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仕事はこれからだ。安田純平さんが「これから伝えるべき」こと

10月にシリアの武装グループによる3年以上の拘束生活から解放された、ジャーナリストの安田純平さん。彼の行動について「国益」を問う元プロ野球選手の長嶋一茂氏の発言に対して、メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリストの引地達也さんは、違和感を覚えながらも、一般の人々が長嶋氏と同じような感覚を持つことについて冷静に分析し、さらに大阪「黒門市場」のインバウンド成功例の話をひきながら、ジャーナリストという職業の役割についても考察しています。

知ることから始まった大阪・黒門市場の再生

内戦中のシリアで武装勢力に拘束されたフリージャーナリストの安田純平さんが解放されたことで、テレビに出演しているコメンテーターや識者といわれる方々からいろいろな所見が出されている。

ジャーナリストの価値そのものがソーシャルメディアの発展やマスメディアの衰退と言われる時代に落ちていく中にあって、そのコメントにはやはり世相を映し出す日本社会の心情も浮かび上がってくるようだ。

元プロ野球選手の長島一茂さんが、安田さんの行動で導かれる国益を問い、ネットメディアで賛否が繰り広げられた。私も違和感を覚えたが、長島氏の発言は多くの人にも宿り始めた感覚かもしれない、と冷静になって考えてみる。

それは、ネット社会の広がりは、自分とは遠いところとつながっていることで豊かさを享受しているはずなのに、自分とは関係のないところは「知らない」という感覚なのだろう。

先週末に約20年ぶりに大阪の黒門市場を訪れ、その様相の激変にはのけ反る程驚いた。外国人観光客の人波、そしてその人波を売上に変えようとする商都、大阪のプライドのぶつかり合いに圧倒されてしまった。

フルーツを使ったデザートや肉や海鮮物を焼いたBBQ料理、どれも歩きながら食べるには単価は高い。しかし中国語を話す一団(私が見る限り一人旅はいなかったように思う)は楽しそうに現ナマのお金を出し、そこで焼いたホタテや神戸牛に食らいつく。気持ちの良い消費行動だ。

かつて、少しさび付いたような印象だった黒門市場が息を吹き返したようで、インバウンド対応として、黒門市場の協同組合が一体となって取り組んできた成果だということを後から知った。日本政府観光局は「商店主たちに備わった商売への強い意欲、大阪の商人魂」の結果と評する。

つまり、「外国人観光客が増えていることに気づいた翌年に和服姿で外国人観光客を案内するコンシェルジュを商店街に配置。コンシェルジュが案内の途中で外国人観光客にアンケートを実施するようにし、アンケートで得た要望内容を分析。どのようにしたら満足度向上につながるかを検討し、さらなる対応策のアイデアを練った」という。

そして生まれたのが、「食の好みに合った商品」「気軽に食べ歩きできるよう串焼きにする工夫」「店先で食べられるようテーブルを置く」だ。 こうして、商店街は活気づいた。

消費者のニーズという情報を得て、分析して行動に結びつけたわけで、私たちは常に新しい情報をもとに、その繰り返しを行っている。特に知らないことを知ろうとする努力は、時には知力を要したり、時には体力を要する場合もある。

つながっていることの否定は閉塞社会を生む

安田さんは「新しい国家」の概念になろうとするISというものを知るために、トルコから国境を越えシリアに渡った。それは人類として何ら恥ずべき行動ではないと思う。

大陸から来る方々が日本を楽しみ、そして消費行動をすることによって黒門市場が生き返ったように、国家イデオロギーのぶつかり合いとは別につながっている事実がある。だから、お互い罵り合うべきではない。

シリアに話を戻せば、私はある高校での講演で、疲弊した農民にIS(イスラム国)がアサド政権の間違いを説き、味方につけ勢力を拡大していったという欧米ジャーナリストの見方を知らせたことがある。

その時に説いたのは、世界平和のために、シリアの農民を救うために新しい農作物や牛の飼育技術で貧困から救う手もある。その技術を獲得するために勉強をしてみてはどうか、ということを話した。

世界を分断するのも、つながっているとするのも、個人の考え方ひとつだが、つながっていることを否定するのは、結局は自分中心となり、視野が狭まってしまい、閉塞的な社会になる。

そうなれば黒門市場も活性することはないだろう。安田さんはつながっていることを伝える人だった。拘束されたことは不本意であろうが、仕事はこれからだ。拘束の間に見た現実や地獄を生きた日本語で伝えてほしいと思う。

image by: MAG2 NEWS

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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