言葉を尽くして説明・説得したというのに、「それでは持ち帰って検討してみます」と言われてそのまま話が流れてしまった…などという苦い経験をされたことのある方も多数いらっしゃることでしょう。今回の無料メルマガ『弁護士谷原誠の【仕事の流儀】』では著者で現役弁護士の谷原さんが、先方に結論を先延ばしさせないための「交渉術」を記しています。
交渉の権限はどこまでか?
こんにちは。
弁護士の谷原誠です。
今回は、交渉における決定権限についてお話します。
交渉の場で、頻繁に使われる「常套句」といえるものがあります。よく使われる言葉は、使われるだけの理由があります。うまく使うことで、高い効果を生むことができます。また、自分が使う場合だけではなく、相手が使った際も、なぜそう言ったのか、状況を正確に理解したいところです。
今回紹介する言葉が「一旦持ち帰って検討します」「上に確認してみます」です。皆さんも、取引先で、あるいは営業の場で、使ったことがあるかもしれません。この言葉は弁護士もよく使います。代理人として交渉等をしている際「その件は、依頼者に確認し、改めて返答します」といって話を持ち帰ることがよくあります。
では、この言葉はどのような時に発せられ、どのように使えばよいのでしょうか。
この言葉を使う理由として、まず自分に相手の提案や申し出について決定する権限がなく、権限のある人に確認する必要がある場合があります。会社同士の交渉を担当している人が、決定権限を与えられていない提案等をされた場合、その場ではイエス・ノーがいえませんので、いったん、社に持ち帰るしかなくなります。その時に「一旦持ち帰ります」「上に確認します」という言葉が出ます。
しかし、この言葉が使われるとき、実は交渉人に権限があることもあります。即答しない方が望ましい、と考えた時に、イエス・ノーを回答できるにもかかわらず、「一度持ち帰って確認します」と、回答を留保するのです。
このオプションについては、一つ注意したいことがあります。それは、全ての決定権限のある人が交渉に行くときには、使えなくなる可能性がある、ということです。たとえば労働組合の団体交渉(団交)を受けるときのコツの一つとしてよく「社長が直接交渉の場に行ってはいけない」といわれます。総務部長などの肩書の人が会社側として臨むことが多いようです。
これは常套句である「一旦持ち帰り、上に聞いてみます」というオプションを確保するため。仮に社長が「ちょっと会社に帰って検討します」といっても「自分で決められるでしょう、ここで返事をしてください」と迫られることになってしまいます。
完全な決定権限がある人が交渉に望んだ方が話が早く、スピーディーな意志決定ができることは確かなので、ケースバイケースですが、その場で結論を出したくない要求をされることが想定される場合は、このオプションを確保しておきたいところです。
最後に、このセリフを言われたときの対処法についても簡単に説明します。この場で結論を出してもらいたい要求に「一旦持ち帰ります」と返されたときは、限定をつけるのが有効です。
つまり、「今決めるならこの条件でよいのですが、持ち帰るならいったん白紙にさせてください」といった言葉です。もし相手が、実はその条件を飲むことができる場合「今だけ」という限定をつけると、持ち帰るわけにはいかなくなります。
「一旦持ち帰ります」「上に確認します」は便利な言葉です。上手に使い、また使われた際も最適な対処ができるようにしましょう。
今回は、ここまでです。
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