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リコーはなぜ落ちぶれたのか? 中島聡氏が現場で感じていた「危機」

Windows95の設計に携わり、「右クリック」「ダブルクリック」を開発した世界的エンジニアである中島聡さんが、自身のメルマガ『週刊 Life is beautiful』の中で、コピー機大手「リコー」が深刻な経営危機にあるというニュースについて取り上げています。中島さんは、数年前に同社の若手エンジニア向けの社内セミナーで講師を務めた時の様子について、すでに経営体質に違和感を覚えたそうですが、その問題点とはいったい何だったのでしょうか?

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●コピー機が売れない! 名門「リコー」の袋小路

リコーが、深刻な経営危機に陥っており、アナリストからは「会社としての存在意義さえ疑問視される」という声さえ聞こえる、という報道です。

リコーに対しては、数年前に経営陣の意向を受けて「若手の技術者たちを元気づける」という目的で、何回かのセミナーを行いましたが、そこで明確になったのは、会社としてのビジョンの欠如でした。

その時点から、コピー機を中心とした「複合機」のビジネスが頭打ちであることは、誰から見ても明確で、経営陣は「ものを売る会社からことを売る会社へ」という正しいメッセージを発信していました。

しかし、実際に現場を見ると、大半の技術者は、(いつかは消えゆく運命にある)複合機に誰が使うのか分からない新機能を(意味がないと思いながら)追加している、という非常にちぐはぐな状態になっていました。

結局のところは、「1000億円のビジネスを維持する」のと「10億円のビジネスを新しく立ち上げる」のとを天秤にかけた場合、当面の売り上げや利益を考える限りは、前者の方が「費用対効果」は高いし、「成功率」も高いため、数字で評価される中間管理職たちは、どうしても前者の仕事をしたがる傾向にあります。

これは、私が辞めることを決めた2000年前後のMicrosoftにも見られた傾向ですが、特に「大きな失敗をしなければ、年齢とともに給料が上がっていく」ことが保障された日本の大企業では、それが顕著で、リコーもその「罠」にしっかりとはまっていました。

経営に直接関与できない「若手エンジニア」を相手にセミナーをした私は、考えた末、最後には「会社にとって本当に何が必要かを考え、上司になんと言われようと、それをやるべき。それでも反対されたら、辞めてしまえ」という過激な激励をしたことをよく覚えています。実際に私のメッセージを受けて辞めてしまった人もいたそうですが、そのくらいのことを言わないと、この会社は変わらないと思ったのです。

私のメッセージは、最終的に当時の社長にまで届き、社長ブログで社内で拡散までもされたそうですが、結局は、あの後も「守りのビジネス」しか出来ず、複合機に変わる新しいビジネスを作り出すことは出来なかったようで、とても残念です。

image by: Shutterstock

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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【著者】 中島聡 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 火曜日(年末年始を除く) 発行予定

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