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強すぎる女帝。なぜ、メルケル首相は12年もトップに立てるのか?

衆議院が解散され様々な動きが加速する我が国ですが、先ごろ総選挙が行われたドイツではメルケル政権が4期目を迎えることが決定しました。メルケル首相の強さの秘密はどこにあるのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係研究者の北野幸伯さんが様々な側面から分析・解説しています。

安倍さんに教えたい、メルケル首相「強さの秘密」

ドイツで9月24日、総選挙が実施されました。結果は???

独総選挙、メルケル首相4期目へ 国家主義政党が議席獲得

BBC News9/25(月)11:58配信

 

ドイツで24日、総選挙が実施され、アンゲラ・メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が第1党となるのが確実な情勢となった。これによりメルケル首相は政権4期目に入る見通し。

すごいですね~、メルケルさん。4期目です。2005年からずっと首相をされています。この人ほど、評価のわかれる人もいないですね。人気はありますが、批判も多い。

フランスの人口学者で、「予言者」と呼ばれるエマニュエル・トッドさん。今のEUは「ドイツ帝国だ!」と批判しています。佐藤優さんは「CIAからすると、メルケルは、共産主義者で、『加入戦術』をやっているようにも見える」と書いています(『大世界史~現代を生きぬく最強の教科書』p122)。

私は2015年、メルケルさんが100万人の難民を受け入れたとき、「こりゃ、ダメだ」と思った(トランプさんも、同じように考えたそうです)。というのは、難民の中には、ISメンバーが大量に含まれている。実際、欧州でISテロが頻発している。

今回の選挙では、「反移民、反難民」を掲げる「ドイツのための選択肢」(AfD)が第3党になりました。それでも、「メルケルもうダメじゃん」にはほど遠いですね。なんといっても、4期目に入るのですから。

今回は、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記事を基に、「メルケル強さの秘密」を考えてみましょう。

メルケル、強さの秘密は、「変わり身の速さ」

WSJ9月22日付から引用します。

【ベルリン】ドイツ連邦議会選でアンゲラ・メルケル首相から政権奪取を狙う社会民主党(SPD)のマルティン・シュルツ党首は今年6月のSPD党大会で喝采を浴びた。選挙運動の中核である公約の発表に際し、同党首は「われわれは次期政権で、『婚姻上の平等(同性婚の合法化)』を実現するつもりだ!」と宣言したからだ。だがその翌日、メルケル氏は同性婚の議会採決に反対する長年の立場を引っ込めた。SPDが選挙運動で相手を攻撃する際の「材料」を奪ってみせたのだ。メルケル氏が12年間にわたって政権を維持しているのは、ある種の計算された政治的変わり身のおかげだ。

ライバルが、「同性愛者の結婚を認める!」と宣言した。メルケルさんは、それまで「同性愛者の結婚」に反対していた。ところが、反対するのをやめた。それで、WSJの結論は、

メルケル氏が12年間にわたって政権を維持しているのは、ある種の計算された政治的変わり身のおかげだ。同氏は自身の保守政党であるキリスト教民主同盟(CDU)の主義主張から一般市民のムードが離反したとみるや、立場を繰り返し──ときには唐突に──変えてきた。

 

このように変化する戦略が同氏の政治的な受け皿を広げ、その結果、反対勢力にとってみれば、同氏に対して使える攻撃材料が少なくなってしまうのだ。

(同上)

一般市民のムードがCDUの主張から離れると、メルケルさんは、立場を変える。日本でいえば、たとえば、安倍総理が「憲法改正の期は熟した!」と宣言した(とします)。ところが、庶民は、シラケている。野党は、「憲法改正絶対反対!」を叫び、力を伸ばしてきた。

そんなとき、メルケルさんだったら、「憲法改正の期は、熟していないようだ」と変心する。すると、野党は、「憲法改正反対!」で選挙を戦えなくなりますね(以上、「たとえ話」です)。メルケルさんは、こういうことをすると。

メルケル氏は、右派と左派の間にあった過去の分裂を戦略的に無視してきた。それによって、自らの政治的支配の範囲を拡大し、ライバルを周辺に追いやってきた。

 

同氏はこれまで、「変化する自らの立場」を売り物にしてきた。それは同氏の支持者たちが言う「独善をよしとしない姿勢」であり、この不確実な世界においてドイツがまさに必要とする姿勢である。
(同上)

「右派と左派の分裂を無視する」
「変化する自らの立場を売り物にする」
「独善をよしとしない姿勢」

だそうです。これって、別の言葉で、「軸がない」「節操がない」「信念がない」「誠実でない」などともいえますね。しかし、逆に「独善的でない」「柔軟性がある」「国民の声に耳を傾ける」「民主的だ」ともいえます。

コンセンサスを重視するドイツの統治システムにおいて、「変わり身が早い」ことへの批判はそれほどトゲを持つものではない。メルケル氏は、徴兵制、原子力発電、難民、そして最近では同性婚問題で立場を転換あるいは修正するなど、時に劇的な政治的シフトを断行してきた。だが、それは入念な分析の産物であり、社会的変化の反映でもあるとして売り込むことができた。この戦略シフトの結果、メルケル氏は左派寄りの有権者から支持を取り付ける一方、右派寄りの有権者の支持をも堅持してきた。一部の争点で見解が一致していなくても大目に見ようとする人々を取り込めたのだ。

戦略シフトで、保守の支持を維持しながらリベラル有権者も味方につけていると。日本でいえば、保守は安倍総理の味方でしょう。これを基盤に、「左」に勢力を伸ばしていく。たとえば、

などなど。

またメルケル氏の飾らない個性は、カリスマ的人物に疑い深い感情を長く抱き続けているドイツ人の共感を呼んでいる。ツイートせず、壮大な約束をするわけでもなく、演説で聴衆を鼓舞することもない。スーパーマーケットで買い物をし、自ら料理もし、週末には田舎のコテージで過ごす。以前、自分がドイツ人だと感じるのはどんなところかと質問された時、メルケル氏はこう答えた。「ポテトスープが大好きなところだ」と。
(同上)

庶民的であることが、メルケルさんの強さなのですね。しかもメルケルさんの場合、「庶民」を「演じている」感じがしません。本当に、そういう人なのでしょう。

誤解がないように書いておきますが、私は「メルケルさんがドイツの首相でいつづけることは、いいことだ」とはいいません。イスラム移民、難民の入れすぎで、欧州キリスト教文明は、将来滅びる可能性がある。そうなれば、メルケルさんの決断は「歴史的失敗」といわれることでしょう。また、彼女が「あまりにも親中」なのも、とても気になります。それでも、彼女が長期安定政権をつくった理由を知ることは、私たちの役にたつことでしょう。

image by: 首相官邸

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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