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辻褄が合う。加計問題で「京産大」が締め出された不可解な理由

下げ止まりを見せない政権支持率から、ついに24日の閉会中審査に出席する道を選んだ安倍首相。14日には加計学園と同じく獣医学部新設を目指すも断念した京産大が会見を開き、官邸による圧力を否定しましたが、国民の納得を得られるまでには至っていません。これまで同学園の問題点を指摘し続けてきたメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんは、改めて「加計学園ありき」で進められたとしか思えない官邸・内閣府の巧妙な手口を紹介するとともに、今後予想される権力サイドの出方、そしてその行き着く先について私見を記しています。

加計問題で沈黙を破った京産大の無念

加計学園問題について沈黙を守っていた京都産業大学が、獣医学部新設を断念する方針を記者会見で明らかにした。

安倍首相は国家戦略特区で2校でも3校でも獣医学部をつくると豪語していたのに、京産大はなぜ早々と諦めるのだろうか。

獣医師がペットの病院など儲かる分野に偏在し、総数としては足りている現状からみて、加計学園の獣医学部ができれば、参入の余地はないと認識しているからなのか。

断念の理由を問われた黒坂光副学長はこう語った。

今年1月4日の告示で、平成30年4月の設置になり、準備期間が足りなかった。その後、加計学園が申請することとなり、2校目、3校目となると、獣医学部を持っている大学は少なく、教員も限られているので、国際水準の獣医学教育に足る十分な経験、質の高い教員を必要な人数確保するのは困難と判断した。

限りある獣医学教員の中から、加計学園が好条件でスカウト活動を進めており、教員不足による既存獣医学部の教育レベル低下が懸念されている。

確かに、獣医学部新設の目標を持つこと自体、現実的でないのかもしれない。だが、記者会見で語られたことが全てなのか。

いわゆる「加計ありき」によって不公平な扱いを受けたのではないか、意図的に排除されたと思わないかなどと、メディアから感想を求める質問が京産大にひっきりなしに押し寄せていたことだろう。

京産大は2010年に総合生命科学部を開設し、11人の獣医師の教員を採用。ライフサイエンス研究を中心に、2015年には「Natureへの論文掲載で私大ナンバー1となっている。

それだけに、同大学関係者の悔しさが想像される。その思いは「創薬に強いライフサイエンス系の獣医学部を作る構想は自負するところがある」という会見での発言にこもっていた。

「開設の時期が私たちには十分ではなかった」と、急に示された30年4月開校という条件を断念の理由として強調したのも、しっかりと提案の中身を見て欲しかったという気持ちの裏返し、かもしれない。

開設の時期が「京産大外し」につながった認識は? という質問に対しては、「それはありませんときっぱり否定した。

京産大のいわば大人の対応を、安倍官邸は幕引きをはかるのにプラス材料と見ているかもしれない。だが、国民に広がるモヤモヤはいっこうに晴れない。

疑惑の核心は、官邸、内閣府の後押しによって早くから準備を進めていた加計学園だけが間に合うよう、平成30年4月開学という時期を設定し、四国にしか獣医学部を新設できないような条件を加えて、京産大を閉め出したのではないかということだ。

京都府と京産大が昨年3月に獣医学部新設を提案し、国家戦略特区ワーキンググループのヒアリングを受けたのは同じ年の10月17日のことだった。

八田達夫座長はその席上、「非常に説得的な話だ」と、京産大のプランを評価した。

ところが、前川喜平・文科省前事務次官の証言によると、この年の10月中旬に和泉総理補佐官から呼び出しがあり、加計学園の獣医学部新設の手続きを早く進めるよう要請されたという。

和泉総理補佐官はそれ以前の同年9月上旬にも前川前次官を執務室に呼び「総理は自分の口からは言えないから私が代わって言うのだ」と、強い働きかけをしている。

つまり、京産大へのヒアリングが行われていたころには、すでに官邸における結論は出ていたということだ。

レールはその前年、2015年に敷かれた。

この年、愛媛県と今治市は国家戦略特区による獣医学部新設を内閣府に提案した。ワーキンググループのヒアリングを受けたのは同年6月5日と、12月10日の2回である。

6月5日の最初のヒアリング時点では、八田座長のシビアな発言が目立っていた。

今治ということの理由づけは何なのでしょうか。感染症対策の専門家が欲しいのであれば…待遇を改善するなり、全国どこの大学だろうと使える獣医奨学金というものをつくって、将来愛媛県庁に来たらチャラにしてあげますという仕組みをつくったほうがよほど簡単な気がするのです。

議事録を読む限り、ワーキンググループに政治的判断は働いていなかったようだ。むしろ、獣医学部を多大なコストをかけて新設しないでもコト足りるという空気すら感じられる。

しかし水面下で、官邸は加計学園の計画を進める動きをしていた。今治市の記録文書によると、2015年4月1日、同市の特区担当者は政府からの連絡を受け、その翌日、急きょ総理官邸に出向いている

4月2日といえば、今治市が提案する2か月前のこと。この段階で、今治市の担当者が官邸に招き入れられることはふつうありえない。獣医学部開学を前提とした暗黙の合意のようなものが首相周辺と今治市の間に形成されたとみるのが自然ではないだろうか。

今治市の動きに関し、日本獣医師会は新設反対を特区担当の石破茂・地方創生大臣(当時)に強く訴えた。

安倍首相肝入りの案件とはいえ、石破大臣のころは官邸もゴリ押しはできない。一定のハードルを設けないわけにはいかず、2015年6月30日に閣議決定された「日本再興戦略改定2015」で、「新設のための4条件」(石破4条件)が示された。

現在の提案主体による既存獣医師養成でない構想が具体化し▽ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき具体的需要が明らかになり、かつ、▽既存の大学・学部では対応困難な場合には、▽近年の獣医師需要動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う。

愛媛県と今治市はこの条件に沿った案文を作成し同年12月10日、ワーキンググループのヒアリングで、次のように追加提案した。

日本再興戦略に基づき、人獣共通感染症、食品安全対策の研究のみならず、行政の現場でも活躍できる、従来と異なる国際的な獣医師の養成を目指す獣医学部の新設を考えております。

実際には、再提案を待つまでもなく、内閣府と国家戦略特区の諮問会議、ワーキンググループの間ですでに、今治市を特区に指定し、加計学園の獣医学部を新設する方向で意思統一がはかられていた。

そのわずか5日後、12月15日の諮問会議で、広島県と今治市が国家戦略特区に指定されることがあっさり決まった。

実質的に会議を主導する有識者議員の竹中平蔵氏は喜びのこもったコメントを述べた。

今まで中国・四国に特区はなかったので今回新たに入るということは意味がある。とりわけ獣医学部を含むライフサイエンス系の問題にこの地域が取り組もうとしているところは、高く評価すべきだ。

加計孝太郎理事長と安倍総理が祝杯をあげている昭恵夫人撮影の写真はその年のクリスマスイブのものだ。

諮問会議の決定を受けて、翌2016年1月、広島県と今治市が特区に指定された。だが、まだ獣医学部の設置者が加計学園と決まったわけではない

3月になると、京都府から特区提案が出てきた。綾部市に京産大が獣医学部を新設するという計画。ライバルの出現である。

大学認可の権限は文科省にある。文科省は当然のことながら、獣医学部新設に関する石破4条件にこだわった。それは、閣議決定を重視する真っ当な姿勢だが、官邸、内閣府はそれが気に入らない。ご都合主義の内閣は、自己矛盾などおかまいなしだ。

6月に前川喜平氏が事務次官に就任した。安倍官邸にとっては思いのほか難物だった。

文科省財務課長だった小泉政権時代、「前川喜平の『奇兵隊、前へ!』」と題したブログで、三位一体改革により義務教育国庫負担金を減らそうとする官邸に反抗した異色の官僚である。

官邸、内閣府に焦りが生まれた。前川氏を説得しなければならない。特区担当の地方創生大臣も、石破茂氏ではやりにくい。

2016年8月、内閣改造で石破茂氏は地方創生大臣を外れた。すると、内閣府は今治市に指示して、平成30年4月開校をめざすスケジュール表を作成させた。

8月下旬、前川氏のもとを加計学園理事で内閣府参与の木曽功氏が訪ねてきた。「獣医学部をよろしく」という話だった。

前川氏は文芸春秋2017年7月号に掲載された手記にこう書いている。

昨年8月の内閣改造に伴って石破さんが大臣をお辞めになるまでは、この話は動いていません。振り返ってみれば内閣改造以降、物事がぐっとスピーディーに動いているのです。8月末の木曽さんの訪問、9月上旬の和泉さんの要請も軌を一にしているように見えます。

11月には加計学園が計画地でボーリング調査を実施した。すでに既定路線になっていたことは明らかだ。

今年1月4日、安倍総理と松野文科大臣の名のもとに、国家戦略特区における獣医学部の新設については、30年4月開学できる1校に限り「認可の基準第一条第四号」の規制を適用しないことが告示された。

「第一条第四号」とは、医師歯科医師獣医師船舶職員を養成する大学の新設を許可しないという決まりである。この規定の適用外とすることで、特区での獣医学部新設が特例的に認められたわけだ。

30年4月に開学できる獣医学部1校という条件は、そのつもりで準備を進めてきた加計学園のために設定したものであり、募集に応じることができたのは、加計学園1校のみだった。

さっそく加計学園は3月に設置認可を文科省に申請した。諮問を受けた大学設置・学校法人審議会は8月末までに審査し文科大臣に答申することになってい
る。

さぞかし文科省は悩ましいだろう。総理が「腹心の友」のために決めた獣医学部の新設。政府の一員として、設置認可を下ろさないわけにはいかない。しかしこれだけ社会的に問題になっている加計学園の獣医学部である。しかも前事務次官は「行政が歪められた」と言っている。

そんななか、審議会がいい加減だと思われるような審査をしてしまったら今後の信頼性が問題になってしまう。

一方、官邸は京産大の会見内容にひと息ついたかもしれない。京産大は自ら納得して降りたのであって、公平性への不満を持っていない、したがって大学の提案内容の比較は意味がない、と世間一般に吹聴するには好都合であろう。

友を大切にする安倍首相のこと、ここで加計学園の獣医学部新設を白紙にするという冷徹な手段はとれない。文科省の設置認可へ向けて、さらに睨みをきかせてくるに違いない。

だが、安倍首相は目下、内閣支持率が下げ止まらない恐怖のなかにいる。

権力者を自壊させるのは、私的な感情である。韓国の前大統領も、自分自身の情の囚われ人だった。

国民不在の「安倍仲良し王国」。その弊害は、ようやく広い世間に知られるところとなり、土台のあちこちが軋み始めている。

 

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記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。

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