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強行採決「高度プロフェッショナル」が日本でグダグダになる理由

5月31日に衆議院を通過した、働き方改革関連法案。はたしてこれで、労働条件の改善やQOLの向上は実現するのでしょうか。今回の無料メルマガ『日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信』では、AJCN Inc.代表公益財団法人モラロジー研究所研究員の山岡鉄秀さんが、自身の海外就業経験と比較して痛感した、日本ならではの「高プロ制度」4項目義務化+1の必要性を強く提言しています。

高度プロフェッショナル制度は日本で機能するか?

全世界のアメ通読者の皆様こんにちは。山岡鉄秀です。

今回は、5月31日に衆議院を通過した働き方改革関連法案に含まれる、いわゆる「高プロ制度」について考えてみました。高プロ制度とは、簡単に言うと、

特定の対象業務を行う一定の年収(とりあえず1千75万円以上)の労働者について、一定の条件を満たす場合に、残業代の支払義務等がなくなる制度

ですね。まず結論から言うと、「このような制度は世界的には珍しくなく、メリットもあるが、今のまま日本で適用するのは危険だから、もう少し手を加えた方がよい」というのが私の意見です。

私事ですが、オーストラリアで大学院を出てから、いわゆるグローバル企業で長く働きました。現地の労働法も勉強して、労務管理にも取り組みました。多民族社会での労務管理は本当に大変で、正直、今思い出してもゾッとします。まず、オーストラリアの文化がベースとしてあって、その上に様々な民族性が乗っている感じです。

その文化の違い、ということが、この問題を考える上で、非常に大切だと思います。

オーストラリアでは基本的に年俸制で、特にIT企業では、ノートパソコンを持って、いつどこで働いてもいい傾向が強かったですね。そもそも、上司が国内に居ないことも珍しくありません。だから、自己管理が基本。私用で朝遅くなっても、午後早く帰っても、特に報告の義務もなし。仕事の結果さえきっちり出せばいいわけです。高度なスキルが要求される成果物重視の業種では、この傾向がさらに強くなります。時間で縛っても意味がないから、当然のことではあります。

このシステムのいいところは、なんといっても柔軟性です。自分にとって最も効率の良い方法や、ライフスタイルに合わせて仕事することが可能になる。人によっては、午前中よりも夜働いた方がいいという人もいるでしょう。逆に言えば、それができなかったら意味がありません。そして、仕事に追われまくって、柔軟性もなにも無くなってしまう恐れは常にあります。

私自身も経験しましたが、オフィスにいると、「あ、こんな時間だ、そろそろ帰らなきゃ」という気持ちになりますが、自宅の自室で仕事をしていると、気が付いたら夜遅くなっていて、結局労働時間が長くなってしまった、なんてことはよくあることです。

高プロに反対する方々は、まさにこの点を心配して、「猛毒とか死の制度」と呼んだりするのですね。

さあ、そこで文化の違いが鍵になってくるわけです。

まず、オーストラリア人だったら、仕事が多すぎて、年俸と見合わなくなったらさっさと辞めて転職してしまいます。年俸が高くなると、労働法で保護される度合いも少なくなって、会社都合で解雇されても不当解雇で訴える権利を失ってしまいます。その年俸額は労働法で規定されていて毎年変わります。社員の首を切るために、わざと賃上げをする雇用主もいるぐらいです。だから、社員の方も、常により条件の良い仕事を探していて、見つかればさっさと移ります。1年もすると、周囲の顔ぶれがガラッと変わっているなんてことも珍しくありません。

なので、雇用者側も、社員をあまり追い詰めるといつ辞められるかわからないというリスクを常に抱えることになり、ブレーキとなります。社員の側も、過労死するまで働こうなんて考えません。長期休暇もバンバン取ります。とってもドライな世界なのです。

これ、日本ではどうでしょうか?

20数年ぶりに日本に帰ってきて、びっくりしたことがあります。

20代や30代の若い人たちが、理不尽な労働環境下でやせ我慢して働いているのです。どうやら、長く続いた就職氷河期の影響らしい。彼らは耐えるだけで、雇用主と交渉する気力も能力もありません。なんだか日本が貧しい国に見えてしまいました。

高プロの対象はハイスキルの高所得者だとしても、オーストラリアみたいにドライにいけるかどうか。

反則タックルをした日本大学アメフト部の選手みたいな奴隷状態にならなければいいが、と心配になってしまいます。今は空前の売り手市場だそうですが、日本ではどんなに景気がいい時代でも過労死が社会問題でした。

シドニーに取材に訪れたKAZUYA(@kazuyahkd)君たちが開口一番言ったこと。

「なんか、みんな楽しそうだよね?」

それが文化の違いというものです。

高プロ制度にも、労働者の権利と健康を守るためのルールはあります。年間104日以上、かつ、4週間で4日以上の休日を与えること。これは単なる週休二日の実施ですね。

さらに、健康確保措置として以下があります。

  1. 勤務間インターバル制度と深夜労働の回数制限制度の導入
  2. 労働時間を1ヵ月又は3ヵ月の期間で一定時間内とする
  3. 1年に1回以上継続した2週間の休日を与える
  4. 時間外労働が80時間を超えたら健康診断を実施する

まあ、妥当な気がしますが、驚いたのは、このうちのひとつだけ採用すればよいとのこと。はっきり言って、それでは全然駄目です。思い出してください。日本は、景気が良かろうと悪かろうと過労死が社会問題になるような国なのです。上記の4項目ぜーんぶ義務にしなきゃ駄目です。そうしても問題ないはずです。
企業にとっても、過労死させて社会的制裁を受けるよりもずっといいです。

そしてさらにもうひとつ、加えたいものがあります。管理職に研修を義務付けるのです。

日大アメフト部の監督やコーチのように社員をむやみに追い詰めるのではなく、人間として尊重して、常に明るく前向きな気持ちで働かせ、生産性を極大化するのがマネージメントの仕事です。それがわかっていない日本人の管理職、まだまだ多くないですか? これからは創造性こそが重要な時代ですよ。

これ、法律とかポリシーというより、道徳の世界に近いかもしれません。

曖昧だと批判する人も居るかもしれません。でも、日本人は欧米人のようにドライになれないんです。日本人が世界で尊敬される理由は合理性や論理性ではありません。高い道徳性です。だから、日本的経営というのは、道徳的価値観を大事にしなくては駄目だし、それを強みと理解して活用すれば日本は復活する、というのが長年海外で働いた私の意見です。

この点については、今後継続的に取り上げて考察して行きたいと思います。

高プロ制度を支持する方も少なからずいらっしゃいます。前述の通り、世界では珍しくありません。だから、導入すること自体には反対しませんが、<前記4項目プラス1の実施>を条件とすることを提案します。

でも、竹中平蔵さんには反対されるかも!?

山岡鉄秀 Twitter:https://twitter.com/jcn92977110

image by: Shutterstock.com

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【著者】 アメリカ通信 【発行周期】 週刊、不定期

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