ネット通販の攻勢に押される一方のように感じられるリアル店舗ですが、起死回生の一手はあるのでしょうか。今回の無料メルマガ『MBAが教える企業分析』では著者でMBAホルダーの青山烈士さんが、「価値を体験してもらうこと」にその活路を見出し話題となっている「自転車専門店」の戦略・戦術を紹介しています。
価値を伝える売り場
画期的な技術で話題の自転車を販売する店舗を分析します。
● Olympicグループが展開する自転車専門店「フリーパワーショップ」と看板商品である「フリーパワー」
戦略ショートストーリー
普段使いで自転車に乗る方をターゲットに世界初の「特許技術」に支えられた「漕ぎ出しが軽い」「ひざや足首にやさしい」等の強みで差別化しています。
「フリーパワー」の魅力を伝えるために、試乗用の坂道スロープを完備するなど、体感する環境を整えることで顧客の支持を得ています。
■分析のポイント
価値を伝える売り場
売り場に坂道とは、斬新なアイデアだと思いますし、坂道以外にも、フリーパワーと一般ギアの違いを体感できるエアロバイクも設置していることも新しい取り組みと言えるでしょう。
今回は、これらのような体感型の売り場の意味を考えてみましょう。
やはり、背景としてあるのは、良いものを作るだけでは、なかなか売れない時代ということです。そして、リアル店舗としては、ネットとの競争が激しいのが現状です。だからこそ、商品の価値を体験してもらうことが大事になります。価値を伝えるのに、最も有効な手段が「使ってもらうこと」です。
また、比較できることも、価値を伝えるには有効です。直接、自分で比べることができれば、商品の良さがより伝わりやすくなるからです。
体験できる、試すことができる、直接比較できるということは商品にもよりますが、現時点ではリアル店舗の方が優位だと思われます。
しかし、今までの一般的な自転車ショップは店内に多くの自転車をびっしり並べている印象です。モノを並べるだけならネットでもできますし、むしろ、ネットの方がより多くのモノを並べることができます。ですから、リアルな店舗を展開している企業にとっては「価値が伝わる売り場になっているか」という問いは非常に重要な意味を持ちます。
「フリーパワーショップ」の場合には恐らく「漕ぎ出しが軽い」という価値を伝えるにはどのような売り場作りが必要か考えたうえで、店内に坂道やエアロバイクの設置に至ったと思われます。これによって、リアル店舗の優位性を活かすことにつながっているわけです。
今後、フリーパワーが「価値を伝える売り場」を活かしてどのように拡がっていくのか注目していきたいです。
◆戦略分析
■戦場・競合
- 戦場(顧客視点での自社の事業領域):自転車店
- 競合(お客様の選択肢):自転車店 など
- 状況:電動アシスト自転車は好調のようです。
■「フリーパワー」の強み
一般の自転車と比較して「漕ぎ出しが軽い」
- シリコーンが回転に勢いをつけてくれる
- 長距離・坂道に強い
「ひざや足首にやさしい」
- 走行時の衝撃を吸収
- 長時間乗っても疲れにくい
電動アシスト自転車と比較して「充電が不要」
- バッテリーを積まないので車体も軽い
「安い」
- 電動アシスト自転車の半分くらいの価格
★上記の強みを支えるコア・コンピタンス
「特許技術」
- 世界初、画期的ギアシステム「フリーパワー」
→10年の開発期間を経て、「電池のいらないアシストギア」の開発に成功
上記のような、独自技術が強みを支えています。
■顧客ターゲット
- 通勤、通学や近所の買い物など、普段使いで自転車に乗る方
- 体力に自信のない方
- 長距離乗る方
◆戦術分析
■売り物
- 自社オリジナルのフリーパワー搭載車の他に、ブリヂストンやライトウェイなど、厳選した自転車のみを取り扱っています
- ギアのカラー(シルバーorブラック)やシリコーンの硬度は好みに合わせて変更することができます
- アクセサリーパーツも厳選した物のみを取扱っています
→サドルやグリップを変更して自分だけの個性的な一台にカスタムすることも可能 - 現在乗っている自転車にフリーパワーを装着することもできます
→一部取り付けできない車種もあるため、取り付け診断を無料で行っています - 他店で購入した自転車の修理も対応
■売り値
- フリーパワー搭載ファミリーサイクル「サラダ」及び「ディバイド」: 45,800円(税別)
- 現在乗っている自転車にフリーパワーを装着する場合:1万2,000~1万4,000円
■売り方
- 店内には試乗用の坂道スロープを完備し、「電池の要らないアシストギア」フリーパワーの効果を最大限に体感することができます
→フリーパワーのシリコーンにはソフト、ミディアム、ハードの3種類があり、自分に合ったシリコーン硬度を試乗して納得いくまで試すことができます - 試乗コース以外にも、フリーパワーと一般ギアの違いを体感できるエアロバイクも設置(Zwift)
→自転車とローラー台を繋ぎ、オンラインゲーム感覚で仮想空間のライドを楽しめます
■売り場
- 2018年8月に国分寺、11月国立にオープン(通信販売はしていない)
- 店内にはグリーンやソファを配置し、顧客がリラックスしながらゆったりと自転車選びができる空間となっています
- フリーパワーのセッティングや自転車修理の待ち時間などに利用できるカフェスペースも用意しています
→自転車に関する書籍が読めたり、本格コーヒーも無料で提供しています
※ 売り値や売り物などは調査時の情報です。最新の情報を知りたい場合は、企業HPなどをご確認ください。
image by: Olympic 公式ホームページ