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国連演説で北朝鮮問題を「世界の問題」にした安倍総理の実力

先日、国連で演説をした安倍総理。総理は「ただ一点北朝鮮問題を語る」とした上で、この問題は「全世界対北朝鮮である」ということを力説しました。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係研究者の北野幸伯さんは総理の演説を「大成功」と絶賛し、その理由を詳述しています。

なぜ、安倍総理の国連演説は、「大成功」といえるのか?

皆さんご存知と思いますが、安倍総理は9月20日、国連で演説しました。何を話したのでしょうか? 結果は、どうだったのでしょうか?

安倍総理は、こんなこと話したかった、あんなこと話したかった、といいながら、結局テーマを一つに絞ります。

私の討論をただ一点、北朝鮮に関して集中せざるを得ません。
(安倍総理の国連演説 2017年9月20日より)

「北朝鮮の話だけしますよ!」宣言です。そして総理は、「北朝鮮問題の現状」を語りはじめます。

9月3日、北朝鮮は核実験を強行した。それが水爆の爆発だったかはともかく、規模は前例をはるかに上回った。

 

前後し、8月29日、次いで、北朝鮮を制裁するため安保理が通した「決議2375」のインクも乾かぬうち、9月15日に北朝鮮はミサイルを発射した。いずれも日本上空を通過させ、航続距離を見せつけるものだった。

脅威はかつてなく重大です。眼前に差し迫ったものです。

脅威はかつてなく重大
眼前に差し迫ったもの

まさしくその通りですね。

不拡散体制は、その史上最も確信的な破壊者によって深刻な打撃を受けようとしている。

不拡散体制」を出したのは、立派です。なぜか? 「北朝鮮問題」は、「日米韓と北朝鮮だけの問題ではない」ということです。なぜ? 「核兵器の拡散」を恐れた人類は、「核拡散防止条約」(NPT)をつくり、核兵器の開発保有を制限しました。NPTは、アメリカ、イギリス、フランス、ソ連(後ロシア)、中国だけ、「核兵器の保有を許される」。「その他の国々の保有は許されない」という、極めて不平等な条約です。それでも、なんやかんやと、核の拡散を抑制することに成功してきました(とはいえ、イスラエル、インド、パキスタンは、NPT未加盟で核を保有している。北朝鮮は、93年にNPTを脱退し、核兵器開発を実現した)。

まあ、いろいろと論理的に思考すれば、「NPTって機能していないよね」と思えるでしょう。その議論は、置いておきましょう。ここでは、総理が、「不拡散体制」を演説に入れることで、「北朝鮮は世界秩序の脅威である!!」というロジックにしたことが重要です。

北朝鮮との対話は無意味

北朝鮮問題は、本当に深刻な問題です。なぜ解決できないのか? 一番の問題は、北を「緩衝国家」とみている中国とロシアが守っているからでしょう。中ロは、「対話しなさい」「対話しなさい」と主張します。しかし、安倍総理は、そんな中ロの主張に反論します。

これをもたらしたのは「対話」の不足では断じてありません。

北が今のようになったのは、「対話の不足」が原因ではないと。安倍総理の考えでは、「対話は十分したが北にダマされた」と。

94年10月、米朝に、いわゆる核合意が成立します。核計画を北朝鮮に断念させる。その代わりわれわれは、北朝鮮にインセンティブを与えることにした。日米韓は、そのため、翌年の3月、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)をこしらえる。これを実施主体として、北朝鮮に軽水炉を2基つくって渡し、また、エネルギー需要のつなぎとして、年間50万トンの重油を与える約束をしたのです。これは順次、実行されました。

 

ところが、時を経るうち、北朝鮮はウラン濃縮を次々と続けていたことが分かります。核を捨てる意思など、もともと北朝鮮にはなかった。それが誰の目にも明らかになりました。発足7年後の2002年以降、KEDOは活動を停止します。

「だまされた例1」です。

2002年、2度目の危機が生じた。懸案はまたしても、北朝鮮がウラン濃縮を続けていたこと。そしてわれわれは、再び、対話による事態打開の道を選びます。KEDO創設メンバーだった日米韓3国に、北朝鮮と中国、ロシアを加えた6カ国協議が始まります。03年8月でした。

 

その後、2年、曲折の後、05年の夏から秋にかけ、6者は一度合意に達し、声明を出すに至ります。北朝鮮は、全ての核兵器、既存の核計画を放棄することと、核拡散防止条約(NPT)と、IAEAの保障措置に復帰することを約束した。

 

そのさらに2年後、07年の2月、共同声明の実施に向け、6者がそれぞれ何をすべきかに関し、合意がまとまります。

今度こそ粘り強く対話を続けたことが、北朝鮮に、行動を改めさせた、そう思わせました。実際はどうだったか。6カ国協議のかたわら、北朝鮮は05年2月、「われわれは、既に核保有国だ」と、一方的に宣言した。さらに06年の10月、第1回の核実験を、公然、実施した。2度目の核実験は09年。結局北朝鮮はこの年、「再び絶対に参加しない」と述べた上、8カ国協議からの脱退を表明します。しかもこのころには弾道ミサイルの発射を繰り返し行うようになっていた。

「だまされた例2」。決定的ですね。

議長、同僚の皆さま、国際社会は北朝鮮に対し、1994年からの十有余年、最初は「枠組み合意」、次には「6カ国協議」によりながら、辛抱強く、対話の努力を続けたのであります。しかし、われわれが思い知ったのは、対話が続いた間、北朝鮮は核、ミサイルの開発を諦めるつもりなど、まるで持ち合わせていなかったということであります。対話とは、北朝鮮にとって、われわれを欺き、時間を稼ぐため、むしろ最良の手段だった。

まさしく「その通り」です。

何よりそれを次の事実が証明します。すなわち94年、北朝鮮に核兵器はなく、弾道ミサイルの技術も成熟にほど遠かった。それが今、水爆とICBMを手に入れようとしているのです。対話による問題解決の試みは、一再ならず、無に帰した。何の成算あって、われわれは三度、同じ過ちを繰り返そうというのでしょう。

対話は意味がない」と。では、総理は、「どうすればいい」と考えているのでしょうか?

国際社会の圧力による解決

北朝鮮に全ての核・弾道ミサイル計画を、完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法で放棄させなくてはなりません。そのため必要なのは、対話ではない。圧力なのです。

核、ミサイルを放棄させるためには、「対話」ではなく「圧力が必要だと。

この後、安倍総理は、横田めぐみさんの話をされました。演説の流れからみると、少し「唐突感」はありましたが、北の「異常性」と「残虐性」を強調する意義は大いにあったでしょう。

北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対し、日本は日米同盟によって、また、日米韓3国の結束によって立ち向かいます。「全ての選択肢はテーブルの上にある」とする米国の立場を一貫して支持します。その上で私は、北朝鮮に対し厳しい制裁を科す安保理決議2375号が、9月11日、安保理の全会一致で採択されたのを多とするものです。

安倍総理は、「アメリカの立場を一貫して支持する」と宣言しました。そして、9月11日の新制裁決議を評価しました。

しかし、あえて訴えます。北朝鮮は既に、ミサイルを発射して、決議を無視してみせました。決議はあくまで、始まりにすぎません。核・ミサイルの開発に必要な、モノ、カネ、ヒト、技術が、北朝鮮に向かうのを阻む。北朝鮮に累次の決議を完全に履行させる。全ての加盟国による一連の安保理決議の、厳格かつ全面的な履行を確保する。

 

必要なのは行動です。北朝鮮による挑発を止めることができるかどうかは、国際社会の連帯にかかっている。

「北朝鮮による挑発を止めることができるかどうかは、国際社会の連帯にかかっている」。

そうです。総理は、この問題を、「日米韓 対 北朝鮮」という構図にせず、「全世界 対 北朝鮮」 にしたのです。

80年前の1937年は、日中戦争がはじまった年です。日本は、満州国問題で国際連盟を脱退し、世界的に孤立していました。それで、中国は、アメリカ、イギリス、ソ連から支援を受け、日本と戦っていた。当時の日本には、「孤立=破滅と考える総理はいなかったのでしょう。

しかし今、安倍総理は、孤立を慎重に避け、世界を味方につけて北に対峙しています。前々から書いていますが、「北問題で日本は正しい道を進んでいるのです。

安倍演説が「大成功」の理由

北朝鮮問題に関しては、「二つの立場」があります。一つは、日米の立場。国連安保理で制裁を強化することで、北から妥協を引き出す。安倍さんの「圧力」ですね。

もう一つは、中国ロシアの対話」です。「平和を希求する日本人」は、「対話」が好きです(私も、「対話で解決できるなら、対話で解決した方がいい」と思います)。しかし、中ロが対話」を要求するのは、「緩衝国家」北朝鮮を守りたいからなのです(つまり、国益)。

この「基本構図」を知ったうえで、安倍総理の演説を見てみましょう。これまで見たきたように、安倍総理は、

  1. 対話が無駄であることを、北問題の歴史を挙げ、説得力をもって解説した。
  2. 結果、国連安保理を通した「圧力強化」を求める日米の主張が力を増し、「対話」を求める中ロの主張が打撃を受けた。
  3. この問題は、「日米韓 対 北」というローカルな問題ではなく、「世界 対 北 の問題なのだ」という構図をつくりだした。

というわけで、安倍総理の国連演説は大成功だった」といえるでしょう。

「消費税引き上げ」「残業代ゼロ」「3K外国人労働者大量受け入れ」など、いろいろ問題もありますが、「外交」「安全保障で総理の右に出る人はいまのところいません

image by: 首相官邸

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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