先日、富裕層の申告漏れのデータを公にした国税局。しかし、大人気メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の著者で元国税調査官の大村さんは「うちも富裕層の脱税阻止のために頑張っているんです」という国税局のアピールに過ぎないとバッサリ。内部にいた人間だからこそ知る富裕層の税金逃れの実態と、古い体質から脱却しようとしない国税局の体質について衝撃的な事実を明かしています。
富裕層の申告漏れ記事のデタラメさ
10月31日のネット配信記事で次のようなものがありました。
富裕層の申告漏れ441億円=目立つ海外取引利用─国税庁
全国の国税局が今年6月までの1年間に実施した所得税の税務調査で、富裕層の申告漏れが総額441億円に上ったことが31日、国税庁のまとめで分かった。申告漏れは富裕層対象の調査4188件の8割に当たる3406件で見つかり、追徴税額は127億円に上った。
1件当たりの申告漏れ額は、調査全体の平均が918万円だったのに対し、富裕層は1054万円と大きな差はなかったが、富裕層で海外取引を利用したケースでは2576万円と高額だった。
1件当たりの申告漏れ額を業種別で見ると、風俗業(2083万円)が最も多く、次いでキャバクラ(1667万円)、プログラマー(1178万円)と続いた。
(2017年10月31日 時事通信)
これは国税庁恒例の課税漏れデータ発表です。
通常は、富裕層に絞ったデータなどは発表しないのですが、昨今、富裕層に対する不公平感が高まっているので、あえてこういうデータを発表したのでしょう。
国税庁としては、「うちも富裕層の脱税阻止のために頑張っているんです」というアピールなわけです。
が、これは、少しでも税金のことを知っている人がみたら、「こんなバカなことはあるか!」という感じのデータです。
富裕層の追徴税額がわずか127億円などというのです。税務のことを知っている身としては、桁が二つ以上違うだろう!という話です。
ここで発表されたデータというのは、所得税に関するものです。つまりは、年間の収入に対する税務調査のデータ報告というわけです。
これを見ると、国税庁は富裕層の収入を調査するにあたって、「日本国内でのビジネス」を中心に行っているわけです。だから、課税漏れ割合の上位に風俗業経営やキャバクラ経営、プログラマーなどがでてきているわけです。
しかし現在の富裕層が隠している収入というのは、「海外での資産活用収入」が中心なはずです。だから、富裕層の所得税の課税漏れを調査しようと思えば、「海外での収入」に焦点を当てなければ、どうしようもないわけです。
日本の富裕層が海外を使って税金を逃れているだろう、ということは、他のデータで明確に表れているのです。
現在、日本では、5000万円以上の海外資産を持っている人は申告をしなければならない義務があります。金融資産だけじゃなく、不動産資産などもすべて含めて5000万円以上あれば、申告しなければならないのです。
しかし、この申告をしている人は、現在のところわずか8000人しかいないのです。
2016年末の世界的金融機関のクレディ・スイスの発表によると、日本には100万ドル以上の資産を持ついわゆる「ミリオネア」が286万人いるとされ、その中には海外に資産を移している人もかなりいると見られます。
海外資産の申請者8000人というのは0.3%以下であり、あまりに少なすぎます。
これはどういうことでしょうか?
資産をこっそり海外に持ち出し、海外で運用している人が相当数いるのではないか、ということです。おそらく、申請者の数十倍、数百倍はいると思われます。
また昨今、話題になっているタックスヘイブンという税金が非常に安く、資産に関して高い機密性を採っている地域があります。主なところに、ケイマン諸島、ヴァージン諸島、香港、シンガポール、ルクセンブルグ、パナマなどがあります。
現在、世界中の大企業や富裕層は、法の抜け穴を衝いて、このタックスヘイブンを利用しています。
日本の富裕層も、かなりの人々がこれを利用していると見られています。
国際決済銀行(BIS)の発表によると、2015年の時点で、ケイマン諸島には日本の金が約63兆円も投じられているのです。63兆円というと国税収入を越えるような金額です。
この63兆円に対し、国税庁が発表した追徴税額127億円というのは、わずか0.03%に過ぎないのです。
「もう、まったく国税庁は何をしているんだ!」と思うのは私だけではないはずです。
国内ビジネスをネチネチ調べて、わずかな追徴税を取ってくる暇があったら、もっと海外調査の態勢を充実させ、大掛かりな海外調査をやらんいかい!
何十年前と同じような税務調査をいつまでもチンタラやってんじゃねえぞ!
なんのためにおめえらに高い給料払ってんだ!
おっと、思わず冷静さを失ってしまい、申し訳ありません。
国税出身の筆者は、国税という組織が海外取引に弱いということを身に染みて知っております。現在、税務署の職員の大半は大卒ですが、英語をきちんと話せる人は10人に1人もいないでしょう。民間の大企業などに比べればはるかに遅れているのです。
それに対して、国税はほとんど有効な手を打ってきていません。
国税という組織は、未だに国内取引を監視することが業務のほとんどを占めており、海外取引に割いている人員は、ごくわずかなのです。
時代遅れも甚だしいのです。
「国税ももっと海外に目を向けるべき」
と言われ始めてから、もう30年も経つのです。そして、国税は30年前とほとんど変わっていないのです。
マジで、非常に腹が立ったニュースでした。
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