包み隠している本音ではないか。安倍首相だけが道理にかなわないところへ突っ走っていることを誰もが承知のうえで、黙りこくっているように思える。

昭恵夫人は、加計学園が運営する御影インターナショナルこども園(神戸市)の名誉園長もしている。夫の「腹心の友」が経営する保育施設ゆえであろう。

加計学園への入れ込みようを見ても、私情が政治と明確に区別されているとは言い難い。森友学園問題で、安倍首相夫妻が被害者のごとくふるまうのは、まことにおかしなことである。日本のトップによる政治の私物化はひょっとしたら韓国以上なのではないだろうか。

 

新恭(あらたきょう)この著者の記事一覧

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 国家権力&メディア一刀両断 』

【著者】 新恭(あらたきょう) 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 木曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け