防虫剤や殺虫剤に含まれる成分の中には、昆虫だけではなくペットや人間にも害を及ぼすものもあるようですが、素人には容易に判別することができません。今回の無料メルマガ『アリエナイ科学メルマ』では著者で科学者のくられさんが、ペット用のノミダニ駆除剤に含まれている成分の化学的特性を解説したうえで、費用対効果面も含めた安全性について解説しています。
ペット用 ノミ駆除剤の話
最近Amazonのレビューでとにかく悪評が立っている「アース・バイオケミカル 薬用アースサンスポット」が話題になっています。名指しで商品批判する…というわけではないのですが、実は我が家でも過去に使用後、具合が悪くなったこともあり、個人的にも要注意な商品ではありました。その後、ノミ駆除にはフロントライン一択で、必ず獣医さんのところで買っております。
そういうこともあり、各社の首元に垂らしてノミダニ駆除を行う薬剤の成分をチェックしました。
- 薬用アースサンスポット 6本入り(1,800円前後)
フェノトリン、ジョチュウギクエキス、ピリプロキシフェン - CattyMan 薬用ペッツテクト 猫用 3本入り(1,400円前後)
フェノトリン、dl・d-T80-アレスリン、ピリプロキシフェン - バイエルメディカル アドバンテージプラス 猫用 3本入り(1,400円前後)
イミダクロプリド、ピリプロキシフェン - ベーリンガーインゲルハイム 猫用フロントラインプラス 6本入り(4,500円前後)
フィプロニル、(S)-メトプレン - ゾエティス レボリューション 6本入り(5,000円前後)
セラメクチン - ファイザー ストロングホールドプラス 3本入り(3,300円前後)
セラメクチン、サロラネル
こうやってみると、薬用アースサンスポットは圧倒的に安いので、これで安全であれば特に問題はなさそうなのですが、意外なくらいに各社成分がマチマチです。
以降、これらの成分をそれぞれ紹介していくのと、使って良い場合、使わないほうが良い場合なども含めて解説していこうと思います。
フェノトリンとdl・d-T80-アレスリンは殺虫剤の典型成分であるピレスロイド系の殺虫剤です。哺乳類には毒性は低く、昆虫の神経系のナトリウムチャネルにフタをして神経伝達を止めてしまう物質で、哺乳類の神経のナトリウムチャネルのタンパク質の形が違うために毒性が出にくいわけです。
もちろん、神経には働かないからといって、他で悪さをしないということもないのですが、基本的に常識的範囲で使っている範疇では毒になることはまずありません。じゃないと売れません(笑)。
フェノトリンは人間用にもヒゼンダニの治療薬(駆虫薬)として外用剤が売られています。d-T80-アレスリンは据え置きの液体タイプの蚊取り装置によく配合されており、これでペットが中毒したりということは滅多にありません。
イミダクロプリドはネオニコチノイドという分類の殺虫剤で、昆虫類に微量で劇的に効くのですが哺乳類にも比較的毒性が出る可能性があるため、使用量はかなりコントロールされていて、人間や哺乳類に通常使用量で問題が出るとは思いがたいです。
いずれもハ虫類のように体重の軽い生き物やエビや熱帯魚には毒性がある(特に後者はてきめんすぎる)ことがあるので「蚊だけを倒す薬」ではないことを知っておきましょう。昔カブトムシが死んでしまうというクレームの裏側に、カブトムシの真横に蚊取りベープを焚いていたという事例があったくらいです。
ピリプロキシフェンは昆虫のホルモンに類似した構造をしており、これを取り込んだ昆虫は脱皮をするためのタンパク質が用意できなくなり成長できずに死んでしまいます。また昆虫のホルモン剤なので、より一層動物へは負担が少ないモノとなります。
メトプレンも昆虫のホルモンに似せた物質でサナギになることを邪魔する物質で、哺乳類には毒性はものすごく低いです。なんせ脱皮しませんから(笑)。ただ成虫には意味が無いことや、すでにいるものを速効駆除することが困難なので、他の殺虫成分と併せて使われているわけです。
セラメクチンは多くの寄生虫に幅広く効果があります。フィラリアのような内部寄生虫にも効果があり、またノミにも選択的なくらいによく効くことから非常に優れた成分であり、獣医が好んで使うのも、過去の中毒例などの少なさからです。
サロラネルはさらにヒゼンダニ(疥癬)やマダニにも高い効果が得られるのですが、セラメクチンとは混ざり合わないため、合剤化が難しかったのをファイザーが解決し商品化したもの。現在ペット用の首元にたらすスポット駆虫剤では最高の製品といえますが、値段も最高です(笑)。
話は戻って薬用アースサンスポットで中毒が起きた可能性で、一番怪しいのがジョチュウギクエキスです。天然物の除虫菊の抽出液ですが、こうした天然物の抽出物、エキスは度々ロットによって不思議な成分を含みがちで、これほどほど不安定な成分はそうそうありません。つまり商品が均一の性能になりにくい物体といえます。
また報告が近年急激に増えている(正確な統計データはありませんが)としたら、そうした不安定要素が原因の可能性はあります。もちろん、溶剤のロットが悪かったのか、そもそも老猫や子猫に規定以上の使用をした例で普段起きているレベルの中毒報告が、たまたまネットという場所で多く見えただけかもしれません。
なのでこの商品が害悪であるとは断定してはいけませんが、自分はフロントライン信者なので、フロントラインを獣医さんで買ってきて使います。が、しかし、屋内飼育で衛生管理をしっかりしているので、そもそもノミが発生する環境ではないので使っていません。
特に老猫は代謝機能が弱まっている場合が多いので、普通の成猫に無害な物質でも、負担になることもあるかと思います。特にピレスロイド系は個人的に注意が必要ではないかと思ってます。
ともあれ、何かあったときに獣医さんに連絡ができるよう、基本的に獣医さんでもらってくるのが正解ではあります。あくまで個人的な成分的見解ではフロントラインに次いでアドバンテージプラスがオススメです。
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