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繰り返される「遺憾の意」。安倍政権の北朝鮮政策は、正しいのか?

度重なる北朝鮮の挑発行為に対して、日本政府は相も変わらず「遺憾だ」「抗議する」と言うばかり。ノロノロした対応にしびれを切らしている方も多いのではないでしょうか。しかし、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係研究者の北野幸伯さんは、「この対応は国際法に則ったものあり、北朝鮮を追い込む一番の近道である」との見方を示しています。

安倍政権の北朝鮮政策は、正しいのか?

皆さんご存知のように、北朝鮮は、8月29日、北海道上空を通過する弾道ミサイルを発射した。9月3日、核実験を行った。

その後の流れは、いつもと同じ。日本政府高官は、「許しがたい! 断じて抗議する!」と言う。でも、何の効果もなし。その後、国連安保理が招集され、非難する。何の効果もなし。制裁が話し合われて、大抵は中国とロシアが反対。それでも、徐々に強化されている。しかし、北の態度は、変わるどころか、ますますアグレッシブになっている。こういう現状を見て、不満を抱いている人も多いのではないでしょうか?

とはいえ、この「遅々とした歩み」が、実は「最善の道」なのです。なぜ?

国連安保理の欠点

全世界のほとんどの国が加盟している国連。国連の中で、「強制力」をともなう決定が下せるのは、安保理だけです。

しかし、欠点がある。国連安保理には、「拒否権をもつ常任理事国がいる。アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国。これらの国が悪いことをしても、国連安保理は、制裁できない(悪いことをした国自体が、必ず拒否権を行使するため)。

大国は、国連安保理を無視できるか?

それで、リアリストたちは普通、「国連なんて意味ないね!」と言います。一理ある。

ところが、どうも「国連安保理」を無視すると、影響が甚大みたいなのです。そのいい例が、アメリカのイラク攻撃です。アメリカは、「フセインのイラクには大量破壊兵器がある!」と主張して攻撃を開始。この時、国連安保理を無視して始めた。なぜ?

常任理事国のフランス、ロシア、中国が、イラク攻撃に反対していたから。そして、この件では、仏ロ中が正しかった。というのも、結局イラクには大量破壊兵器が存在していなかった」から。この戦争、今となっては、「完全に失敗だった」と結論が出ています。

当時から、たとえばジョージ・ソロスが、戦争に反対していた。あるいは、リアリズムの大家ミアシャイマーさんも反対。世界最高の戦略家ルトワックさんは、イラク戦争について、「日本の真珠湾攻撃に匹敵する大失敗」と断言しています。

アメリカは、このバカげた戦争でいろいろなものを失いました。一番大きいのは、「アメリカは正義の味方という宗教を崩壊させたことでしょう。「アメリカは、自由と民主主義を守る正義の味方だ!」。これは、移民国家・多民族国家・多宗教国家アメリカを一つにまとめる「宗教」です。ところが、アメリカは国際法に違反し、イチャモンをつけて戦争を開始したことで、「正義の味方をやめる結果になったのです。

その後、アメリカはより慎重になり、以前よりも国連安保理を重視するようになった。しかし、「時すでに遅し」ですね。「正義」と「大義」を失ったアメリカは、急速に力を失っていきます

なぜ、日米の「対北朝鮮政策」は正しいのか?

北朝鮮が、弾道ミサイルをぶっ放した。あるいは、核実験した。総理は、「断固として抗議する!」という。効果なし。安保理も、非難する声明を出す。効果なし。制裁を強化する。北の行動は、変わらず。それで、大部分の人が、日本政府の対応や安保理に不満を持っていると思います。しかし、安倍総理は、正しいやり方で進んでいるのです。

総理は、北に抗議し、安保理を招集し、非難し、制裁を強化していく。これは、まさに「国際法に則った方法」で、誰からも文句を言われません。結果、中国、ロシアも北を守れなくなっていき、徐々に制裁が強化されている。

たとえば、北は7月、ICBM実験を2度実施した。それで8月5日、安保理は、新たな制裁を課すことにしました。北は、主な外貨獲得源である、石炭、鉄を輸出できなくなった。そして、8月29日の弾道ミサイル、9月3日の核実験。これを受けて、日米は、「北朝鮮への石油輸出を禁止する」制裁を課そうと画策しています。中国、ロシアが抵抗するので、どうなるかわかりません。しかし、たとえ今回はダメでも、北が挑発を続ければ中ロも最終的には反対できなくなるに違いありません。なぜか? 北を守ることで中国ロシアの評判が失墜していくからです。

「制裁を強化しても、中国はこっそり支援し続けるのでは?」という意見もあるでしょう。そのとおりです。しかし、中国が制裁で禁止されたことをやれば、アメリカには、「中国を制裁する口実」ができます(安保理で中国制裁はできないので、アメリカの独自制裁)。

北朝鮮は、「世界の孤児」

亀さんのようにノロノロした歩みでも、少しずつ情勢が動いている例を挙げましょう。毎日新聞9月5日。

緊急会合は、日米韓英仏が要請した。英仏が要請に加わるのは異例。

日本の別所浩郎国連大使も「時間を無駄にはできない」と話し、安保理が一致して最大限の圧力をかけるため、新しい制裁決議案を採択するよう求めた。英仏両国の大使も決議案の採択を主張した。

これは、何でしょう? イギリスとフランスは今まで、「北朝鮮核問題? 遠いからあまり関係ありません」という態度だった。ところが、いよいよ「関与せざるを得ないよね」というムードになってきた。

そういえば8月29日、私はベラルーシの知人からメールをもらいました。

弾道ミサイル発射のニュースを見ました。日本に同情します。日本は隣国に恵まれていないですね。日本の皆さんの安全を祈ります。

ベラルーシは、「欧州最後の独裁者」とよばれるルカシェンコさんが統治する国。そんなベラルーシでも、「北朝鮮は、なんという悪い国だ!」となっている。そう、北は、まさに「世界の孤児になっているのです。

国際世論は、日米の側にある。将来戦争になるにしても国連安保理を通して行けるとこまで行くことがとても大切です。戦争になった時、全世界が「悪いのは北、日米は、できるかぎりの努力をした」と納得するほどに。そうなれば、中国、ロシアも、露骨に北朝鮮支援をできなくなるでしょう。

たとえば、中国が北を露骨に守ったとします。そのとき、欧州が日米側につき、日欧米で中国に強力な経済制裁を課すことにした。すると、中国経済は崩壊してしまうでしょう。1950年からの朝鮮戦争で、中国は北を守りました。そのとき、中国には、「崩壊させるだけの経済」がなかった。しかし、今の中国は違います。GDP世界2位。経済が崩壊すれば、共産党一党独裁体制も崩れることでしょう。

習近平はやがて、北朝鮮を見捨てるか北を守って自国を崩壊させるかの選択を迫られることになります。

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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