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五輪後5年でおとずれた「ギリシャ危機」、東京2020は大丈夫か?

2009年に莫大な財政赤字が発覚し始まった「ギリシャ危機」は、2004年のアテネ五輪当時、国民の誰もそんな心配をしていませんでした。その五輪以来、久しぶりにアテネの地に立ったのは、メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリストの引地達也さん。夢とプライドに満ちた五輪開催からどん底を味わい、なんとか立ち直りつつあるギリシャのいまを確認しながら、2年後に迫った東京2020の「その先」に思いを馳せています。

五輪開催から14年、ギリシャの新しい世界

久々にギリシャの首都アテネで過ごした。2004年のアテネ五輪の取材で大会期間中と前後の真夏の太陽を日々浴びた時から14年ぶりである。あの日々、ギリシャには希望があった

オリンピアの聖地に五輪が帰ってきたことは、ギリシャ人のプライドを回復させたし、莫大なオリンピック予算にもEUの一員として「うまくやっていける」ような楽観的な希望があった。しかし、オリンピックの莫大な費用は国家財政を締め付け、2009年の政権交代をきっかけに公表よりも莫大な財政赤字があることが発覚することから、「ギリシャ危機」は始まった

10年近くにわたるギリシャの黄昏を経て、久しぶりに見る首都アテネはやはり古代遺跡の存在感は圧倒的で、観光地には観光客が群れをなす。ここ2年間で財政収支が黒字に転換したという自信とあらたな楽観も垣間見られるアテネ。相変わらずのホームレスの姿も目にしながら、やはりまだまだ光と影が点在しているようにも思う。

英BBC等の欧州メディアによると、ギリシャは今年8月に債務危機からの脱却に向けた3年間の欧州連合(EU)からの金融支援プログラムを終了、欧州安定メカニズム(ESM)は計619億ユーロ(約7兆8200億円)を支援。ギリシャ政府や金融機関の資本構造の改革に充てられた資金だ。これに加え国際通貨基金(IMF)の支援や融資を含めると2010年から2600億ユーロ以上となり、「国際金融史上で最大の救済プログラム」(BBC)である。これに応じたギリシャの政府の緊縮財政政策も真剣だった分、国民の反感も根強い。

それでもギリシャはEU離脱を回避し、近代国家としての存在感を示した、という見方も成り立つが、先行きは不透明だ。ギリシャ支援の旗振り役だったドイツのメルケル首相が引退を表明しており、ジャン=クロード・ユンケル欧州委員長、マリオ・ドラギ欧州中央銀行総裁も来年には勇退する。ギリシャ救済に積極的だったプレーヤーがいなくなる。その後はどうなるのだろうか。

私が滞在中の日曜日、その日は午後から中心部の商店街はシャッターを下ろし始めた。シエスタと思いきや、学生蜂起を記念する大規模なデモが予定されていて、アテネ中心の国会議事堂につながる周辺道路は機動隊のバスが道を封鎖する格好で、一般の警官のほか、催涙弾に備えたマスクを準備する機動隊が配備された。デモ側の最前列はバイク用のヘルメットとこん棒をもった若者たちが隊列を組み、スローガンを唱えながら行進する。

立ち直りつつある現状のギリシャからすれば、衝突するほどの爆発的なエネルギーはないから、デモにそれほど緊張感はない。しかし、ちょっとした小競り合いがヒートアップし流血の事態を招くデモを私は韓国で何度も見てきたから、平和で終わってくれと願う。健全な「街頭民主主義」を全うしてこそ、ギリシャの価値が高まるのだと思いながら。

支援プログラムの終了と財政支出の黒字化は「健全」の第一歩ではある。しかしながら、必ずつけがある。緊縮財政のしわ寄せは地方にまわる、年金が削減され、医療費などが圧縮、教育設備投資の不十分さと産業の衰退と失業、これらの不満がくすぶり、地方の不満が中央政権の存在を揺るがすケースは少なくない。最近では「イスラム国」と自称するISとシリア政府軍の争いは、シリアの中枢であるアサド政権のおひざ元から遠く離れた地方の不満が結びついて混迷化したのだ。

おそらく五輪はギリシャ国民に夢を見させてくれたのだろう。2004年のあの五輪期間中、数年後に国家が経済危機に陥るとは誰もが思ってみなかったはずだ。そこで突然、莫大な財政赤字が国民の前に差し出された。これは現実だ。私たちがそうならないよう、2年後の五輪開催に向けて夢を見ながらも、現実を捉えて、その後の未来をも考えて、五輪と向き合うべきだろう。

image by: shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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