MAG2 NEWS MENU

大国を甘く見るな。中露を「敵」に設定した米国防長官の無知

トランプ政権初の国家防衛戦略を発表したマティス国防長官。同氏は中国とロシアを自国の脅威であると位置付けました。この戦略について、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際政治に詳しい北野幸伯さんは、「軍事費増加のための口実ならいいが、本気だとしたら大問題だ」と、厳しい見方を示しています。

マティス米国防長官、中ロは「修正主義国家」

アメリカのマティス国防長官は1月19日、国家防衛戦略を発表しました。どんな内容なのでしょうか?

トランプ政権初の国防戦略、中露と競争へ 「力による平和」実現する構え

夕刊フジ 1/22(月)16:56配信

 

ジェームズ・マティス米国防長官が、トランプ政権初の国家防衛戦略を発表し、中国やロシアを「戦略上の競争相手」と位置付け、北朝鮮やイランを「ならず者政権」と批判した。オバマ前政権の8年間で弱体化した米国だが、米軍の再建を進めて「力による平和」を実現する構えだ。

これを見ると、

ということですね。

「テロではなく大国間の競争が今や、米国の安全保障にとって一番の関心事だ」

 

マティス氏は19日、ワシントンでの演説で、こう言い切った。中国とロシアを国際秩序に挑む「修正主義国家」と非難し、米国の価値観と正反対の世界を目指すライバルだと強調した。
(同上)

アルカイダやISではなく大国中ロの方が脅威である。そして、中ロは「修正主義国家」だそうです。「米国の価値観と正反対の世界を目指す」というのは、「民主主義」ではなく「独裁主義」の世界ということでしょうか? 私たちも、「独裁体制が一般的な世界」には住みたくないですね。マティスさんの狙いは、なんでしょうか?

オバマ政権下の2013年から始まった国防予算削減のため、米軍では装備の老朽化や将兵の疲弊が目立つ。沖縄で相次ぐ米軍航空機の事故・故障の背景も、ここにある。マティス氏は「強い立場からの外交」を担保するため、強固な軍事力が必要だとの立場を表明。米軍の再建に向け、軍事費増額と軍備増強を明確に表明した。
(同上)

「お金ください」
「軍事費増やしてください」

国防長官が「軍事費増やしてください!」というのは普通です。そういうと、「なぜ軍事費を増やすのですか?」と聞かれます。マティスさんは、「中国ロシア北朝鮮イランが脅威だからです!」と答えるでしょう。ところで、この戦略はどうなのでしょうか?

アメリカは、なぜ冷戦に勝てたのか?

これ、「予算増」のためにはいいでしょうが、これが本気の戦略だとしたらかなり問題があります。

少し、冷戦時代を振り返ってみましょう。第2次大戦で、アメリカは、イギリス、ソ連と共に、日本、ドイツを打ち負かしました。戦後は、共産ソ連が最大の脅威になった。そこでアメリカは、どう動いたのでしょうか? そう、敵だった日本ドイツ西ドイツと組んだのです。日本、西ドイツの経済復興は順調に進み、世界2位、3位の経済大国になりました。アメリカは、日本と軍事同盟を結んだ。そして、NATOをつくり、欧州諸国をがっちり取り込みました。

しかし、ソ連は意外と強く、60年代には、「アメリカやばいもしれない」と思われるようになった。そこでアメリカはどうしたか? 70年代初めに、共産中国と組むことにした。

アメリカは日本と組み西欧と組み中国と組んだ。これで、「ソ連包囲網」は完成しました。そして、ソ連は91年に崩壊。アメリカは、見事冷戦に勝利したのです。

ところが今は…

今のアメリカはどうでしょうか? 冷戦時代のアメリカには、「民主主義、資本主義を、悪の共産主義から守る!」という大義名分がありました。日本も西欧も、これには大賛成で、日欧米は心を一つにしていた。

今は? アメリカが、本当に中ロに勝ちたければ、まずやらなければならないのは、日本欧州との同盟関係をさらに強固にすることでしょう。ところがトランプさんは、「NATOは時代遅れだ!」「NATO加盟国はもっと金を出せ!」などといって、同盟諸国を怒らせたり、不安にさせたりしています。

もう一つ、中ロに勝ちたければ、中ロを分断することを考えなければならないでしょう。ニクソンとキッシンジャーは、中国と和解することで、ソ連を孤立させました。同じロジックで考えるなら、ロシアと和解して、経済力、軍事力共に世界2位の中国に対峙するべきでしょう。

ところがアメリカは今、「ロシアにさらに厳しい制裁を課そう!」ということで、「プーチンに近い新興財閥ブラックリスト」を作成している。2月には、新たな制裁内容が発表されることになっています。これを喜ぶのは習近平ですね。米ロの仲はますます険悪になる。中ロ関係はますます良くなる

まったく愚かです。新刊にも書きましたが、大戦略でもっとも重要なことは、「誰が敵なのか決めること」「誰が味方なのか決めること」です。「中国とロシアが敵です」というのは、いくらアメリカでも厳しすぎます。どちらか一国を選ぶ必要がある。「中国とロシア、どっちが最大の敵ですか?」と聞かれれば、「当然中国です」となるでしょう。何といっても、中国は、GDPと軍事費で世界2位である。ロシアのGDPは、世界12位で、韓国より少ない。プーチンのキャラで異常に目立っていますが、もちろん中国の方が脅威です。

こう考えると、アメリカがやるべきことは、

  1. 日本との同盟関係を強固にする
  2. 欧州との同盟関係を強固にする
  3. ロシアと和解して中ロを分断する

となるでしょう。その上で、インド、ベトナム、フィリピン、台湾などとの関係強化が重要になってきます。というわけで、「欧州戦線でロシアと戦い、アジア戦線で中国と争う」というアメリカの国防戦略は、かなりヤバいといえるでしょう。「軍事費増加」という目的達成には「よい戦略」なのかもしれませんが…。

image by: Drop of Light / Shutterstock.com

北野幸伯この著者の記事一覧

日本のエリートがこっそり読んでいる秘伝のメルマガ。驚愕の予測的中率に、問合わせが殺到中。わけのわからない世界情勢を、世界一わかりやすく解説しています。まぐまぐ殿堂入り!まぐまぐ大賞2015年・総合大賞一位の実力!

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ロシア政治経済ジャーナル 』

【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け