12月6日、自動車工場の集会に参加したプーチン大統領は、大統領選への立候補を表明しました。今回も当選となれば、2024年まで大統領職を務めることになります。ロシア国民はこの報道をどのように受け止めているのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんが、これまでの流れを振り返りながら、ロシア国民がプーチン大統領に対して抱いている感情ついて詳しく記しています。
神プーチン、大統領選に立候補を表明。現地の反応は??
6日、「プーチンが大統領選への立候補を表明した!」というニュースがありました。今回は、その話。
プーチンは、2000年に大統領になりました。当時、ロシアは「新興財閥軍団」に牛耳られていた。プーチンも、新興財閥のドン・ベレゾフスキーに選ばれて大統領になったのです。しかし彼は、就任早々、軍団を裏切ります。そして、新興財閥の3人の大物、すなわち
- ベレゾフスキー
- グシンスキー(ロシアのメディア王)
- ホドルコフスキー(ロシアの石油王)
を短期間で退治します。ベレゾフスキーは、ロンドンに逃亡。グシンスキーは、イスラエルに逃亡。ホドルコフスキーは、捕まってシベリア送り。
経済面でも追い風が吹いていました。1998年、バレル10ドルだった原油価格は、プーチンが大統領になるのを待っていたかのように上昇。なんと10年後には140ドルまで上がります。これで、プーチンの1、2期目(2000~08年)、ロシアは年平均7%の成長をはたした。ロシア国民は、プーチンのことを「神」とあがめるようになったのです。
08年、「大統領は、2期連続までしかできない」という規定にしたがい、プーチンは引退。なんの基盤もないメドベージェフが大統領になりました。プーチンは、立場的にはナンバー2の首相になります。メドが大統領だったとき、「ロシアーグルジア戦争」がありました(08年8月)。しかし、その後、米ロ関係は「再起動時代」に入り、とても良好になった。
2012年、プーチンが再び大統領になりました。任期は、6年に延ばされています。プーチンは、早速戦いを再開しました。まず、シリア問題でアメリカと対立した。ついで、2014年3月、クリミアを併合。以後、経済制裁、原油価格暴落、ルーブル暴落で、ロシア経済は、厳しい状況が続いています。しかし、プーチンの支持率は下がらないのですね。クリミア併合後、一貫して8割台を維持しています。なぜ?
経済的に苦しいのは、そのとおりです。しかし、ロシア国民は「プーチンのせいで景気が悪い」という発想にならない。「制裁を主導している悪いアメリカのせいで、俺たちは苦しいのだ!」と、国民は信じているのです。
変な大統領選
さて、2018年3月、ロシアでは大統領選挙がある。しかし、「大統領選挙戦」というのは行われていません。誰も、「私に投票してね!」という運動をしていません。テレビCMも、新聞広告も、ありません。いままで「大統領選に出馬する意向」を表明した人はいます。
- クセニヤ・サプチャク
元サンクトペテルブルグ市長(=プーチンの元上司)の娘。 - グレゴリー・ヤブリンスキー
リベラル政党「ヤブロコ」代表。 - アレクセイ・ナヴァリヌィ
カリスマ・ブロガー。現在ロシアでもっとも人気のある、反政権指導者。 - セルゲイ・ポロンスキー
ロシアの元不動産王。
大統領選挙まで、後4カ月。アメリカみたいに2年も選挙戦というのは長すぎますが。ロシアみたいに、「何もない」のも異様です。
12月6日という日
この日、全ロシア国民は、悲しんでいる人、憤怒している人にわかれていました。なぜ? 理由は、こちら。
IOC、ロシア選手団の平昌五輪参加認めず 潔白選手には参加の道
BBC NEWS 12/6(水)13:00配信
国際オリンピック委員会(IOC)は5日、組織的なドーピングが指摘されるロシアの選手団に来年2月の平昌(ピョンチャン)冬季五輪への参加を認めないと発表した。一方で、潔白を証明できる選手については、ロシアの国歌や旗を使わない個人としての参加を認める。
どうですか、これ? ロシア人選手は、「ロシアのユニフォームを使わず、ロシアの旗をかかげず」参加はできると。ロシア人選手が勝っても、ロシアの国歌は流れません。なんとなくイメージできますね。やはり日本人選手が勝ったら、日の丸が高く掲げられ、君が代が流れてほしいでしょう。
IOCの決定が原因で、ロシア国民は、嘆いたり、怒ったりしていたのです。そして、「行きたい選手を行かせるべきか? それとも国家として、完全にオリンピックをボイコットするべきか?」という激しい議論が起こっていました。これ、6日の前半のことです。
プーチンの立候補表明
ところが、ロシア国民の悲しみと怒りは、このニュースで吹き飛んでしまったのです。
プーチン氏、大統領選出馬へ…有力対立候補なく
読売新聞 12/7(木)0:43配信
【モスクワ=畑武尊】ロシアのプーチン大統領(65)は6日、西部ニジニーノブゴロドの自動車工場であいさつし、「ロシアの大統領の職に立候補する」と述べて来年3月18日に予定される大統領選に出馬する意向を明らかにした。
これが、夕方のニューストップ。そして、IOCの決定に関するニュースは、4番目か5番目の扱いになった。
来年3月にはプーチンが勝ち、6年続く4期目がスタートします。彼は、柔道、寿司好きの親日。北方領土を頻繁に訪れて日本人を激怒させた軽薄男メドベージェフよりずっとマシでしょう。
image by: Hadrian / Shutterstock.com