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トランプが堕ちた無限地獄。北の挑発、人事混乱、止まらぬ暴言…

就任したばかりの広報部長がわずか10日で更迭されるなど、混迷を極めるホワイトハウスの人事。着々と捜査が進むロシアゲート疑惑、7月28日に米本土の大半を射程に収めるICBM発射実験に成功した北朝鮮への対応等々、山積する問題を前に混乱のトランプ政権はどのような政策を取るのでしょうか。メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』ではアメリカ在住で政治分野に精通する作家の冷泉彰彦さんが、様々な視点から「当面のトランプ政権の政策」を予測しています。

人事に揺れるホワイトハウス、どこへ行くトランプ政権

健保改革の「廃止と置き換え」に失敗したトランプ政権ですが、ここへ来てホワイトハウスの内部が動揺しています。まず、7月21日にアンソニー・スカラムッチ氏が「広報部長」に就任すると、その人事を忌避する格好で、新任部長の部下に当たるショーン・スパイサー報道官が辞任しました。

スパイサー氏というのは、元々共和党全国委員会(RNC)、つまり党の事務局で順調に出世してきた人でラインス・プリーバス氏、つまり元RNC委員長とのコンビでホワイトハウスに入ってきたわけです。

そのプリーバスは首席補佐官としてホワイトハウスの中枢に陣取っていたのですが、21日にやってきたスカラムッチ広報部長は、そのプリーバスへの攻撃を続けたのです。つまり「ホワイトハウスからのリークは彼のせい」「私はリークを一切認めない」という一連の攻撃です。

押しも押されぬ首席補佐官に対して、何とも異例な話ですが、どうやらプリーバスとスカルムッチの力関係は逆転していたようで、結局のところプリーバスは辞任に追い込まれました。

このプリーバスですが、2016年の春には共和党全国委員長として、「トランプ降ろし」の秘策をジェブ・ブッシュ、マルコ・ルビオなどと練っていたこともありますから、トランプと上手く行かなくなるのは時間の問題とは思っていました。つまり、根っからのトランプ支持者ではないからです。

ですが、いなくなってみると、このプリーバスと言う人物は、共和党の議員団とのパイプ役ではあったのは事実です。ということは、これからホワイトハウスは一体どうして行くのか、大変に不安という声も起きています。身内には共和党とのパイプ役がいなくなり、議会ではマケイン議員に厳しく批判されというわけです。

それはともかく、一方で、スカラムッチ広報部長は、プリーバスとは水と油であったというスチーブ・バノンについても全く別の容赦のない批判を浴びせています。その言い方については、多くのメディアが「伏せ字」扱いをしていますが、文化の違う英国のガーディアンにはそのものズバリがあります。

Scaramucci in furious, foul-mouthed attack on White House rivals

まあ、確かにそうだとしか言いようがないのですが、それにしても徹底的に突き放した言い方で、これはバノンとの間にも相当な確執があることを示唆しています。

その一方で、首席補佐官の後任にはジョン・F・ケリー国土保安長官が横滑りしてきました。このケリーという人は、海兵隊の叩き上げで、反テロ戦争の現場で戦ってきた人物ですから、何でも実務的に判断するタイプと思われます。

この時点では、2つの問題が浮かび上がっていました。まず、強面の実務派であるケリーと、ペラペラ喋るスカラムッチは、上手くいくのかという問題が一つ、そしてスカラムッチが、バノンをあそこまで罵倒した以上、両者の確執は一体どうなるのかという問題が生じます。

ところが、そこへ意外なニュースが飛び込んできました。何と、21日に就任して以来、11日という短い在任期間でスカラムッチは解任された」というのです。7月31日午後(東部時間)のことです。

では、そのような混乱の中で、当面のトランプ政権の政策はどうなるでしょうか?

1つは、本当にケリーがホワイトハウスを掌握できるのかという問題です。例えば補佐官の中にはクシュナー夫妻(イヴァンカとジャレッド)がいるわけですが、発表によれば両名もケリーにレポートする、つまりケリーの部下ということになります。つまり、以降イヴァンカとジャレッドは、ケリーを飛び越して大統領と勝手に物事を決めるのはダメというわけですが、ケリーが就任に当たってこの点を警戒したということ自体が、既にケリーがこの両人をコントロールできていないということになるわけで、漠然とした不安は残ります。

スカラムッチ解任を受けて会見したセラ・ハッカビー・サンダース広報官(スパイサーの辞任に伴って副報道官から昇格)は、ケリー新首席補佐官は、厳格なマネジメントでホワイトハウスに秩序を確立するだろうと言っていましたが、本当に組織としてキチンと動けるのか、まだ良くわからないのです。

2つ目に当面の政治課題ですが、健保改革は当分無理になったので、今度は税制改正、つまり富裕層と法人向けの大減税を中心とした制度改革に向かうでしょう。ですが、景気が若干弱含みである中で、政策として無謀としか言いようがないわけで、現行案が通る可能性は少ないでしょう。

3つめにスチーブ・バノンですが、彼は彼なりの目標(経済ナショナリズムの実現など)を持っているために、簡単には権力を手放すことはしないと思われます。ただ、スカラムッチと比べて、ケリーはもっと老獪であるのなら、ある意味で「忘れられた白人層の怨念」を代表しているバノンを利用しこそすれ、除去は考えないのではないかと思われます。

4つ目として、トランプの放言はここへ来て度を越してきています。「軍隊からトランスジェンダーを追放する」という発言は軍に事実上否定され、「警察は被疑者の取り調べでもっと締め上げていい」という発言には、全国の警察の現場から「怒りの反発」が出てきています。ですが、問題は怒りを買っているということではなく、「発言と政策のずれ込み」が決定的に拡大している、つまり、誰も大統領の言うことは信じないという状態に近いわけで、これは深刻な状況です。この辺をケリーが抑えられるのかは、大きな課題です。

5つ目に「ロシア疑惑」ですが、ここ数週間、報道としては沈静化しています。ですが、ミュラー特別検察官の捜査は確実に進展しています。そんな中で、新任のケリー首席補佐官は「コミー前FBI長官を解任したのは誤り」だとして、かなり強く怒っていたという報道が出ています。仮に真実であれば、興味深い話です。

6つ目に、ここへ来て緊迫化している北朝鮮情勢ですが、当面はアメリカの強硬策はないでしょう。まず、中国が次期共産党常務委員の人事大詰めという段階で、妙な動きをすれば習近平の顔を潰すことになりますが、そんなことはトランプはしないと思います。また、政権中枢の権力を掌握したと見られる首席補佐官のケリーは海兵隊の出身です。海兵隊というのは、1950年の朝鮮戦争で無謀な北伐を強いられた中で、悲惨な撤退戦を戦った記憶を持つ組織です。軽々に強硬策に同意するとは思えません。31日(月)には、トランプ=安倍の電話会談があったようですが、ここでも強硬策は自制ということが確認されていると思われます。

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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