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【加計学園】前川氏の「醜聞リーク」でわかった共謀罪の危険度

獣医学部新設を巡る「総理の意向」文書が明るみになるや否や、検証が充分におこなわれる前に「怪文書」と断定する発言が官房長官の口から飛び出したり、さらにその出所と疑われる前文科省事務次官の醜聞記事が事前に政府寄りの大手新聞紙上に掲載されるなど、あらゆる情報が錯綜し複雑化している加計学園問題。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんは、これら官邸主導と思われる対応について「姑息」と一刀両断した上で、今回の問題を通して思わぬ形で露呈したという「共謀罪の危険性」についても記しています。

前川前文科次官の下ネタリークで墓穴を掘った安倍官邸

あっさりと、「総理のご意向」文書が本物であることを証言する人物が現れたのには、いささか驚いた。

前文部科学事務次官前川喜平氏の告白インタビュー記事が週刊文春と朝日新聞に掲載され、そのうえ記者会見まで。

高級官僚の裃を脱ぎ捨てた人の話は、かくも分かりやすいものかと思った。

むろん、前川氏には心穏やかでない日々が続いていただろう。文書は前川氏がメディアや野党に渡していると噂が流され、5月22日の読売新聞に「前文科次官、出会い系バーに出入り」という三流週刊誌なみの記事を掲載されたのだから。

そのさなか、メディアからインタビューの申し入れがあり、腹をくくって知ってること全てを話す気になったとみえる。

それにしても、ついこの間まで事務次官のポストにあった人が、オモテに出てくるのはきわめて異例だ。官邸を敵に回す危険性は十分、承知しているだろう。噴き出す怒りのほうが怖れを上回ったということか。

ともかく、前川氏の勇気ある発言で、加計学園問題のポイントがより鮮明になってきた。

第一に押さえておきたいのは、大学の獣医学部を新設するべきだと考えていたのは官邸、つまり安倍首相とその参謀たちだけ、ということである。

学部の設置を認可する文科省、獣医の数が足りているかどうかを判断する農水省、新薬開発に獣医学部で養成すべき人材の需要があるかどうかを検討する厚労省、いずれも獣医学部新設に消極的だった。

「医師、獣医師、船舶職員など特定の分野については、文科省の認可基準において、将来の人材需要が見込めないということで、原則的に新設をしないという考え方になっている」と前川氏は言う。

それが、安倍首相の「岩盤規制」として、突破対象になったのは、「腹心の友加計孝太郎氏の経営する加計学園が今治市に国家戦略特区の特例事業として岡山理科大獣医学部新設をめざしていたからである。

安倍首相は最も信頼を寄せる側近、今井尚哉首席秘書官に実現への絵を描かせた。だが、酪農家の減少が著しいこの国になぜ獣医学部が新たに必要なのか。なぜ既存の大学では不十分なのか。それを説明できる材料はない。あるのは、獣医学部を特例でつくりたい加計学園と遊休地を活用したい今治市のニーズだけだ。

その難題を受けとめて、なにがしかの理屈をひねり出し、安倍首相を議長とする国家戦略特区諮問会議の忖度に満ちた審議を通過させたうえで、文科省などを抑え込まねばならない。

今井氏は加計学園、今治市と連絡を取り合い、獣医学部新設計画にどのような衣装を纏わせるか、入念な打ち合わせをしたことだろう。

今治市と愛媛県は2015年6月4日、「国際水準の獣医学教育特区」計画を内閣府に提案した。

その添付資料には、既存の獣医学部との違いとして、動物由来感染症の防疫、創薬などライフサイエンス分野における連携研究に対応する、と記述されている。

だが、これらは本当に、既存の獣医学部で対応できない分野だろうか。そんなことはあるまい。

提案書の指摘するように、これまでの獣医学教育が本当にペットの医療や家畜の衛生管理ばかりで、時代に十分対応できていないのだとしたら、教育研究対象を新しい分野にまで広げればいいだけのことだ。

なにより今治市と加計学園の計画の問題点は具体性がないことだ。獣医学部を新設するためにこれまでとの違いを「作文」したにすぎない。

この計画に対し安倍首相から「抵抗勢力」と見なされた日本獣医師会が新設反対を特区担当の石破茂大臣(当時)に強く訴えた。

いくら安倍首相肝入りの案件とはいえ、石破大臣のころは、官邸の側近たちもゴリ押しはできない。一定のハードルを設けないわけにはいかず、2015年6月30日に閣議決定された「日本再興戦略改定2015」で、「新設のための4条件」(下記)が示された。

現在の提案主体による既存獣医師養成でない構想が具体化し▽ ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき具体的需要が明らかになり、かつ、▽ 既存の大学・学部では対応困難な場合には、▽ 近年の獣医師需要動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う。

一見してわかるとおり、「構想が具体化」「獣医師が新たに対応すべき具体的需要」と、具体性を要求した内容だ。

この具体性がいまだ出てこないまま、加計学園の獣医学部計画が既定路線として進められ、設置認可の審査も、結論ありきの状況で行われているのである。

記者会見で、この4条件について、どこが合致していないのかと質問された前川氏はこう言った。

とくに新しい分野における需要が明らかになっているのかという点。例えば新薬の開発とか水際の対策とか、本当にそれは具体的な内実を伴うものなのか。そこが薄弱だと思う。新しい分野の具体的な人材需要ですね。既存の大学学部では対応できないという条件も検証されていない。

昨年6月、事務次官に就任した前川氏を待ち構えていたのがこの問題だった。

大きな行政の課題になっていた。私は文部科学省の事務方の責任者として、非常に疑問を感じながら仕事をしていた。

今回明るみに出た文科省作成の8枚の記録文書は、昨年9月から10月にかけ、前川氏が担当の専門教育課から説明を受けたさいに受け取った「レク資料」だ。まずはそのうち9月28日のもの。

平成30年4月開学を大前提に逆算して最短のスケジュールを作成し、共有していただきたい。これは官邸の最高レベルがいっていること。

前川氏は「内閣府から文科省に強く要請が来た最初の文書」と認識しているようだ。

10月7日に渡された以下のレク資料には「内閣府からの最後通告に近いもの」を感じたと言う。

今治市の区域指定時より「最短距離で規制改革」を前提としたプロセスを踏んでいる状況であり、これは総理のご意向だと聞いている。

与党での議論はいらないということが書いてあるし、30年4月開学というのはもう決まったことだと。

最終的には内閣府に押し切られたと私は思っています。

前川氏は官邸や文科省が「確認できない」とシラをきり通す文書の存在することを明言した。「あったものをなかったものにできない」と言う。

それにしても、この文書が出てきたことに驚くあまり、官邸は最初の対応に失敗したのではないだろうか。

文書の存在そのものを「怪文書だ」と切り捨て、全く認めようとしなかったため、その後も官邸、内閣府、文科省こぞってウソをつき続けなければならなくなった

前川氏は「いわば白を黒にするよういわれているようなもの。意に反することを言わされている状況が続いている」とかつての部下たちを気遣う。

そもそも、加計学園の獣医学部新設が国家戦略特区の事業として胸を張れるのであれば、「総理の意向」と記された文書が出てこようと、加計学園の理事長が総理の友達だろうと、オタオタして、隠ぺいする必要などまるでない。

国家戦略特区は総理がトップダウンの権限を持っているのだから、「総理の意向が強ければ実現するのはある意味当然だ。

加計学園にしかできない獣医教育が可能で、それが重要な国家戦略だというのなら、国民にそれを分かりやすく説明すればすむ話ではないか。それをしないで、隠したり、ごまかしたりするから疑惑が深まるのだ。

シラをきったあげくメディアに文書が出てきて、前川氏が出所と疑い、読売新聞に彼をおとしめるための、どうでもいい下ネタ記事を書かせるようリークするやりかたは、いかにも姑息というほかない

週刊現代6月10日号によると、朝日新聞が文科省の内部文書について第一報を出してすぐ、菅官房長官は内調を統括する内閣情報官、北村滋氏と、第二次安倍政権発足時に菅氏の官房長官秘書官をつとめた中村格警察庁組織犯罪対策部長に会った。そのさい菅氏は「朝日のネタ元は分かっている。マスコミと通じているなんて、看過できないよな」と二人に話したという。

これを受けて、彼らが出会い系バーの情報を流したのであろうという推測を同誌は書いているのだが、この件については前川氏自身が「在職時、杉田和博官房副長官から厳重注意された」と言っており、内調では既知の情報だったに違いない。

それにしても、要注意人物のスキャンダル情報をすぐに出せる監視行為が警察庁や内調で日常的に行われていることを思うと、一般市民にまで監視が及ぶ共謀罪法案が成立しそうな雲行きだけに、いっそう不安がつのる。

昔なら今回のような問題が起きると、自民党内で批判が強まり、派閥抗争に発展した。総理大臣のポストをめぐる力学が、緊張感を高めた。

いまの自民党には、安倍首相に反旗を翻すツワモノの姿がほとんど見当たらない。党は官邸に従属し、安倍首相の周りには関東軍の参謀のようにマッチョな側近が仁王立ちして敵を撃退していく。

もちろんそこに良心とか知性というものはなく、見る人が見ればわかるウソや強弁を繰り返し、強硬にコトを推し進めるだけである。問題は起きても、そのうち国民は忘れてくれるだろうと高をくくっているのだ。

それでも、国民はいまだ、安倍内閣に高い支持率を与え続けている。この、いじらしいまでの信頼度は、どこから生まれてくるのだろうか。

 

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記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。

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